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2016年9月4日、宝塚100周年の祝祭を牽引した最後のトップスター龍真咲が、5名の同時退団者と共に宝塚に別れを告げた。

2001年『ベルサイユのばら2001〜フェルゼンとマリーアントワネット編』で初舞台を踏んだ後、月組に配属された龍は、その月組一筋の宝塚人生の中で際立つ個性派男役へと進化。生え抜きのトップスターとして4年あまり月組を率いて来た。しかもこの間に宝塚が100周年を迎え、月組が記念公演を担当したこともあって、各組トップスターゲスト出演による祝祭にあふれた興行や、宝塚全員が揃った大運動会など記憶に深く残る催しで、数々の雄姿を見せ続けてきた。特に、「男役」というものの神秘性が、ゆるやかにナチュラル志向に流れていく傾向がある宝塚にあって、突出した色濃さを持ち、どこかやんちゃで天真爛漫な横顔も覗く龍の個性は、強い輪郭を残し、フレンチミュージカルの本邦初演を担った『1789〜バスティーユの恋人たち』で、スターシステムを敷く宝塚で群像劇を上演するという、果敢な挑戦を成功させるほどの力を持ったものとなっていった。だからこそ龍のそんな個性が多面的に活かされた『DRAGON NIGHT!!』と『Voice』2つのコンサートが、取り分け魅力的だったのは得難い個性派トップとして当然のことだったのだろう。

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そんな龍のサヨナラショーは、『1789〜バスティーユの恋人たち』の「パレ・ロワイヤル」の、印象的な影ソロからスタート。龍の同期で専科の沙央くらま、月組一同が真っ赤な衣装で賑やかに踊る中、『DRAGON NIGHT!!』で、この衣装が着こなせるのは宝塚広しと言えども龍1人だろう…と、感嘆させられた白地の総スパンコールに真っ赤な薔薇柄が描かれたスーツ姿の龍が颯爽と登場。冒頭から熱いテンションと楽曲で場を盛り上げる。そのまま1人銀橋に残った龍が、同作品から「二度と消せない」を、独特のどこかねっとりとした節回しで切々と、更に『風と共に去りぬ』から「真紅に燃えて」を歌い継ぐ。己の信じる道に猪突猛進、火の玉のようにつき進む生命力にあふれたスカーレット役が、龍によく合っていたことが改めて思い出された。

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 いったん龍が引っ込むと、本舞台では『DRAGON NIGHT!!』の「ベルサイユのばら組曲」がトップ娘役の愛希れいかを中心に娘役たちで踊られる。愛希の凜とした自立した娘役像は、ある意味で龍の残したものでもありその凜とした踊りぶりが目に残る。。続いて大階段に男役たちが黒燕尾姿で登場。龍の光物で彩られた燕尾姿が美しい。退団公演本編では、シンプルな黒燕尾服姿を美しく披露してれた龍だが、こうして装飾のある黒燕尾姿を見ると、龍真咲というスターにはより相応しいのでは?という想いも去来した。

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そんな龍が力強い歌声で場を締めた後には、この日共に退団する萌花ゆりあ、有瀬そう、真愛涼歌、翔我つばき、夢羽美友により『TAKARAZUKA花詩集100!!』の主題歌が歌われる。この歌と共に、あの輝きに満ちた100周年の祝祭は、龍が率いた月組の記憶となって残るのだと思えば、殊更に感慨深い。
続いて白の衣装に着替えた龍が大階段に登場し、『GOLDEN JAZZ』から「God Song」を豊かな歌声で響かせる。歌はやがて珠城りょうに引き継がれ、龍と全員のダンスが舞台上に弾ける。今この時、このメンバーで創れる最後の舞台。龍の月組の思いが炸裂して、舞台は大きなヒートアップを見せた。
そのまま龍が1人舞台に残り、『DRAGON NIGHT!!』で披露されたミュージカル『モーツァルト!』のナンバー「僕こそミュージック」を歌い出すと、客席のすべてで灯された黄色の三日月をかたどった美しいライトが場内を包み込む。このままの僕を愛して欲しい、と訴える曲の真意が、まるで個性を際立たせた龍本人の心の声のように、しみじみと届いた。

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そして最後に用意されたのは、サヨナラショー冒頭と同じ『1789〜バスティーユの恋人たち』から「声なき言葉」。龍の月組での本邦初演後、作品は東宝版として新たに上演されたが、この「声なき言葉」は歌われなかった為、日本における『1789』の歴史の中では、文字通り龍の月組だけが歌い踊ったナンバー。サヨナラショーのクライマックスとして、これほど相応しい曲もなかっただろう。龍の歌声に舞台の全員のそれが重なり、高まる音楽の中下手花道を1人去る龍は、気迫のガッツポーズ。すべてをやりきった者だけが持つ、清々しさを残して龍時代のラストを飾るステージに幕が下ろされた。

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余韻の冷めやらぬ舞台からは引き続いて、やはりこの日限りで月組組長から専科へと異動する飛鳥裕により、退団者の履歴が語られ、やがて準備の整った舞台に、緑の袴姿で1人ずつ退団者が最後の大階段を降りてくる。そして、ラストに登場した龍もまた、緑の袴姿。組からと同期生から送られた白い胡蝶蘭の大きなブーケを手に「命をかけて走り続け、いまここにたどり着きました」にはじまる、一言一言を丁寧に噛みしめるような挨拶に劇場中が耳を傾けた。宝塚が龍にとって、夢を作り続ける意欲を与えてくれる場所だったこと。その夢が現実と重なったいま、宝塚を卒業するが、またその夢を育てる意欲がわいてきた時、皆様とお会いしたい、という趣旨の言葉が、龍の目指す明日を映す思いがして、深く印象に残った。
最後に用意されたのは、龍本人が大好きだと言う「タカラジェンヌに栄光あれ」。夢を売るフェアリーを讃えるこの歌が、これほどトップスターの退団に似つかわしいとはちょっと想像できなかった。最後の最後まで、新鮮な驚きを伝えてくれるスターだった。
名残尽きぬ客席からは、アンコールがとめ どなく続き、その度に涙の客席を笑いに包もうとする龍のサービス精神に、脱帽させられる。おそらくそう心に決めていたのだろう。龍本人に涙はない、爽やかなカーテンコールが繰り返された。

【退団記者会見】

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その後、劇場ロビーで龍真咲退団記者会見が行われた。 

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まず龍から「月組の龍真咲です。皆様本日はお忙しい中お越しくださいまして、誠にありがとうございました。そして温かく見守ってくださり、本当にそのお心を嬉しく思っております。あふれる思いばかりで、上手く言葉にすることがまだまだ難しいのですが、これから少しずつその想いをしっかりと皆様にお返ししていきたいと思います。何はともあれ、こうして無事に千秋楽を迎えることができましたこと、そして宝塚生活にピリオドを打つことができましたことに安堵しております。本当にありがとうございました」との、思いのこもった挨拶があり、続いて記者の質問に答えた。

──サヨナラショーの最後にガッツポーズをされたようにお見受けしましたが、あの時の心境を教えてください。
そうですね、もうこれで全てをやり尽くしたという思いでしょうか。
──改めて感じる宝塚歌劇の男役の魅力とは?
私自身の思いから言いますと、やはり(男性を)演じることが最大の魅力だと思います。男の方を目の前にして、お伝えするのはとも思いますが(笑)、やはり現実的ではない、理想の男性像を追い求め続けることが、芸名の私にしても、そして男役という意味においても極め続けるというところで共通点がありましたので、そこはやりがいのあるところでした。

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──そうした男役を極められて、後輩に残したものは?
私がこれを残しましたと言うのは、ちょっとおこがましくて言えないのですが、これを渡してきたということではなくて、私が残した足跡を月組生がどれだけ拾っていってくれるか?に期待しています。と言いますのも、私自身が、近年で言いましたら彩輝(なお)さんであったり、瀬奈(じゅん)さん、霧矢(大夢)さんの残して行かれたものを、足跡をしっかりとたどって拾ってきたつもりだったので、そういうものが、隠れている秘密のプレゼントということでしょうか。やはり、自分で経験してみないとわからないこともありますし、想像の中だけで理解するのは難しいことが多いので、その時々に色々なものを見つけた喜びがありましたから、これからしっかりとバトンを受け継いで行く皆にも、その喜びを経験してもらいたいという期待を持っています。
 
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──生え抜きとして過ごされた月組の魅力は?
数年前までは、個性が際立つ、団体戦にも強く、個人プレーにも強くという意味で、1人1人が粒立つことを目標にしておりましたが、100周年が過ぎて『1789』を過ぎたあたりから、1人1人の個性も出て来ましたし、団体の力にも色々な意味で応用力が出て来たのではないかと思っております。ただそれは私がいた時代、私のイメージの中での動物園的な月組の色でもあるので、今、卒業を迎えて思うことは、その基盤がある上で、これからどういう風に月組が変化して行くか?というところを楽しみに、さあどう出てくるかな?と思っております。今は、私が紡ぎあげたこの月組に、一片の悔いもありませんし、力強い組になったと思っています。

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そう、爽やかにきっぱりと語った龍は、言葉通り一片の曇りもない晴れやかな表情で、写真撮影に応じ、会見は和やかに終了した。

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すっかり日の暮れた東京宝塚劇場前には、8000人のファンが集結。残暑の中、その熱気が更に気温を高めていると感じられるなか、退団者が下級生から順にパレード。
その都度大きな拍手があたりを包み、惜別のセレモニーはいつしか最高潮に。その最後に龍が登場すると、一際大きな歓声と万雷の拍手が沸き起こる。舞台メイクを落とした龍は、更にスッキリと穏やかな笑顔を浮かべ、名残尽きぬファンに感謝の言葉を繰り返し、手を振りながら歴史を刻んだ馴染み深い劇場前を後にしていった。熱い風と共に、その余韻は長く残った。

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翌日から、歩みを止めぬ宝塚は新たな明日へと踏み出し、珠城りょう&愛希れいかを中心とした次回公演の制作発表が行われるなど、次のステップを刻んでいる。一方、その宝塚から巣立った龍真咲は、宝塚初演から20周年を記念した『エリザベート』ガラコンサートで、持ち役のルイジ・ルキーニとしてだけでなく、タイトルロールのエリザベートを演じることが発表された。如何にも龍らしいサプライズに、彼女の中で夢を育む意欲が再びあふれているのだと、嬉しく感じる。新しい道で紡がれるそんな龍の夢と、龍時代の足跡をたどって進む月組。双方の創り出す未来が、共に輝かしいものであることを祈り、期待している。



【取材・文・撮影/橘涼香 舞台写真提供/宝牴侶狠帖

  
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