s_IMG_8388

脚本家・劇作家・俳優として活躍するトレイシー・レッツの戯曲を、豪華俳優陣とケラリーノ・サンドロヴィッチ演出で描き出す意欲作『8月の家族たち August:Osage County』が、渋谷のBunkamuraシアターコクーンで上演中だ(29日まで。のち大阪・森ノ宮ピロティホールで6月2日〜5日まで上演)。

2007年にシカゴの劇場で産声をあげたこの作品は瞬く間に脚光を浴び、同年ブロードウェイに進出。戯曲はピューリッツア賞を、作品はトニー賞最優秀作品賞他4部門を受賞するなど高い評価を受けた。2013年にはメリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ジュリアン・ニコルソン、ジュリエット・ルイス、ユアン・マクレガー、ベネディクト・カンバーバッチなど錚々たるメンバーで映画化され、各国の映画賞で受賞・ノミネートし、その名声は世界中に広がっていった。

そんな作品に、劇団ナイロン100℃の主宰であり、日本の演劇界のトップランナーであるケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が着目。主軸となる母と三人の娘たちに、麻実れい、秋山菜津子、常盤貴子、音月桂を配し、更に充実した俳優陣たちを揃えて、上演台本と演出を担当しての公演となった。

s_IMG_8360


物語はうだるような暑さの8月、オクラホマ州オーセージ郡からはじまる。それぞれ独立しているウエストン家の三姉妹のうち、次女アイビー
常盤貴子が実家に戻ってきた。詩人でアルコール中毒の父ベバリー村井國夫が失踪したとの知らせを受けたのだ。ベバリーは家政婦ジョナ羽鳥名美子を住み込みで雇った直後に姿を消していた。薬物の過剰摂取で、口を開けば娘たちに罵声を浴びせる母バイオレット麻実れいは、半錯乱状態に陥りながらも不安に慄いている。そこへ、長女バーバラ(秋山菜津子が夫のビル(生瀬勝久、娘のジーン小野花梨を伴って帰ってくるが、彼女は母や妹たちには明かせない問題を抱えている。両親思いの次女アイビーもまた、家族には秘密の恋愛を育んでいる。ぎくしゃくとする母と娘たちの緩衝材は、陽気な叔母マティ・フェイ犬山イヌコと夫のチャーリー木場勝己だ。だが、一家にはバーバラの元ボーイフレンドで保安官のディオン藤田秀世から、衝撃的な現実が突きつけられることになる。やがて三女カレン音月桂が婚約者のスティーブ橋本さとしを伴って帰宅。叔母夫婦の息子リトル・チャールズ中村靖日も到着し、ようやく一族全員が揃ったディナーのテーブルで、それぞれが抱える鬱積が爆発して……。

s_IMG_8394

舞台に登場する家族たちは、皆問題を抱えていて、更に日本人の感覚だと「それを口に出したらまずいのでは」と思わず怯んでしまうような、辛辣な台詞の応酬が続くにも関わらず、作品に極めてドライな感覚があるのが興味深い。本来「ブラック・コメディ」として作品が定義されているそうだが、それこそ日本を舞台とする演劇ならば、大愁嘆場だろうと想像される毒舌の応酬や、家族の辛辣なバトルから喜劇性を見出すのは一見難しく感じられる。良い悪いではなく、それは言うならば彼我の文化の違いなのだが、その差異を軽々と飛び越えて、この舞台からは確かな可笑しみが伝わってくるのだ。よく考えると、とても笑えない状況、笑えない言葉の中から、ちゃんとブラックな笑いが立ち上ることに驚かずにはいられない。これは、層の厚い俳優陣の力量と、ケラリーノ・サンドロヴィッチの視覚、聴覚、想像力に訴える、メリハリの効いた演出の故だろう。舞台には、確かに酷暑のオクラホマの、熱風、乾いた空気が感じられ、3幕仕立てで、15分ずつの休憩を含み、3時間15分を要する大作を、少しも長いと感じさせない作品展開に、得難い見応えがあった。舞台面一杯に建てられたウェストン家の屋内の、雑然とした雰囲気を的確に伝える松井るみの装置も秀逸だ。

s_IMG_8396

何より素晴らしいのは、俳優陣の充実だ。誰を主役と定義できない、逆に言えば脇役と言える役どころはほとんどない戯曲の中で、全員が高いレベルで拮抗している様が、演劇的な興奮にリアリティを加味する様は圧巻だった。特に、村井國夫、木場勝己、生瀬勝久、 橋本さとし、中村靖日、藤田秀世、の男優陣には、単純に出番と言えば相当に少ない役どころを受け持つ俳優もいるのだが、その少ない出番で与えるインパクトが絶大で、舞台に十分な贅沢さを与えている。

s_IMG_8414

女優陣では、薬物中毒の母バイオレットを演じる麻実れいの存在感が抜群。男装の麗人をまさに体現する存在だった宝塚時代から、女優となり数々の輝かしいキャリアを重ね、鮮烈な舞台を創り続けている人だが、こうした辛辣な物言いをする役柄にも、どこかで生来のおおらかさとスター性で、憎めなさ、可愛らしさを表出するところは他の追随を許さない。年齢を重ねたからこそできる役柄に、次々とチャレンジして成果を納めているが、この役柄もまたそんな麻実の歩みに、大きな1ページを加えたと言える。

s_IMG_8559

三人の娘たちは、長女バーバラの秋山菜津子の、緻密で豊かな演技力に感嘆させられるし、次女アイビーの常盤貴子は、美しく優しい、けれども自立心も持った役柄が適役中の適役。麻実と同じ元宝塚歌劇団男役トップスターだった三女カレンの音月桂は、元男役とは思えないほどとびきりキュートな中に、きちんと現状認識力がある女性を巧みに表現している。三者三様の在り様が、それぞれに自立していて、共に過ごした子供時代には決して戻れない、けれども決して他人ではない、三姉妹の姿に実存感を与えていた。
 
s_IMG_8471

他に犬山イヌコ、羽鳥名美子、小野花梨らも各々の役割りを十二分に活写していて、次はどうなるのか?という思いで観る初見だけでなく、すべてがこうつながっているのか、と確認しながら観る再見にも大きな妙味があるだろうと感じられる優れた舞台だった。観る者の意識に、いつまでも強い残像を残す作品となっている。

s_IMG_8422


〈公演情報〉
mainvisual
シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ 2016
『8月の家族たち August:Osage County』
作◇トレイシー・レッツ
翻訳◇目黒条
上演台本・演出◇ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演◇麻実れい、秋山菜津子、常盤貴子、音月桂
橋本さとし、犬山イヌコ、羽鳥名美子、中村靖日、藤田秀世、小野花梨、
村井國夫、木場勝己、生瀬勝久
●/5/7〜29◎Bunkamuraシアターコクーン
〈料金〉S席 10,000円 A席 8,000円 コクーン席 5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉
 Bunkamura 03-3477-3244(10時〜19時)
 http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_august/ 
 キューブ 03-5485-2252(12時〜18時)
  http://www.cubeinc.co.jp
●6/2〜5◎森ノ宮ピロティホール
〈料金〉S席 10,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(10時〜18時)
 http://www.kyodo-osaka.co.jp/schedule/E016172-1.html


 

【取材・文・撮影/橘涼香】


お得なチケットえんぶSHOPで販売中!

shop_rogo_l

header_rogo


粟根まこと、松永玲子ほか、キーポイントQ&A【演劇人の活力源】など連載中!
title