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華やかなオペレッタとショーという充実の二本立てで展開する、宝塚星組公演MUSICAL『こうもり…こうもり博士の愉快な復讐劇…』──ヨハン・シュトラウス二世 オペレッタ「こうもり」より──と、ショー・スぺクタキュラー『THEENTERTAINER!』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(6月19日まで)。

MUSICAL『こうもり…こうもり博士の愉快な復讐劇…』は、ヨハン・シュトラウス二世の最高傑作と称されるオペレッタ作品「こうもり」を、谷正純がミュージカル化。目にも耳にも鮮やかな作品に仕上がっている。

高名な物理学者であるファルケ博士(北翔海莉)は、仮装舞踏会からの帰り道、したたかに酔い、こうもりの扮装をしたままアイゼンシュタイン侯爵(紅ゆずる)に、公園の大理石像に結びつけられ置き去りにされてしまう。それは、独身貴族のファルケ博士と違い、恐妻家のアイゼンシュタイン侯爵が、妻が怖いから飲み明かす約束を反故にするとは言い出せずにした、謂わば苦肉の策だったのだが、そのまま朝を迎えた公園でファルケ博士は人々の笑い者になり「こうもり博士」と蔑称されるハメに陥ってしまう。このまま黙ってはいられない。ファルケ博士は、アイゼンシュタイン侯爵に一泡吹かせるべく、侯爵家のメイド・アデーレ(妃海風)、侯爵夫人のロザリンデ(夢妃杏瑠)、侯爵家の執事アルフレード(礼真琴)、更に旧知のロシア皇太子オルロフスキー公爵(星条海斗)ら多くの人々を巻き込み、壮大で愉快な復讐劇を企てて……

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オペレッタというものが総じてそうであるように、物語のストーリー自体は基本的に他愛ないものだ。更に今回は主人公を、原典のオペレッタ「こうもり」のアイゼンシュタイン侯爵から、ファルケ博士に置き換える措置がなされていて、侯爵とその妻の不倫がらみの恋愛劇から、ファルケ博士とヒロインとなった侯爵家のメイド・アデーレとの恋模様が主軸になっている。その為、宝塚らしい品の良さがある一方で、どうしてもやや説明不足の印象を拭えない面も残るのは、やむを得ないところだったろう。けれども、そうした些末なことはどうでもよくなる音楽の魅力にあふれているのも、またオペレッタ作品ならでは。耳になじんだ著名なメロディーが次々と繰り出されることによって生まれる高揚感は、実に贅沢なものだ。

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もちろんそれには、出演者がクラシック音楽の魅力をあますところなく伝える歌唱力を持っていることが必須になるが、そこは、主演の北翔海莉が他を圧する豊潤な歌声で、舞台を支えまたリードする盤石の構えなのが頼もしい。専科時代の主演作として、やはりオペレッタ作品であるレハールの『THE MERRY WIDOW』を経験している人でもあるが、実際のところ北翔主演ということが、宝塚がオペレッタ作品に取り組める決め手となったと言っても過言ではないだろう。ある時はたっぷりと、ある時は洒脱で粋にと、緩急自在の歌声が、作品を成功へと導く力となっている。また元々の持ち味の中に温かさがある人だけに、ファルケ博士の復讐劇に微笑ましさもにじませる、馥郁たる主演ぶりだった。
また、アデーレの妃海風も、コロラトゥーラソプラノの聞かせどころとして知られる「侯爵様,あなたのような方は」など、名曲中の名曲をよく歌いこなしていて、歌えるコンビの安定感が際立つ。役柄が持つ「女優になりたい」という思いが、野心ではなく憧れに映るのも、宝塚のヒロインに相応しく、清潔感のあるアデーレだった。
更に忘れてならないのが、アイゼンシュタイン侯爵の紅ゆずる。何しろ原典のオペレッタでは主人公の役柄だから、時としてダブルトップのようにさえ見える大役を、この人らしい軽妙な演技で笑いの渦を巻き起こしている。こうした役どころはもうすっかり手の内にあり、楽々と演じているのがオペレッタらしい快さにつながっていた。
 
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他にも、執事アルフレードの礼真琴、弁護士プリントの七海ひろき、刑務所長フランクの十輝いりすなどが、それぞれの持ち場で躍動。これが退団公演となる十輝の、鷹揚としたどこか大陸的な持ち味の可笑しみは、まさに有終の美で、改めて退団が惜しまれたし、ファルケ博士の助手として、十碧れいや、麻央侑希、瀬央ゆりあ、紫藤りゅうなど、星組が誇る男役スターたちが活躍しているのも嬉しい。一方で、ファルケ博士の恩師ラート教授の汝鳥伶、オルロフスキー公爵の星条海斗の専科勢が、独特の存在感と歌声で魅せる好助演も光り、ロザリンデの夢妃杏瑠、イーダの綺咲愛里、レプロフ伯爵夫人の組長万里柚美ら、娘役陣も充実。名曲中の名曲「シャンパンの歌」で迎える大団円まで、賑やかで華やかな世界観が広がっていった。何よりも、80人になんなんとする出演者の1人1人が、細かく芝居をしダンスでまたコーラスで盛り上げる集団の妙と、豪奢なセットと衣装の魅力は宝塚ならでは。ここでしか味わえない贅沢な時間が流れていた。

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そんな作品の後に続いたのが、ショー・スぺクタキュラー『THE ENTERTAINER!』で、野口幸作の大劇場デビュー作品。トップスター北翔海莉を「究極のエンターティナー」と位置付けてのショー作品で、MGMミュージカル映画を思わせる、古き良き宝塚レビューの香りが満載なのが、リズミカルでスピーディで、観客参加型も目に立つようになった昨今の宝塚ショー作品群の中で、むしろ新鮮に映る。

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華やかなプロローグ、スパニッシュラテン、人海戦術のロケット、そしてデュエットダンス。それら、どこか懐かしい、だからこそ新しいテイストの詰まった作品を新人作家が提示してきたことは、ショー作品が重要な柱の1つである宝塚歌劇にとって喜ばしいことに違いない。期待のショー作家の誕生を祝したいと思う。ここでも、歌やダンスはもちろん、ピアノの弾き語りまでを披露した北翔の「ザ・エンターティナー」ぶりが際立ち、北翔が率いるからこその、今この時の星組が輝いているのが、深い余韻を残していた。

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初日を控えた5月13日通し舞台稽古が行われ、トップスター北翔海莉とトップ娘役の妃海風が囲み取材に応えて、作品への抱負を語った。

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まず北翔が「報道関係者の皆様、本日はお忙しい中ありがとうございました。本日から6月19日まで『こうもり』『THE ENTERTAINER!!』2作品共再演ではなく、星組のオリジナル作品で今回は皆様にご披露致します。今の星組生が持つ力を最大限に発揮して、究極のエンターティ—ナー目指して頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します」

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また妃海が「こうして集まってくださりありがとうございました。『こうもり』も『THE ENTERTAINER!!』も、大劇場で関西のお客様と一緒に楽しく公演して参りましたので、東京の皆様とも是非一緒に楽しめたらなと思います。どうぞよろしくお願い致します」と挨拶、記者の質問に応えた。

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中で、オペレッタ作品を本公演でやりたいという夢が叶ったという北翔がその挑戦を喜ぶと、妃海も宝塚ならではのツボの詰まったオペレッタ作品、宝塚ミュージカルになっていると語り、それぞれ作品への手応えは十分の様子。また、ショーでお気に入りのシーンを問われて、間髪を入れず北翔のシーンをあげた妃海に「2人一緒のシーンがいいんじゃない?」と北翔が返すひとコマもあり、1つ1つの質問に対して、必ずお互いに目を合わせて、相談し、また補足する2人のコンビネーションの良さと信頼関係が伝わり、終始温かで和やかな空気が広がる時間となっていた。

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尚、囲みインタビューの詳細は、7月9日発売の演劇ぶっく8月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!



〈公演情報〉
宝塚星組公演
MUSICAL『こうもり…こうもり博士の愉快な復讐劇…』─ヨハン・シュトラウス二世 オペレッタ「こうもり」より─
脚本・演出◇谷正純
ショー・スぺクタキュラー『THE ENTERTAINER!』
作・演出◇野口幸作
出演◇北翔海莉 妃海風 ほか星組
●2016年5/13〜6/19◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円 S席 8,800円 A席 5,500円 B席 3,500円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001



【取材・文・撮影(囲み会見)/橘涼香 撮影(舞台)/岩村美佳】



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