01_L3A9874

新トップスター珠城りょうを擁して、宝塚月組の選抜メンバーが挑むフレンチ・ミュージカル『アーサー王伝説』が、東京文京シビックホールで上演中だ(19日まで。のち、28日〜11月9日まで大阪梅田芸術劇場シアタードラマシティでも上演)。

2015年9月にパリで初演され、その後、ツアー公演としてフランス各地で旋風を巻き起こした、フレンチ・ミュージカル『アーサー王伝説』は、昨年、同じ宝塚月組が日本初演を行った『1789〜バスティーユの恋人たち〜』と同じ、ドーヴ・アチア氏の脚本・作詞・作曲による最新作。「岩に突き刺さった剣を引き抜いた者が王となる」という伝説で知られる、イギリス・ケルトに伝わる騎士道物語をドラマティックに描いた作品で、この月組公演が本邦初演となる話題作だ。

【STORY】

岩に突き刺さった聖剣エクスカリバーを引き抜いた少年アーサー(珠城りょう)は、ブリタニアの新王となり「統治はしても君臨せずに世を治める」という信念の元、祖国の栄光を取り戻そうと務める一方、未だ知ることのない自らの出生の秘密に苦悩し、孤独を抱えていた。そんなある日、隣国カリメルドが、かつて聖剣エクスカリバーを引き抜く権利を争ったメリアグランス(輝月ゆうま)の一味によって攻撃されていることを知ったアーサーは、カリメルドの独立を守る為に出陣。見事勝利を治めるものの、寛容の心を持ってメリアグランスを許す。そんなアーサーの姿に感動したカリメルドの領主の娘グイネヴィア(愛希れいか)は、アーサーに心惹かれ、アーサーもまた一目でグイネヴィアと恋に落ち、彼女を王妃として迎える。長く苦しんでいた孤独からようやく解放されたと喜ぶアーサーだったが、そんな彼の前に魔女モーガン(美弥るりか)が現れる。アーサーの父違いの姉であるモーガンは、辛酸をなめてきた己の人生と、王となり幸福をつかんだアーサーの人生を引き比べ、アーサーに強い憎しみを抱いていたのだ。
モーガンから知らされた出生の秘密に苦しみながらも、地位身分に関わらず、志ある若者を騎士とすると宣言したアーサーは、ブリタニアの都、キャメロットに忠誠を誓う円卓の騎士たちを迎え入れる。その中には、若く美しく、剣の腕も一流の湖の騎士ランスロット(朝美絢)がいた。王妃とは知らずグイネヴィアに相対したランスロットの直裁なまなざしに、ひと時心を揺らすグイネヴィア。そのゆらめきに乗じて、キャメロットを崩壊させようとたくらむモーガンの奸計が、アーサー、グイネヴィア、ランスロット三人の思いを翻弄させてゆき……。
 
21_G0A0545

イギリス・ケルトに伝わるアーサー王の物語は、宝塚でもこれまで小池修一郎の『エクスカリバー』、生田大和の『ランスロット』などが上演されて来ているが、それらと比べても、この『アーサー王伝説』は、神や魔女が登場するファンタジーの世界を描いて尚、重いテーマを秘めている。主人公たるアーサーは、常に重荷を抱え、試練に苛まれる。重ねた努力は思うように実らず、寛容の心を持って許した相手ばかりか、愛した妻や信頼した友にも裏切られる。もちろん、勝利もあり、成長も描かれるものの、それは、所謂勧善懲悪とは全く異なる、諦めの果てに尚赦しを選んだからこそ得られた苦い勝利だ。潤色・演出を担った石田昌也は、脚本家の大石静とタッグを組んだ『カリスタの海に抱かれて』でも「生きることは諦めること」という愛と夢の宝塚らしからぬテーマに取り組んでいたが、今回もまたある意味ファンタジー世界に昇華することなく、苦みのある同様のテーマに挑んでいて、宝塚の定型から常にどこかではみ出そうと試み続けて来た、石田らしいこだわりを感じさせた。

だが、そこは楽曲の魅力で牽引するフレンチ・ミュージカル。この『アーサー王伝説』も数々の魅力を持ったフレンチ・ロックなナンバーが、舞台を躍動させている。特に、この日本版の為に書き下ろされたナンバー「アーサー王讃歌」が、爽やかで希望に溢れ、結末の苦さを真の王の誕生に浄化して、輝かせる力に満ちている。円卓の騎士たちに礼を取られ、王として新たな道を歩み出すアーサーの姿が、月組の新トップスターとなった珠城りょうその人に重なり、作品のドラマと、新トップスター誕生という宝塚ならではのドラマが見事に合致して作り出された空気感には、やはり格別なものがあった。これこそが、今、月組で『アーサー王伝説』が上演されたことの意義を、何よりも伝えるものだったと言えるだろう。

03_G0A0204

そんな作品で、新たに月組の主演者としてデビューした珠城は、王となる運命を背負い、その責務と愛の間で揺れ動くアーサー王を、真摯にひたむきに演じている。若くして月組のホープに躍り出て、階段を駆け上がると言うよりも更に、数段抜かしで飛び上がりながらここまで上り詰めて来た人だが、これまでの舞台にあった任せて安心の、大人で盤石な個性が、常に孤独を抱え、思い悩んでいるアーサーという役どころを得て、心許なさも表出したのが新鮮だった。新トップならではの初々しさが、役柄の懊悩と上手く重なり、王の成長物語に説得力を与えている。こりにより新トップスター披露にして、新たな魅力と、役幅を獲得していて、今後に大きな期待を抱かせた。壮大なスケールの楽曲も良く歌っている。
そうした珠城のフレッシュさを引き出したのが、トップ娘役としてのキャリアを重ねている愛希れいかの存在であることは、論を待たないだろう。心から愛したはずのアーサーから、次第にランスロットに惹かれていってしまうグイネヴィアは、宝塚のヒロインとしては相当な難役だが、様々な経験を積んできた愛希ならではの表現力で、純粋さ故の惑いと悲劇として役柄に芯を通すことに成功している。それが引いては、グイネヴィアを許すアーサーの大きさにもつながり、新コンピのバランスも上々。せっかくの披露作品、2人の恋が成就する物語が観たかったという思いも正直あるが、それを先の楽しみとして残したのは、心憎いテクニックだったのかも知れない。

16_G0A0484
 
物語のキーマン、魔女モーガンに扮したのは美弥るりか。男役としては大柄な方ではないことが逆に、こうしたフレキシブルなキャスティングを支える力ともなっていて、妖しさも色気も凄味もある盤石の存在感。一転フィナーレでは小粋な男役姿も披露して、宝塚ならではの『アーサー王伝説』の魅力を存分に伝えていた。一方、騎士ランスロットに扮した朝美絢も、美貌の湖の騎士という設定を、納得させる美しき二枚目として役柄を活写。来年後半、雪組に組替えとなることが決まっているが、男役として確実に階段を昇っていて、今後の活躍にも期待が高まる。
また、メリアグランスの輝月ゆうまが、持ち前の歌唱力をフルに発揮して、堂々たる舞台ぶり。作品の歌唱面を一気に押し上げているのが頼もしい。魔術師マーリンの千海華蘭、少女の姿に化身した神アリアンロッドの紫乃小雪は、物語世界を客席に伝える役割をよく果たしたし、魔女モーガンの手下である小悪魔コンビの早乙女わかばと海乃美月が、蠱惑的な魅力をたっぷりと披露していて、これも新境地を感じさせた。更に、円卓の騎士として作品を支えた紫門ゆりや、貴千碧、貴澄隼人、輝城みつるらが、ビジュアルからも役柄を巧みに掘り下げ、それぞ個性的に表現していて見事だったし、アーサーの兄ケイに抜擢された佳城葵が、長いマイムもある大役を立派に演じて目を引いた。

総じて、ケルト地方の民族音楽をベースとして、ポップにアレンジされたフレンチ・ロックの魅力に乗せて、新トップスター珠城りょうと新生月組が新たな船出を飾っていたことが喜ばしく、月組の明日に期待の高まる公演となったのが何よりだった。

05_L3A9997

初日を翌日に控えた10月13日通し舞台稽古が行われ、月組新トップコンビ珠城りょう&愛希れいか、そして『アーサー王伝説』フランス版オリジナル公演プロデューサーであるド—ヴ・アチア氏が囲み取材に応じて、公演への抱負を語った。

37_L3A0229

【囲みインタビュー】

ド—ヴ・アチア 先ほど公演を観終わったばかりですが、心から感動しました。私は日本語は全くわからないのですが、時折目に涙が浮かぶほど大きな感銘を受けました。一観客として本当に素晴らしい作品だったと思います。フランスでも宝塚の評判は前々から聞いておりまして、『アーサー王伝説』を宝塚で演じてくださるということを光栄に思っています。私自身は宝塚の皆様に甘やかされているなと思うのです。と言うのも『太陽王』『1789』に続きまして、今回の『アーサー王伝説』が、宝塚での上演の3作目となりますので、本当に幸せです。そして日本版の新しい『アーサー王伝説』の演出、制作の皆様の素晴らしい技術、才能に感銘を受けました。皆様プロフェッショナルで、才能あふれる方達が揃っているなと感動しております。宝塚の皆様はブロードウェイの皆様にも匹敵する才能を持っていらっしゃるのではないかと思います。そして最後に役者の皆様、本当にお疲れ様でした。素晴らしかったです(拍手を贈る)。

33_L3A0216

珠城りょう
 皆様本日はお忙しい中、このようにたくさんの方にお集り頂き感謝致しております。今回私は、大劇場のお披露目の前に、この作品で初めて主演男役として舞台に立たせて頂きます。はじめお話を伺った時には『1789』を月組で上演させて頂いたこともあって、とても光栄に感じたのですが、素晴らしい楽曲の数々だったものですから、それに挑戦させて頂ける喜びと、本当に自分がこなして行けるのか?という不安と、両方の気持ちが同時に押し寄せて来て、しばらくの間ずっと心臓がドキドキしておりました。ですが、お稽古を進めていく内に、本当に今の月組の温かいカンパニーの中で、1つの作品を創りあげることがどういうことなのか、その1人1人の大きな力を感じながら、日々お稽古に励んで参りました。いよいよ明日が初日になりますが、今自分にできる精一杯の舞台をお客様にお見せできればいいなと思いますし、この新しいケルト音楽がベースになっているフレンチロックのミュージカルの音楽も楽しんで頂けたらと思います。また今回から愛希(れいか)とトップコンビとして組ませて頂くことになるので、そちらの方も皆様に楽しみにして頂けたらと思います。
アチア 珠城さんはすごく成功なさったと思います。と言うのも、彼女からは王としてのカリスマ性を強く感じましたので、そう言った意味で素晴らしい役になったのではないかと思います。
珠城 ありがとうございます。

36_G0A0678

愛希れいか
 皆様本日はお集り頂きましてありがとうございます。今回も『1789』に引き続き、こうしてフランスのミュージカルをさせて頂けるとお聞きして、すごく幸せで、やはり月組で公演させて頂けることを、珠城さんがおっしゃったように私も光栄に感じました。この作品は人数も大劇場に比べて少なく、音楽もとても難しいロック・ミュージカルで、お稽古では苦労する点もたくさんあったのですが、今こうして舞台稽古を終えてみてこの作品ができることを大変幸せに感じました。宝塚らしくフィナーレもついておりますので、その辺も楽しんで頂けたら。新たな月組のスタートに、しっかり私も力になれるように精一杯頑張りたいと思います。本日はありがとうございました。
アチア 愛希さんは『1789』でマリー・アントワネット役を演じておられましたが、それと同じくらいこのグイネヴィア役もとても上手だったと思います。私も大変感動しましたし、観客の皆様にも感動を与えられたのではないかと思います。
愛希 ありがとうございます。

31_L3A0213

【質疑応答】 

──月組の新トップスターになられた珠城さんの立場と、王となるアーサーの立場が観ていて重なって感じられたのですが、ご自身はどう感じられていますか?
珠城 きっと(演出の)石田先生も、これから月組の皆と一緒にやっていく私自身と重ねて書いてくださった部分もすごくあるのではないかと思います。そういうところにも先生方の深い愛情を感じています。ただ、お稽古を積み重ねて行く段階では、アーサーがどういう人物なのか?を考えながら作って行ったので、それが最終的にご覧になられるお客様にとって、珠城りょうと重なって見えるのでしたら、大変ありがたいことだと思いますが、私自身はアーサー王としての人生をしっかり生きていきたいなと思ってお稽古に取り組みました。
──どういう人物だととらえていますか?
珠城 最初は自分自身の出生の秘密をずっと知りたがっていて、常にどこか不安定だったり孤独を感じていたり、自分の居場所がどこなのかというのがわかっていない状態という、描かれ型をしているのですが、それがグイネヴィアと出会い、また親友と言いますか、戦友と呼べるようなランスロットとも出会い、たくさんの部下たちとも出会って、1歩1歩着実に前へと歩みを進めている。途中アリアンロッドが試練を与えるのだ、と言っていますが、そういう試練を乗り越えて、変わって行き、大きな人物になっていきます。愛と寛容の精神で人々を包むというのが、常にベースにあると思うので、そこを1番大事に作っています。

32_L3A0215

──改めてコンビとして組まれて、愛希さんから見た珠城さんは?
愛希 この作品をさせて頂いて、アーサー王を演じられているのを見て、今言われた、寛容の心とか、寛大な心とか、そういうアーサー王の人物像と(珠城さんが)同じだなと感じます。とても広い心ですべて受け留めてくださいますし、そして何事にも真っ直ぐに向かわれるところなども似ていて、魅力だなと思います。
珠城 ありがとうございます!
──珠城さん率いる新生月組は、どのような組に?
珠城 まだ全員でスタートしていないので、どうなるかはわからないのですが、私だからということとはつながらないかも知れませんが、私自身もそうですし、月組としてもそうなのですが、常にのびしろをお客様に感じて頂けるような舞台作りと、舞台人でありたいなと思っています。その点ではエネルギッシュで力強く、明るく務めていけたらいいなと思っています。今月組としてはとても個性豊かで、1人1人の役者の力がすごく大きいことが粒だっていると思うので、これからもその個性というものが消えずに、全員集まった時にもより大きな波となってお客様に感動をお届けできたらいいなと思います。
アチア 私の個人的な意見ですが、新生月組が大成功を収めるのではないかなと思いますし、その中でもトップの珠城さんが素晴らしい成果をあげられるのではと思っています。
珠城 ありがとうございます。

40_L3A0237
38_L3A0233


〈公演情報〉
宝塚月組公演
ミュージカル『アーサー王伝説』
The Musical ≪LA LEGENDE DU ROI ARTHUR≫
 Produced by DECIBELS PRODUCTIONS, Dove ATTIA
 International Licensing & Booking, G.L.O, Guillaume Lagorce, info@glorganisation.com
潤色・演出◇石田 昌也
出演◇珠城りょう、愛希れいか ほか月組
●10/14〜19◎文京シビックホール
〈料金〉S席8,800円 A席6,000円
〈問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)
●10/28〜11/9◎梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈料金〉全席7,800円
〈問い合わせ〉梅田芸術劇場シアタードラマシティ 06-6377-3888(10時〜17時半)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/






【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


kick 

shop 

nikkan 

engeki