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東京日比谷で、数々の名作を世に送り出してきたシアタークリエの10周年記念公演として、2017年1月4日〜2月4日まで上演される『お気に召すまま』。シェイクスピアの数ある作品の中で「最も幸福な喜劇」と呼ばれるこの作品は、「この世界はすべてこれ1つの舞台、人間き男女を問わずすべてこれ役者にすぎぬ」の名台詞でも知られる傑作喜劇。
今回演出を手掛けるブロードウェイの鬼才マイケル・メイヤーは、作品の設定を1967年のサンフランシスコに移し、原作世界のアーデンの森を当時世界を席巻していたヒッピームーブメントのただなかで、10万人を集めたロックフェスティバル「Summer of Love」の会場に置き換えて、ポップでロックな喜劇として描き出すという大胆な着想にアプローチ。音楽もやはりブロードウェイの才気トム・キッドが担当するとあって、まだ誰も観たことがない新たな『お気に召すまま』の誕生に大きな期待が集まっている。

そんな作品合同取材会が11月下旬都内稽古場で行われ、マイケル・メイヤーと、ヒロイン・ロザリンドを演じる柚希礼音が作品について、また稽古について語りあってくれた。

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まず時代設定についてマイケル・メイヤーは「シェイクスピアは様々な後世の読み解きによって上演されていて、では自分の生きた時代に置き換えて、とことんアメリカンなものを創ったらどうだろうかと考えました。自分自身の子供時代、1960年代には父が政府の仕事をしていて、ベビーシッターがヒッピーだった。そこから今に至るまでの、アメリカ大統領の変遷があり、その中心地であるワシントンD.C.を宮廷に、ヒッピーの聖地・ヘイト・アシュベリーをアーデンの森にというアイディアが浮かび、このアイディアは何年も前から温めていたので、今回日本でどうだろうか?と提示した時に『是非』という話になり、今こうして稽古に取り組んでいます」と経緯を説明した。

そこから、話はマイケルと柚希がお互いに感じている印象へ。マイケルが「ちえさん(柚希の愛称)は才能豊かで、勇気がありかつチャーミング。私がかなり挑戦的なことをお願いしても、積極的に試してくれる。かなりクレージーなことにでも(笑)。そのスタンスに頭が下がるし、感謝でいっぱい」と述べると、柚希が「メイヤーさんの作品に出演できることは本当に光栄だと思っています。本当にすごい方だと毎日、毎日実感していて。思いつきと計算力の両方が混ざり合っていて、作品を深く理解しておられるので、違う場面の稽古をしていても『あ、そういえばあそこは面白くないね』というような新しいアイデアがどんどん出てきて、毎日が本当に楽しいです。
それでいて厳しい、それがとってもありがたくて。ロザリンドという役に向かうには何が足りないのかを、この部分を突き詰めていかなくてはならないんだなと注意してくださるんです。『その歩き方が嫌だ』とか『その靴は嫌だ』とか、見た目のことにもとってもこだわってくださいますし、なぜこのようにするのかの意味をすごく教えてくださるので、今は山積みで本当に大変ですけれど(笑)、本番までにここへ向かえばいいのだということを、しみじみと理解できるので出会えて本当に幸せだと思っています」と語り、早くも互いを認め合っている様子が伝わってきた。

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また、柚希が演じるロザリンドが、劇中で男性を装う場面があることから、宝塚での男役の経験が役立つのでは?という質問にマイケルが「男性の役しか演じたことがないと聞いていたので、私にとってはそれが逆に驚きだった」と素直な感想を吐露。アメリカにそうした文化や伝統がないことをあげて「通常女優さんがこの役を演じる時に、最も心配する必要がある『男性を演じる』ことについて何が必要かということをわかっていてくれているから、その点に何の心配もないのがありがたい。その分の時間を、台詞の中の繊細な言葉遊びなどに注力してもらうことができる。また、逆にちえさんが、シャネルのようなドレス姿になるのがとても楽しみで、これは皆さんにとってもそうなのではないでしょうか?」と女性としてのロザリンドの場面について触れる。
柚希も「ロザリンドとしている最初のシーンは短いとは言え、ダンスでは経験がありますが、お芝居でワンピースを着ることも初めての経験なので、どのように歩き、どのように立つかというところも、戸惑いました。でもマイケルさんからの提案がとっても可愛いので、刺激を受けながら挑戦しています。そこから男の子になる部分も、長年培った男役をお見せするのではなく、ロザリンドが身分を隠して、男に見えた方がいいからと頑張って男を演じているという意図があるので、そこをしっかりやらないとなと思っています。しかもお小姓姿の若い男の子に扮するので、しっかりとしたカッコいい宝塚での男役とは違った、愛らしくて、コケティッシュな魅力を感じてもらえるように、女の子としても男の子としてもできればいいなと思っています」と答える。
マイケルは我が意を得たりとばかりに「もちろんだよ、その通り」と何度も相槌を打っていた。更に、では男装と言っても宝塚の男役とは違った挑戦になるのですね?という質問が重ねられると、柚希は「宝塚の男役には、100年以上続いた伝統があります。皆さんが、こうしたほうがより男らしく見える、ということをたくさん教えてくださる中で育ち、それを真似して自分なりのものを作ってきました。そこから今、外に出てみると、やはり自分が腑に落ちた、自分本体の感情がどのセリフ、どの動きでも生きていないと、女をしても男をしてもダメなんだと痛感しています。なので、培ってきたことを使い分けるのではなく、ロザリンドがオーランドに好きになってもらえるように、一生懸命なところに観ている人が共感してもらえるような、女の子であり、男の子の扮装でありたいと思っています。私自身の感情が出せて、私が演じているならではのものにしたいです」と力強く語った。
 
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またトム・キッドの音楽が劇中にどのように使われるかについてマイケルは「『お気に召すまま』はシェイクスピア作品の中でも特に音楽が多く登場する作品なので、今回の設定に合わせてフォークロックな音楽を欲しいと言っています。1幕の終わりに特に音楽が集中しているので、音楽的にもそこは楽しんで頂けると思います。役者の方達も何人かは楽器を演奏してくれるので、あたかもそこで即興で演奏しているような感覚で作ってもらっています」と説明。更にダンスの名手である柚希のダンスシーンは期待できるのか?との問いには「結婚式のシーンでは踊りはありますし、素晴らしい振付師もいるので期待して欲しい」との嬉しい回答もあった。
続いて日本のカンパニーの印象を問われたマイケルは「ちえさんを含め素晴らしい方達ばかり、皆さん大変な努力家です。特に生身の人間が演じるということにおいて、違う部分よりも共通する部分を多く感じられています。初日に全員で本読みをした時に、本当に色々なアプローチがあるなと思いました。まるで黒澤映画『七人の侍』に出ている方のような、烈しい熱を持ったパフォーマンスを見せてくれた方がいる一方で、注意深く役を模索されている方もいらして、本当に幅が広くどの役者さんも興味深いです。稽古を通じて、全員を同じゾーンに持っていくようにしていきたいと思います。そういう中で、経験豊富な男性陣の方々が出ている場面では、彼らに頼ったり、判断を委ねることもあります。何年も何年も古典的なお芝居をされてきたからこその知識と経験には頭が下がりますし、そういうエキスパートな方がカンパニーに参加してくれていることは、とても嬉しいことですね」と、日本のカンパニーを絶賛。
また柚希の目から見たカンパニーは「自分にとって2本目のお芝居で、長く宝塚にいたのでまだ1つの公演毎に新しい人たちとやること自体に慣れていないけれど、前回はザ・ミュージカルだったので、ダンサーさんや、シンガーさんがいらっしゃいましたが、今回はお芝居がメインなので、まだ緊張しています。でも、自分が育ってきたところとは全く違うお芝居をする方がたくさんいらっしゃるので、すごく刺激的で毎日勉強になります。自分が思ってきた台詞の音量や、抑揚のつけ方などにも、そうではないアプローチがたくさんあることを肌で感じる毎日です。しかも、ロザリンドはシェイクスピア作品の中で最も喋る女だそうなので(笑)、頭が良い知恵がどんどん働く女性を、これだけ素晴らしいカンパニーの方々の中で更に前に行けないとなりませんから、頑張りたいと思います」と決意を語った。

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 中でも、膨大な台詞で言葉遊びなどの部分も多いシェイクスピア作品だけに、翻訳の苦労は大きいようで、マイケルが「日本の皆さんが持っている日本語の台本と、私が持っている英語の台本があるんですが、例えばちえさんは日本語の台本から、私は英語の台本から理解しますよね。その私の言葉を通訳した時、ちえさんは『日本語の台本に書いてあるのはそうではない』となる。するとそれを改めて通訳して、私に戻し、それをまたちえさんに投げるという繰り返しを続けて、最後に『この言葉だ!』と同意に達する。でもまた、次の台詞で同じことが繰り返される」という聞いているだけで途方もない作業を明かす。
柚希は「そのプロセスに責任を持ってくださって、この言い回しで日本のお客様は本当に面白いの?と、全部確認してくださっています。ロックでポップな世界ですが、台詞は日本で訳されたシェイクスピアを使うのが逆に面白いということで、古風な言い方をあえて使う部分もあります。この日本語で、英語では韻を踏んでいることが分かるかな?とか、字で読んだら面白いけど、耳で聞いたらあんまり面白くないなど、細かい作業を1つ1つしてくださっている最中なので、より大変です」と説明。
その作業の中でマイケルは「でも、それがうまくいくと、満場一致で楽しさを共有して、感じることができる喜びがあります。もちろん物語に必要がないと判断すれば削ることもあります。お客様には3時間のどの一瞬を、どの瞬間をとっても、しっかりと感じ取って頂きたい。古風すぎることにこだわりたくはないし、シェイクスピアの比喩を日本語で生かしてあげたい。それができた時はとても興奮する瞬間だし、その価値があったという達成感がありますね」と意欲的。
柚希も「あまりに言葉巧みすぎる表現になりすぎていないか、現代の人が笑える日本語になっているかを考えながら、でも、シェイクスピアの素晴らしい表現ってあるので、そこはきっちりと残されつつ、かと言って大仰にもならず、リアルとシェイクスピアの魅力がちゃんと混ざり合った舞台を、追求してくださっているのが面白いです。すごくリアルな、血の通ったシェイクスピアになればと思っています」と目標を語ると、マイケルから「本当に頭の良い、素晴らしい表現をされる方ですね」と改めて柚希に賛辞が贈られた。

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最後に柚希から「マイケル・メイヤーさんとトム・キッドさんのコンビで、ポップでロックなシェイクスピアを上演するという、アメリカの方も感嘆されるだろうほど贅沢なことを日本させて頂いています。自分としても勉強することばかりですが、山のような挑戦を乗り越えて1月4日までには、生き生きとしたロザリンドとしてお客様の前に立っていたいと思います。シェイクスピアと聞くと私自身も敷居が高いような気がしていたのですが、シェイクスピアの素晴らしさをとってもリアルに、難しいところもわかりやすい表現にしてくださっているので、是非楽しみにしていらしてください」。
マイケルから「ちえさんのおっしゃったことがすべてですが、『お気に召すまま』はラブコメディとして、史上最高のものだと思っています。私にとってはすでに色々ななことを学ばせてもらった作品ですが、日本の素晴らしい役者さんと今回一緒にやることで、アメリカでやる以上に、シェイクスピアに対する理解と知識が深まっているように感じています。稽古場での芝居を観て私が感じている喜びを、少しでも日本のお客様に感じてもらえれば。そして1月4日にはシアタークリエで盛大なパーティーが開かれるように願っています。アリガトウゴザイマス!」とそれぞれ挨拶。公演への大きな期待が高まる時間となっていた。


〈公演情報〉
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『お気に召すまま』
作◇ウィリアム・シェイクスピア
演出◇マイケル・メイヤー
音楽◇トム・キット
出演:柚希礼音、ジュリアン、橋本さとし、横田栄司、伊礼彼方、芋洗坂係長、平野良、古畑新之、平田薫、武田幸三、入絵加奈子、新川將人、俵木藤汰、青山達三、マイコ、小野武彦 ほか
●2017年1月4日〜2月4日◎シアタークリエ
〈料金〉11,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777


【取材・文・撮影/橘涼香】


柚希礼音主演『お気に召すまま』




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