宝塚ジャーナル : 15年間の大いなる歩み！浦井健治初ソロコンサート『KENJI URAI 15th Anniversary Concert ～Wonderland～』

デビュー15周年を迎えたミュージカル界のプリンス浦井健治の初ソロコンサート、『KENJI URAI 15th Anniversary Concert ～Wonderland～』が、９月29日有楽町の東京国際フォーラムホールＡで華やかに開催された。

2000年『仮面ライダークウガ』で、悪の頂点、ン・ダグバ・ゼバ役で俳優デビューを飾ったのち、2004年ミュージカル『エリザベート』のルドルフ皇太子役で、ミュージカル界にも鮮烈な印象を残した浦井健治は、以降、数多くのミュージカル、ストレートプレイへの出演を重ね、堂々たる舞台俳優として成長してきた。更に、井上芳雄、山崎育三郎と共に、３人で集うユニット「Stars」は３大ミュージカルプリンスとして認知され、日本武道館ライブを成功させ、またWOWOWにて初のレギュラー番組「トライペッカ」が放映されるなど、「ミュージカル」の裾野を広げる大きな役割りを果たしている。そこから、浦井自身のデビュー15周年となる今年、1stアルバム「Wonderland」、1stオフィシャルブック「アシアト」の発売、そして帝国劇場単独初主演となるミュージカル『王家の紋章』の大成功、と文字通りの快進撃で走り続けている。

今回のコンサートはそんな浦井が、満を持して放った初のソロコンサートであり、これまで数々の名舞台を共に創り出してきた、荻田浩一の構成・演出、ゲストボーカルに宝塚出身のAKANE LIVや、照井裕隆、ダンサーに加賀谷真聡を迎え、キャパ５千人を誇る東京国際フォーラムホールＡを満席にしての、一夜限りの豪華なライブとなった。

舞台には生バンドと、中央に大きなスクリーンと、その下に舞台へとつながる階段。上手、下手の舞台奥高みにも出演者が登場できるエリアがあり、転換のない舞台ながら重層的な作り。また、客席側上手、下手前にもスクリーンがあり、大箱の劇場の、後方席にも浦井の表情がアップで見える工夫も凝らされている。しかも特に中央のスクリーンには、青空、星空、浦井の過去作品のポート、また歌われる楽曲のタイトルなども映し出され、観客１人１人に親切で、丁寧な進行がなされていた。

そんな中に、登場した浦井は、まず1stアルバム「Wonderland」から「彼方へ」を歌い上げてコンサートをスタート。黒のジャケットを颯爽と着こなして、驚いたことにラスト近くまでほぼ衣装チェンジをせずに進行していく。これまで演じてきた数々の作品を、派手な早替わりなどすることなく、役の面影を引き連れて歌うので、観客の脳内でコスプレをどうぞ楽しんでください、という、これはかなり力がないとできない、潔いまでに天晴れなコンセプトだ。

その挑戦を、浦井は堂々と、しかも軽やかにこなしていく。直近の作品『王家の紋章』や、『デスノート The Musical』で、コントラストの強い熱唱を披露したかと思うと、『マイ・フェア・レディ』『シラノ』『回転木馬』のナンバーでは、柔らかで甘い二枚目の雰囲気を瞬時に醸し出す。『ボンベイドリームス』のエキゾチック、『CHESS THE MUSICAL』のこの世ならぬ威厳と、曲ごとに変わる表情と表現力は、舞台本編を観ているかのような感覚が呼び覚まされた。

かと思うと、この一夜限りの贅沢なソロライブに、かなりテンションのあがっているMCでは、浦井のどこか天然で、不思議な魅力に満ちた自由人ぶりが如何なく発揮されるから、客席にいて実に心地よい緊張と弛緩が巧まずして生まれてゆく。これまでにいずれも共演経験があるというAKANE LIV、照井裕隆、加賀谷真聡との掛け合いも楽しく、デュエットに、コーラスに、またダンスにと、全体にたった四人で作られているライブとは思えない多彩さがある。重層的なステージへの人の出し入れも複雑で、ここには構成・演出の荻田らしい妙があった。

特に印象的だったのは、『シラノ』では大先輩と尊敬する鹿賀丈史の演技に感動して袖で大泣きしていたという浦井が、『ロミオとジュリエット』では、モンタギュー一族の長として、メンバーをまとめる役割りを果たしている、自分の立場が変わっていることに気づかされたというエピソードが自ら語られたこと。それは正しくこの年月に、浦井自身が歩んできた道のりの、フォトブックのタイトル通りの「アシアト」が、確実に前へ、前へと刻まれてきたからこそだろう。事実、ベンヴォーリオのナンバー「どうやって伝えよう」は、その成長の跡が確かに感じられる、心に沁みる名唱だった。

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また、初主演作品として、更にオリジナルミュージカルに１から携われた経験として、大切にしているという『アルジャーノンに花束を』が、2017年3月に矢田悠祐の主演で再演されることについて、『王家の紋章』で共演した矢田との微笑ましいエピソードを語り、新たな再演の舞台をよろしくと、詰めかけたファンに語り掛けるなど、この世界の先輩としての大きさも披露。次に続く者へのエールに浦井ならではの温かさが満ちていた。

他にも、『美少女戦士セーラームーン』『仮面ライダークウガ』劇団☆新感線での当たり役シャルルのメドレーなど、その多岐に渡る作品歴が改めて堪能できるステージは、ラストにかけて盛り上がり続け、『ボンベイドリームス』の「The Journey Home」で、一度エンディングを迎える。ここで初めて白を基調とした衣装に着替えて再登場した浦井の、ミュージックビデオが映し出される中、アルバム曲の「Color Of Dream」が披露されて、客席の熱気もマックスに。2017年2月に出演する『ビッグ・フィッシュ』より、初公開となる「Stranger」は、来年の舞台への期待を掻き立て、本当のラストは『王家の紋章』より「今日のわたしに」。熱唱に次ぐ、熱唱に彩られたコンサートは、鳴りやまぬ拍手と共に幕を閉じた。

何よりも、『エリザベート』『蜘蛛女のキス』『ダンスオブヴァンパイア』『二都物語』等々、繰り広げられるミュージカルナンバーが、いずれも本人の演じたものだというバックボーンがあることは、昨今大人気で、頻繁に開催されているミュージカルの名曲を集めたガラコンサートとは、一味異なるリアリティーを秘めていて、しみじみと胸に残る感銘を届けてくれていた。今年11月～は、新国立劇場中劇場での『ヘンリー四世』二部作への出演、更に、同じ新国立劇場中劇場で、2017年9月に『デスノート The Musical』の再演決定の報もこの日もたらされるなど、ますますその活動に加速がかかる浦井。その本人から、ミュージカルとストレートプレイに並行して取り組んでいると、時に歌から離れてしまう期間が出るので、こうしたコンサート活動も回を重ねていきたい、という趣旨の抱負が語られたが、その言葉が必ずや実現するようにと願わずにはいられない、次なるステージへの夢が広がる、一夜限りの素晴らしいライブだった。