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初演、再演と人気と評判を高め、今回、3度目の上演となった音楽劇『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』。2014年、2015年に引き続き、今年も草月ホールで、本日、10月5日から開幕した。(10日まで)
明治の世に天才とうたわれながら短命に散った作曲家・瀧廉太郎のドイツ留学時代を題材に、友情と音楽作りの青春を、彼が作った名曲の数々とともに描いていく作品だ。

【物語】
1901年(明治34年)7月のドイツ。留学中の瀧廉太郎(和田琢磨)のアパートに岡野貞一(原田優一)が訪ねてくる。岡野は瀧に唱歌の作曲を依頼しに、ドイツまで訪ねてきた文部省の役人、野口貞夫(佐野瑞樹)の通訳として渡欧してきていた。同じアパートに住む幸田幸(愛加あゆ)と幸の世話をしているフク(星野真里)が岡野の相手をしていると瀧廉太郎が帰ってくる。久しぶりの再会を喜ぶ岡野に対し、素っ気無い瀧。親友と想う瀧の態度に戸惑う岡野。そして謎の男・基吉(白又敦/服部武雄 Wキャスト)も現れて…。東京音楽学校の同窓生、幸田幸も交えて語られる瀧の真実とは……。

この作品で、瀧廉太郎の友人として登場する岡野貞一役を演じる原田優一、そして当時は珍しい女性留学生でヴァイオリニストの幸田幸に扮する愛加あゆという2人に、この作品にかける思いを話してもらった。

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場面の変わり目ごとに名曲が絶妙に入っている
 
──今回で三演目という人気作品ですが、初演から出ている原田さんから見て、この人気の秘密というのは?
原田 まず、題材に日本の唱歌とか皆さんのよく知っているものが出てくることと、恋愛もあれば友情もあります。観ている方の心に触れる部分が沢山あると思います。とくに劇中で使われている「荒城の月」や「花」をはじめとする瀧廉太郎の作った名曲が、場面の変わり目ごとにとても絶妙に入っていて、それが観ている方の心に響くのではないかと思います。
──初参加の愛加さんは幸田幸という女性の役ですが、作家の幸田露伴の妹にあたる方だそうですね。
愛加 そうなんです。調べれば調べるほどすごい方です。家柄が良いだけでなく、ご本人も才能にあふれていて、ヴァイオリンだけでなく音楽全般に秀でている。女性で初めてヨーロッパに音楽留学した方なんです。
──この作品の中では瀧廉太郎さんを好きなのですね?
愛加 一応そうなのですが、その恋愛もはっきりとした形ではなく、観る方それぞれの解釈によって、どのくらいの恋愛感情か捉え方が違うと思うのですが、それぞれでいいと思うんです。現代とは違う、あの時代ならではの恋愛模様ですので。
原田 決定的な場面は出てこないしね。
愛加 観ている方がそうなのかなと想像する程度の表現になっています。もともと音楽で繋がっている部分もありますし、素敵な関係だと思います。

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こうならいいよねという想像をめぐらせた話に

──原田さんの役の岡野貞一さんは、かなりフィクションが入っているそうですね?
原田 岡野は実際にはヨーロッパには行ってないんです。そういう意味では、脚本の登米(裕一)さんが作ったオリジナル部分が多い役です。この作品は、当時の作者不詳のいくつかの歌について、もしかしたらこうだったのではないか、こうならいいよねとか、想像をめぐらせて書いてあるので、劇中に出てくるようなドラマは、たぶん実際にはなかったと思います。そこを史実と絡めながら描いているところを、お客様にも面白く受け止めていただいているのだと思います。
愛加 私もそれを知らずにいただいた資料映像を観たときに、これが史実なんだと思ってしまって(笑)。「曲1つができる背景にはこんなドラマがあったんだ!色々な人たちがこんなふうに繋がっていったんだ」と。でも史実とは違うと聞いて、逆にこういうふうに作れることに感動しました。
原田 お客様も「こんなことがあったんですね」とおっしゃるから「いや、本当はちがうんです」と答えてました(笑)。   
愛加 でも、そう思ってしまうくらい良くできているし、こうだったらいいなと思えるお話ですよね。
──物語はフィクションでも、登場人物たちがリアルだからなのでしょうね。演じている方の力もあると思います
原田 いやいや(笑)。でも演じている自分たちも心うたれるというか、とてもわかる物語だなと思います。瀧廉太郎という天才を目の前にして、どこか羨む気持ちとか、自分もそうであったらいいなと思う気持ちとか、芸術に向かう人間の心の状態とか心理が、とてもうまく描かれていて、自分たちにもマッチするんです。

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天才音楽家であり色々な面でセンスのある人

──瀧廉太郎という方自身については、どんな印象を持っていますか?
愛加 歴史的な資料でしか知らない方ですが、演じている和田(琢磨)さんが、ピアノを弾いている姿などがまさに瀧廉太郎さんだなと。私が演じる幸という女性は、瀧さんの言葉には出さない何かを感じているし、彼が入院してしまって会うことがあまりできなくても一番感じ取ろうとしている役割なのですが、和田さんのイメージがぴったりなので、とても気持ちが入りやすいです。
原田 史実を見ても色々な意味ですごい方ですよね。音楽の天才であるばかりではなく、ファッションリーダーみたいな存在で、みんなが彼の着方を真似するとか、当時、女性に香水を贈ったとか、色々な面でセンスのある方だったんだと思います。このお芝居の背景になっている明治34年(1901年)当時は、西洋に留学するのは命がけだったと思います。それを実行する破天荒さなどもあったわけですし、そう考えると人間的にもとても魅力的で、人を惹きつける人だったのだろうなと思います。
──岡野貞一さんという人はどんな方だったのですか?
原田 実在した岡野貞一さんは、色々な学校の校歌を沢山作られて、また後進の育成など音楽教育に力を注いだ方なんです。ですから瀧廉太郎のようなアーティストではなかったんですね。そういう点では、自分にはない瀧の生き方をどこかで羨む気持ちもあったかもしれません。
──知れば知るほど瀧廉太郎さんは、現代だったら時代の寵児として騒がれそうな人だったんですね。でもその彼を等身大に描いていることが、この作品の魅力でもあるのでしょうね。
原田 そう思います。僕の演じる岡野も人間味を感じられる人にしたいと思って、それは初演から意識しています。「僕は音楽にしがみついているんだ」という岡野の台詞があるのですが、自分も瀧廉太郎みたいになりたくて音楽の世界にどっぷり浸かっているし、がんばっている人間なのだという、彼の思いにはとても共感しますし、そこを役を通して伝えられたらと思っています。
愛加 岡野さんは原田さんしか演じられないと思います。面白いことをおっしゃる場面もあるのですが、音楽に対する思いが強くて、そのことを語っているときの優一さんは、優しさもあるし強さもあるし、本当に優一さんしか演じられないです。
原田 すごくよくわかるんです、この役のことが。

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シンプルで繊細な日本の唱歌をきっちり歌う

──お二人は共演は二度目ですね?
愛加 最初はシアタークリエの『GEM CLUB』で、でもショーだったので。
原田 絡むシーンはほとんどなかったね。
愛加 はい。お芝居の優一さんはその場で生きているので、どんなことでも受け止めてくださるし、沢山勉強させていただいてます。
原田 いえいえ!(笑)愛加さんは、そこにいるだけで可憐さとかお嬢様らしさを出せる品の良さがあって、しかも歌が上手くて。そういう存在の方はすごく貴重だと思います。
──歌唱力では定評のあるお二人ですから、今回も歌への特別な思いがあるでしょうね?
愛加 今回歌う曲は、私も小学校などで歌っていたり、日本人なら誰もが知っている曲ばかりなんです。それをこうして改めて歌うことで、曲の良いところを沢山発見しているのですが、たぶん観る方々もちゃんと聴く機会は少ないと思いますので、この作品を通して日本の曲の良さを、そして良い曲がいっぱいあることを、知っていただけるといいなと思っています。
原田 すごくシンプルで繊細なのが日本の唱歌だと思うんです。ですからきっちり歌うこと、そして台詞の日本語を綺麗にしゃべることを大事にしたいなと思っています。美しい日本語、古くから愛され続けてきた曲、そういうものを大切にしたいと思いますし、その使命感もこの作品で感じています。
愛加 昨日、歌稽古で原田さんにアドバイスしていただいたのですが、それをちょっと歌っただけで、みんな歌いやすくなったんです。本当に凄い方で、これからも教えていただきたいです。
原田 いやいやいや(笑)。やはり詞を書いた方、曲を書いた方、その方たちをリスペクトするためにも、きっちり歌わないといけないと思っていまして、1つの詞、1つの音へ込められた意味合いがあると思いますから、そこを歌い手がしっかり受け取って、音が取れたら次は詞(ことば)を、そして、その光景が浮かぶようにと、歌えたらいいなと思っているんです。
愛加 それをとても具体的に教えてくださいました。

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近代日本の音楽史の原点といってもいいドラマ

──色々お話を伺えば伺うほど、音楽に情熱を注いだ人たちのドラマであり、江戸時代の音楽から大きく転換した近代日本の音楽の原点に携わった方々のお話なのですね。
原田 瀧廉太郎さんは、日本で初めて「ドレミファソラシド」を使った方なんですよね。それまでの日本の音階はヨナ抜き音階(古典邦楽の音階)でしたから。それこそ近代日本の音楽史的に原点になった方です。
──そういうドラマティックなお話で、しかも名曲が沢山聞けるわけですから素敵ですね。最後にお二人からもピーアールをぜひ。
愛加 とても素晴らしい作品の再々演に出演できること、和音美桜さんという尊敬する宝塚の先輩がされていた役でとても嬉しく思います。また私の新しい幸田幸を一から作り上げていきたいと思っていますし、そのために精いっぱいがんばっています。色々な方にこのお話を知っていただきたいので、ぜひ観にいらしてください、
原田 若い方からお芝居を沢山ご覧になっている方まで、すごく幅広い世代の方に楽しんでいただける作品だと思います。音楽劇ということでちょっと堅苦しいイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、とても入りやすくて、すぐその世界に引き込まれると思います。約100分という上演時間ですから気軽に観ていただければ嬉しいです。そして草月ホールというモダンでクラシカルな劇場で、日本の歌とか日本語とか日本の繊細な心とか、日本の良さを観ていただいて、日本文化の再発見になればいいなと思っています。楽しみに足をお運びください。

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愛加あゆ・原田優一

はらだゆういち○埼玉県出身。9歳から映画、TV、ライブ、ダンスイベントに多数出演。94年『レ・ミゼラブル 』でガブローシュ役、07年にはアンジョルラス役、11年から15年までマリウス役を演じるなど、ミュージカルを中心に活躍中。最近では演出活動にも積極的で『KAKAI歌会』やオフブロードウェイ・ミュージカル『bare』等を演出。コンサート活動も積極的に行っており、2015年にはオリジナル曲を集めたCD『いつか』をリリース。最近の主な舞台は『TARO URASHIMA』『GEM CLUB』『ミス・サイゴン』『Love Chase!!』『道化の瞳』など。

まなかあゆ○富山県出身。05年宝塚歌劇団入団。新人公演、バウホール公演などのヒロインを経て、12年、壮一帆の相手役として雪組トップ娘役に就任。14年、『一夢庵風流記 前田慶次』『My Dreame TAKARAZUKA』で惜しまれつつ退団。15年、ミュージカル『ON-AIR 夜間飛行』で女優デビュー。映像や舞台で活躍中。退団後の舞台作品は、音楽劇『星の王子様』『嫌われる勇気』『錆びつきジャックは死ぬほど死にたい』『GEM CLUB』『FAIRY TAIL』、ミュージカル『王家の紋章』。


〈公演情報〉
音楽劇『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』
脚本◇登米裕一
演出◇板垣恭一
出演◇原田優一、愛加あゆ、和田琢磨、白又敦・服部武雄(Wキャスト)、佐野瑞樹、星野真里 
ピアノ◇YUKA
●10/5〜10◎草月ホール(草月会館内)
〈料金〉S席8000円 一階席6800円 二階席6000円 三階席3300円(全席指定・税込) 
※三階席は当日券のみとなります。
〈HP〉 http://www.show-biz.jp/taki/





【取材・文/榊原和子 撮影/岩田えり】


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