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宝塚歌劇100周年の記念公演を担当し、100年の祝祭を牽引した最後のトップスター龍真咲の退団公演である、簡易生命保険誕生100周年 かんぽ生命 ドリームシアター ロック・ミュージカル『NOBUNAGA〈信長〉─下天の夢─』シャイニング・ショー『Forever LOVE!!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(9月4日まで)。

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ロック・ミュージカル『NOBUNAGA〈信長〉─下天の夢─』は戦国乱世を駆け抜けた織田信長の生涯を、同時代に生きた人びとと共に描くロック・ミュージカル。退団公演に際して、織田信長を演じたいという龍真咲本人の希望があったそうで、大野拓史が作・演出を担当。戦国ものとしても、宝塚の日本ものとしても、異色の仕上がりとなっている。

物語は、織田信長と言えば誰でもが思い出すだろう「人間五十年、下天のうちにくらぶれば 夢幻のごとくなり。一度生を受け滅せぬ者のあるべきか」と『敦盛』を舞う、龍真咲=信長の姿を見せてから、ロックミュージックが炸裂する中、一気に桶狭間の戦いへと遡ってはじまる。
尾張の戦国大名・織田信長(龍真咲)は、桶狭間の戦いで駿河の今川義元(光月るう)を討ち果たし、天下統一への道を歩むことになる。だが、都に昇る為には美濃を滅ぼさねばならない。美濃は信長の正室・帰蝶(愛希れいか)の故郷。帰蝶は美濃を滅ぼさず尾張に留まることを信長に懇願するが、すでに天下を視野に入れていた信長がその願いを聞き届けるはずもなかった。信長は将軍足利義昭(沙央くらま)を奉じ都へ入り、帰蝶との間には深い溝が残る。それでも自身に敵対するものを次々と滅ぼし、目的へと突き進む信長。家臣の羽柴秀吉(美弥るりか)や、義昭の家臣・明智光秀(凪七瑠海)は、その孤高な決意に畏怖の念を抱くが、一方で実妹お市の方(海乃美月)を嫁がせ一度は同盟を結んだ浅井長政(宇月颯)や、実弟信行(蓮つかさ)をも容赦なく打ち捨てていく信長に、憎しみを抱く者も少なくなかった。
そんな信長を取り巻く人々の心の闇に乗じて、1人の男が近づく。ローマ出身の騎士・ロルテス(珠城りょう)。自身の出生の為に心ならずも日の当たらない道を歩んできたこの男が、覇者への道を突き進む信長の天下統一の大望に、不穏な影を落としてゆき……。

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戦国乱世の中で、一際の輝き、異彩を放つ人物として人気の高い織田信長は、創作の世界でも様々な形で描かれてきた。宝塚でもかつて植田紳爾の作品『うつしよ紅葉』(1976年)で若き日の信長が取り上げられているが、桶狭間の戦いに向かう信長の姿で幕を切っていたのは、後に天下獲りへと向かう信長の行動に相当ブラックな側面がある為でもあったろう。だが、それからちょうど40年。100周年を迎え更に次の100年へと歩みをはじめた宝塚では、そんな信長の後半生を堂々と主人公として描ける時代が訪れていた。しかも、雅な美しさではなくロック・ミュージカルの強烈なアクセントの中で、ある意味のダークヒーローが躍動している。そのことにまず大きな感慨を覚えた。
であればこそ、作品に実験的な部分が多いこともまた事実で、これは大野作品の常でもあるが、作家の側が溢れる情報量をすべて舞台に注いでしまうが為に、1度の観劇ですべてを理解するのが難しいきらいがあるのは否めない。物語は10年単位で飛び、更に史実の展開と、実在の人物を使った作者の創作である展開とが混線している。特にロルテスの暗躍からクライマックスを迎えたかに見えたドラマが、ほぼ説明なく歴史に名高い本能寺の変へと向かう唐突感など、全体の流れには推敲の余地があるとも思われた。

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だが、作者である大野が「本作は『織田信長=龍真咲』それだけを信念に作られている」とプログラムで言い切った通りの見方をすれば、自ずと受け取り方は変わってくる。ここには頂点を極めるものの孤独と、だからこその畏敬の念が深く描かれていて、それがすなわち龍真咲を、ひいては宝塚のトップスターという孤高の立場の、輝きと同じだけ重いことは想像に難くない責務を照射している。その中で、龍本人の持つ闊達さ、自由さに代表される色濃い個性が、舞台を覆い尽くすパワーが、作品の瑕疵を凌駕していく様には圧倒される。信念の為にはどんな行動にも言い訳を由としない信長像が、龍本人が己を貫く姿勢と相まって、舞台上の人物が信長なのか龍なのか、その境界さえ定かでなくなる時、そこに残るのはこれが龍真咲という月組を率いたトップスターの退団公演なのだという想いだけだ。そうなればラストシーンにも得心が行き、ただ去りゆく龍の唯一無二の姿のみが強い光を残す。これぞ龍マジックであり、同時に宝塚のトップスター退団公演だけが持つマジックとも言えるものだった。

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トップ娘役の愛希れいか演じる信長の正室・帰蝶は、信長への愛を根底に抱き続けながら複雑さも併せ持つ役どころ。単純に一途な愛ではないだけに、宝塚の娘役としては相当に難役だが、キャリアを活かして毅然と演じきった。次期トップスターに決定している珠城りょうのロルテスの策謀がこの作品の胆でもあり、もう少し信長との直接対決が欲しい部分はあるが、珠城の骨太な個性によく適していて、舞台の展開に呼応するように歌う銀橋の歌に迫力があった。明智光秀の凪七瑠海、羽柴秀吉の美弥るりかは、観客側にこの人物は後にこうなるという予備知識が、十分あることに寄りかかった作中の書き込みを、それぞれのスター性で更に膨らませていて、改めて貴重な人材だと思わせた。足利義昭の沙央くらまが硬軟使い分けた巧みな演じぶりで、専科からの特別出演の意義を感じさせるし、浅井長政の宇月颯が少ない出番で、悩み多き武人を役柄が期待した通りの二枚目として造形していて見事。お市の海乃美月との並びも雅やかだ。女役に回った妻木の朝美絢の硬質な美しさが効果的だし、妻木に恋する佐脇良之の暁千星との関係が後の展開を暗示して、期待の若手男役たちの使い方としてなかなかに魅せる。毛利良勝の紫門ゆりや、前田利家の輝月ゆうまら、織田家家臣団が群舞に気を吐く中、黒人家臣である弥助の貴澄隼人が、作中数少ない信長の温情ある一面を表して秀逸。他に、秀吉の妻ねねの早乙女わかばの娘役らしいたおやかさ、宣教師オルガンティノの千海華蘭のコケティッシュさ、織田信行の蓮つかさの真っ直ぐさなどが目を引いた。

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そんな終わってみれば、龍真咲の退団が何よりも大きく浮かび上がる芝居のあとに控えたのは、更に徹頭徹尾龍退団にフィーチャーしたシャイニング・ショー『Forever LOVE!!』で、藤井大介の作。宝塚に相応しく永遠に輝き続ける「愛」をテーマに、様々な愛の形を綴るという大枠があるものの、ピンクの大洪水からはじまるプロローグから、黄金の世界のクライマックスまで、清々しく龍サヨナラ一色。

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宇月、紫門、朝美、暁を率いて、龍ならではと思える極彩色のスーツで決めるコンガ、龍と愛希に珠城も加わったトリオが異色の銀橋、凪七、美弥、沙央がそれぞれ女役に扮して、龍とからむアドリブも交えた展開、男役龍真咲が大きなセットにもなって登場するダンスナンバーと、龍の魅力を多角的に描き出している。

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愛希を中心とした迫力のダンスシーンあり、萌花ゆりあ、有瀬そう、真愛涼歌、翔我つばき、夢羽美友の、龍と同時退団のメンバーへの餞、また、龍と沙央、萌花、綾月せりの同期生だけの惜別シーンなど、とにかく盛りだくさん。欲を言えば、やはり龍真咲トップ時代を共に走った愛希との掛け合いが何か欲しいところだったが、黒燕尾で大階段に立つ龍の孤高は、この興行全体を貫く姿としては相応しかったのかも知れない。出演者全員が一途に龍を盛り立てる、退団公演の美徳に溢れたショー作品だった。

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初日を控えた8月5日、通し舞台稽古が行われ、月組トップコンビ龍真咲と、愛希れいかが囲みインタビューに応えて公演への抱負を語った。

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その中で、9月4日の卒業のその日まで走り抜け、燃え尽きたいとの強い決意をにじませた龍は、大きなものを見据えている清々しい表情を見せ、作品への手応えも十分な様子。ラストとなる「宝塚の男役」をまず自ら楽しみたいと意欲的に語った。

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一方の愛希は、そんな龍の姿勢からパワーをもらえると語り、前に進み続ける龍にしっかりと付いて行きたいとこちらも意欲的。共に感傷に浸るのではなく、更に前身しようという意志が感じられる時間となっていた。

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尚、囲みインタビューの詳細は9月9日発売の「えんぶ」10月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!



〈公演情報〉
宝塚歌劇月組公演
簡易生命保険誕生100周年 かんぽ生命 ドリームシアター
ロック・ミュージカル『NOBUNAGA〈信長〉─下天の夢─』
作・演出◇大野 拓史
簡易生命保険誕生100周年 かんぽ生命 ドリームシアター
シャイニング・ショー『Forever LOVE!!』
作・演出◇藤井 大介
出演◇龍真咲、愛希れいか ほか月組
●8/5日〜9/4日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】