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豊かな歌唱力とおおらかな温かさで星組を牽引したトップスター北翔海莉と、その相手役として輝いたトップ娘役妃海風の退団公演である、宝塚星組公演グランステージ『桜華に舞え』─SAMURAI The FINAL─、ロマンチック・レビュー『ロマンス!!(Romance)』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(20日まで)。

グランステージ『桜華に舞え』─SAMURAI The FINAL─は、西南戦争に散った西郷隆盛の片腕、桐野利秋を、世に知られた「人斬り半次郎」としてではなく、己の信じる義を貫き通した最後の侍として描いた齋藤吉正の作品。去りゆく北翔海莉のイメージを歴史の登場人物に重ね合わせた意欲作となっている。

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幕末の動乱期に、雄大な桜島がそびえる薩摩藩の貧しい城下士の家に生まれた中村半次郎(後の桐野利秋・北翔海莉)は、幼馴染の衣波隼太郎(紅ゆずる)と共に、攘夷を成し遂げる為に京に上る日を夢見て、剣術の稽古に明け暮れていた。ある日半次郎は縁あって薩摩の英傑西郷吉之介(後の西郷隆盛・美城れん)と出会い、人と人が争うことのない、平和な世の中を作らなければならないという西郷の理想に感銘を受け、彼が目指す国づくりの為に命を賭けることを決意する。
やがて、隼太郎と共に京に上った半次郎は剣の腕で頭角を現し、薩摩を中心とする新政府軍と旧幕府軍の会津とが全面衝突した戊申戦争の最前線で、刀を振るう中で、自ら討ち果たした会津藩士大谷隆俊(美稀千種)の娘、吹優(妃海風)の命を救う。それは立場を全く異にする2人の、戦乱の中での出会いだった。 
時は流れ、明治維新後の帝都東京。半次郎は桐野利秋と名を改め、敬愛する西郷隆盛と同じ陸軍に籍を置き、陸軍少将としての任に当たっていた。一方幼馴染の隼太郎は警視隊の一員として、共に故郷薩摩=鹿児島を愛しながらそれぞれの道に邁進していた。そんな日々の中で利秋は、医学を学ぶ吹優の元を度々訪ね、記憶を亡くしている吹優に自分が親の仇だと打ち明けられずにいる後ろめたさを抱えながらも、穏やかな語らいの時に安らぎを見出していた。
だが、利秋の帝都での日々は、新政府への不満を抱える士族たちを救済する為朝鮮派兵を訴えていた西郷と、内政の安定を最優先とする大久保利通(夏美よう)の決裂によって一変する。陸軍大将の地位を辞し、鹿児島へと下野する西郷につき従った利秋は、日本の未来を隼太郎に託し帰郷するが、不満分子が西郷の元に結集することを恐れた政府と鹿児島の間に横たわる溝は、修復不可能なものとなってゆき……。

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幕末の動乱期に生きた人びとは、創作の世界でも数多く取り上げられていて、宝塚でもこれまで新撰組や、白虎隊などがその舞台を彩ってきた。勝者となり官軍となった者、敗者となり賊軍となった者、それぞれに信じる義があり、貫いた思いがあることが、様々なドラマを生む力となるのだろう。
そんな中で、西南戦争に至る維新の英傑西郷隆盛ではなく、桐野利秋を主人公に持ってきたところが、この『桜華に舞え』─SAMURAI The FINAL─の最大の眼目で、世にその人となりがさほどには知られていない人物なことが、創作の自由さを増している。実際、桐野が貫く信義、勇気、真心、情愛などを北翔の持ち味に重ね合わせ得たことが、作者の齋藤吉正の大きな功績であり、着眼点の勝利とも言えた。

なればこそ、西南戦争に散る桐野利秋の話でありながら、昭和維新を目指した青年士官たちの決起である「五・一五事件」から幕が開くサプライズや、その後舞台が戊申戦争に遡り、明治6年に飛び、更にまた幕末動乱期の11年前に遡るという、相当難解な時系列の混乱や、多用される薩摩弁の聞き取りにくさなど、作品に残る瑕疵がどうでもよくなるのは、この作品が北翔海莉の退団公演であるという、宝塚歌劇として最も大切な興行の主目的を十二分に果たしているからだろう。
星組のトップスターとして、今、宝塚を飛び立とうとしている北翔のこれまでの道のりが決して平たんではなかったことは、宝塚を愛するすべての人が知るところであり、彼女がこの場所に至ることができたのは、ただひたむきに己を信じ、誠実に精進を重ねた日々の賜物に他らない。そんなタカラジェンヌ北翔の軌跡と、常に温かでおおらかな人柄が、桐野利秋の信義に忠実でどこか不器用な生き様にすべて投影されているのは、見事としか言いようがなかった。その姿は正しく最後の侍であり、ドラマとしては当然悲劇に終わりながらも舞台に全員を従えた桐野=北翔の「泣こかい、飛ぼかい、泣こよかひっ飛べ!」で終わる、爽やかささえあるラストシーンに帰結する美しさには、宝塚歌劇ならではの美徳が詰まっているかのようだった。
 
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その感覚は、北翔1人でなく、死してこの国の肥やしとなると言い切る桐野の心に最後まで寄り添おうとする、吹優の妃海風にも、更に次代を担う紅ゆずる演じる衣波隼太郎に、義と真心を桐野が託し、隼太郎が確かに受け取ったと宣言する場にも脈々と息づいている。妃海の芯に強さを秘めた静かな佇まいは、どちらかと言えば元気溌剌のイメージがあった彼女が、トップ娘役という地位についてこそ獲得した柔らかさだし、これまでその器用さからコメディリリーフ的な役どころを与えられることが多かった紅が、星組のバトンをつなぐこの公演で、友情に厚く、己の信義故に悩み苦しむ役柄をナイーブに演じきったのは、何よりの収穫となった。会津藩士の生き残りとしてひたすら桐野を敵と追う八木永輝の妄執を表現した礼真琴、怜悧な役柄を大きな存在感で膨らませた川路利良の七海ひろき、隼太郎と思い合いながら、家の言いつけで桐野に嫁ぐ竹下ヒサの綺咲愛里の、次期トップ娘役に相応しい華やかさ、冒頭の展開を含め常にドラマを外から見る視点となった犬養毅の麻央侑希のスター性など、次代の星組を担う人材もそれぞれに働き場を得て輝いていたのが頼もしい。やはり退団公演にして、代表作を勝ち取ったと思える西郷隆盛の美城れんの適役ぶりと、それに相対した大久保利通の夏美ようのいぶし銀など、専科勢の活躍も見どころで、実に充実した中身の濃い仕上がりとなった。

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そんな芝居の後に続いたのが、ロマンチック・レビュー『ロマンス!!(Romance)』で、これまで多くの傑作を残してきた岡田敬二のロマンチック・レビューシリーズの第19作品目となる1本。ロマンチック・レビューシリーズはこのところ全国ツアーの演目としてよく目にしてきていたが、やはり大階段と80人になんなんとする出演者に彩られた大劇場レビューの豊かさには格別なものがある。これぞロマンチック・レビューと呼びたい、優しく美しい色合いがあふれるプロローグから、舞台には気品が満ちていて、まさに王道の宝塚レビューの趣き。今見るとどこかゆるやかにも感じられるテンポ感だが、それ故に、北翔の朗々たる歌声が劇場中に響き渡る様は圧巻。

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リストの「ため息」が使われたストーリー・バレエ、懐かしのロックンロール、情熱のボレロと、定番なればこその安心感に包まれた舞台は、北翔率いる星組にこそ相応しい。中でも、謝珠栄振付、玉麻尚一音楽による「友情」のシーンは、明日への扉を開けて飛翔していく北翔にオーバーラップされる、躍動感に満ちた惜別のシーンとして、強い印象を残した。
 
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全体に、北翔海莉、妃海風をはじめとした退団者たちの集大成として、馥郁たる香りを持った作品になっているのが素晴らしく、充実したサヨナラ公演となっている。

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【囲みインタビュー】

初日を控えた10月21日、通し舞台稽古が行われ、星組トップコンビ北翔海莉&妃海風が囲み取材に応えて、公演への抱負を語った。

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まず北翔が「今回、『桜花に舞え』と『ロマンス!!』が、 私ごとではございますが卒業公演となりました。 宝塚大劇場での公演を無事に終えまして、残るは東京のみのファイナル公演でございます。 待ったなしのノンストップで参りますので、とにかく全員が怪我をせずに、 全員揃ってゴールできることを目標に、そして、進化し続ける舞台を目指して頑張りたいと思います。どうぞよろしくお願い致します」
 
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妃海が「私もご一緒に退団させて頂くことになりました。 大劇場公演もとてもとても毎日充実していて楽しかったので、東京公演も瞬間瞬間を大切に過ごしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します」とそれぞれ挨拶。記者の質問に答えた。

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その中で、東京公演への抱負を問われた北翔が、いよいよラストだがまだまだ作品も男役北翔海莉を極められると思うので、最後の幕が下りるまで極め続けたいと意欲を語ると、妃海が舞台稽古をしていると退団の実感がなくなっていると、素直な心境を吐露。「退めるのやめたら?」と北翔にユーモアたっぷりに問いかけられ、腕にすがるようにして笑い合う微笑ましいシーンに、和やかな笑いが広がった。

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更に、それぞれの言葉で抱負を語り、作品の見どころを話す中で、北翔の包容力、妃海の北翔へのリスペクトぶりが伝わり、なんとも幸せな空気が場を満たす。その場にいる誰でもがほのぼのとした気持ちになれる、北翔&妃海コンビならではの温かい時間となっていた。

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尚囲みインタビューの詳細は、2017年1月7日発売の「えんぶ」2月号にも舞台写真と共に掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚星組公演
グランステージ『桜華に舞え』─SAMURAI The FINAL─
脚本・演出◇齋藤吉正
ロマンチック・レビュー『ロマンス!!(Romance)』
作・演出◇岡田敬二
出演◇北翔海莉 妃海風 ほか星組
●2016年10/21〜11/20◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


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