s_IMG_0484

宝塚雪組の二番手男役、望海風斗を中心に繰り広げられるミュージカル『ドン・ジュアン』が、KAAT神奈川芸術劇場で上演中だ(26日まで。のち、大阪梅田芸術劇場シアタードラマシティで7月2日〜12日まで上演)。

モリエールの戯曲、また舞台をイタリアに移したモーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』等で知られる、スペインを舞台にした伝承「ドン・ジュアン伝説」が、フランス産ミュージカル『ドン・ジュアン』として蘇ったのは2004年のこと。究極のプレイボーイが辿る愛の末路を、フラメンコをベースとした珠玉の名曲で綴った作品は、カナダでの初演のあと、パリや韓国で上演を重ね、好評を博してきた。今回の宝塚雪組公演は、そんな作品の本邦初演で、背徳にまみれ、快楽を追い求めるプレイボーイが、基本的には美しい愛と夢を描いてきた宝塚でどう表現されるのかと共に、大きな期待と注目を集めての上演となった。

s_IMG_0702

アンダルシア地方、セビリアで物語は始まる。スペイン貴族ドン・ルイ・テノリオ(英真なおき)の跡取りでありながら、酒と女に溺れ悪徳の限りを尽くす放蕩息子ドン・ジュアン(望海風斗)は、夜毎女たちとの情事に浸っていた。ある夜、ドン・ジュアンは騎士団長の1人娘(笙乃茅桜)を一夜の快楽の相手に選ぶが、そのことが誇り高き騎士団長(香綾しずる)の激怒を招き、決闘を挑まれる事態に発展してしまう。剣の腕も確かなドンジュアンは闘いには勝利したものの、騎士団長が最期に残した「お前はいずれ〈愛〉によって死ぬ。〈愛〉が呪いとなる」という予言に苛まれ、やがて亡霊にとりつかれるようになる。
そんなドン・ジュアンを案じる唯一の友ドン・カルロ(彩風咲奈)の忠告も、修道院を出てまでドン・ジュアンと結婚したものの、今は顧みられることのない妻エルヴィラ(有沙瞳)の慟哭も彼には届かず、放埓な生活を続けるドン・ジュアンは、つきまとう亡霊に導かれるように、亡き騎士団長を讃える石像を製作している女性彫刻家のマリア(彩みちる)に出会う。一心にノミを振るうマリアの美しさ、ひたむきさに惹かれるドン・ジュアン。それは、かつて経験したことのない、心の震え〈愛〉の訪れを彼に自覚させ、マリアもまたその想いを真っ直ぐ受け留めるに至る。だが、マリアの婚約者ラファエル(永久輝せあ)が戦地から戻ったことをきっかけに、亡霊の呪いの言葉通り、ドン・ジュアンは〈愛〉の呪縛に絡め取られてゆき……

17_MG_1373

これまで宝塚歌劇で上演されてきたフランス産ミュージカル、『ロミオとジュリエット』『太陽王〜ル・ロア・ソレイユ』『1789〜バスティーユの恋人たち〜』などと共通する魅力として、この『ドン・ジュアン』も何より、美しく力強いミュージカル・ナンバーの数々がドラマを牽引している。その音楽の多彩さをまるごと舞台に乗せた上で、生田大和の潤色・演出はドン・ジュアンの奥底にある心の渇きや孤独と絶望を視覚的に表現することによって、一見救いようのない稀代のプレイボーイの行動に、一偏の救いと哀しみを加えている。これが、宝塚歌劇にとって重要な要素になったのはもちろん、フラメンコ・ダンサーである佐藤浩希振付による、スペインの香りを迸らせたサパテアードにも大きな工夫と見応えがあって、象徴的に使われた薔薇の赤と共に舞台に深い印象を残していた。ドラマ性以上に、どこかコンサート的な魅力を放つフランス産ミュージカルに、文学の香気を伴う抒情性を持たせたのは、生田ならではの仕事ぶりと言える。

そんな舞台でセンターを務める望海風斗が圧倒的だ。これまでにも宝塚の粋をひとつ踏み越えている、と感じる色濃いキャラクターの造形で成果を残してきた人だが、今回のドン・ジュアン役は、それらの大きな到達点として君臨していて、快楽を貪り放蕩の限りを尽くす1幕と、愛を知り希望を持ったが故に嫉妬に狂い、怯え、混乱の中で純なものを立ち昇らせてゆく2幕との差異が絶妙だった。何より、定評ある豊かな歌唱力が、しばしばショーストップを思わせるほどの絶唱につながり、ただただ耳福の時を生み出してくれる。文字通り望海あったればこそ成功した公演と言ってよく、雪組の二番手男役という現時点で、輝かしい代表作を手にしたことに拍手を贈りたい。

37_L3A3158

対する女性彫刻家マリアに扮した彩みちるは、『るろうに剣心』で主要人物の1人、明神弥彦に扮して溌剌とした少年役を生き生きと演じたのが記憶に新しいが、今回のマリア役では真っ白の純娘役ぶりを披露。生きがいにしている仕事を、結婚を期に辞めることを婚約者に迫られて惑うという、現代の女性にも通じる悩みを抱えているヒロイン像は共感しやすく、ひたむきな愛らしさがある。本人比としてはよく向上している歌唱面で一層の研鑽を積めば、更に伸びてくるだろう。注目していきたい娘役だ。一方、ドン・ジュアンの妻エルヴィラを演じた有沙瞳は、その歌唱力での輝きが際立つ。夫をなんとか振り向かせたいと思うあまりの行動も、感情の振幅もよく表現していて、高い地力を示していた。劇中、もう1人のヒロインとも言える存在に描かれている中で、充実した成果をあげたのが喜ばしい。

そのエルヴィラに口にできない想いを寄せるドン・カルロの彩風咲奈は、全体の語り部的な役割を担い、ドン・ジュアンの友を自負するものの、当のドン・ジュアンには友人と認識されていないという、大変難しい役どころをよく支えている。演出に相当な配慮はあるものの、基本的にはかなりの辛抱役なのだが、それをきちんとこの公演の二番手格の男役が演じる役柄としてキープしたのは、このところ進境著しい彩風あったればこそ。男役彩風咲奈の大きな経験として、次につながる舞台となった。一方、マリアの婚約者ラファエルの永久輝せあは、ドラマ展開の鍵を握る大きなポジションを得て、充実した存在感を示している。持ち味に骨太な野性味があるのもこの役柄に打ってつけで、伸び盛りの勢いを感じさせた。

21_L3A2951

また、ドン・ジュアンの父ドン・ルイ・テノリオの英真なおき、ドン・ジュアンのかつての情人の1人イザベルの美穂圭子が、確かな歌唱力を持った専科勢として、楽曲が大きな比重を占める作品に欠かせない助演者として屹立したのはもちろんのこととして、思い切ったメイクで舞台に深い影を落とした騎士団長、転じて亡霊役の香綾しずる。ドン・ジュアンの快楽の相手の1人であるアンダルシアの美女と、本来の男役の硬質な魅力が光るフェルナンド役を見事に演じ分けた煌羽レオ。注目の新進男役である縣千など、雪組メンバーもそれぞれの持ち場で充実。日本初演のフランス産ミュージカルを、堂々と活写したのが頼もしかった。

何よりも、組の半数のメンバーで、これだけの成果があげられる雪組の層の厚さは驚異的で、贅沢な余韻に浸れるスケールの大きな舞台となっている。


〈公演情報〉
宝塚雪組公演
ミュージカル『ドン・ジュアン』
作詞・作曲◇Felix Gray
潤色・演出◇生田大和
出演◇望海風斗 ほか雪組
●6/18〜26◎KAAT神奈川芸術劇場
〈料金〉S席7,800円、A席5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時 月曜定休)
●7/2〜12◎梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈料金〉7,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場シアタードラマシティ 06-6377-3888(10時〜17時半)



【取材・文・撮影(1幕)/橘涼香 撮影(2幕)/岩村美佳】




お得なチケットいろいろえんぶSHOPで販売中!

shop_rogo_l

header_rogo


粟根まこと、松永玲子ほか、キーポイントQ&A【演劇人の活力源】など連載中!
title