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観客の投票によって、その日のステージの結末や展開が様変わりする異色のミュージカル、『エドウィン・ドルードの謎』が、シアター1010でのプレビュー公演を終え、いよいよ日比谷シアター・クリエで開幕した。(4月4日〜25日まで)

舞台となるのは、「ロワイヤル音楽堂」。今まさに初日の幕を開けようとしているステージに座長山口祐一郎)が登場して、挨拶の下、今宵も個性豊かな座員たちによる芝居が始まろうとしていた。そのタイトルは『エドウィン・ドルードの謎』。チャールズ・ディケンズの原作による物語はどんな展開を見せるかというと?

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青年エドウィン・ドルード(壮一帆)は幼い頃から定められていた婚約者ローザ(平野綾)との結婚の後、エジプトに引っ越して起業しようと計画していた。しかし、エドウィンの叔父でローザを秘かに、しかも執着的に愛するジャスパー(今拓哉)、同じくローザに一目ぼれしたインド出身の青年ネヴィル(水田航生)、そしてローザといわくがありそうな阿片窟の女主人パファー(保坂知寿)など、様々な人物の思惑が入り乱れ、彼らの周りには不穏な空気が漂いはじめる。

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生憎の荒れ模様となったクリスマスの夜、ジャスパー宅にエドウィンとローザ、ネヴィルと双子の姉妹のヘレナ(瀬戸カトリーヌ)、牧師のクリスパークル(コング桑田)が集まる。案の定、エドウィンとネヴィルは言い争いになり、険悪な雰囲気を残したままパーティはお開きに。すると翌朝、エドウィンが行方不明になっているという報告が。エドウィンはネヴィルに殺されたのだと主張するジャスパーと市長のサプシー(山口祐一郎)。しかしネヴィルは犯行を真っ向から否定。ローザもエドウィンが死んだとは認めたくないと悲嘆にくれるが……。 

と、ここまでの流れは、チャールズ・ディケンズによる原作どおりなのだが、ディケンズは、この続きを書くことなく亡くなってしまった。エドウィンを殺した犯人は誰なのか? そもそもエドウィンは本当に死んだのか? 物語の展開と結末は?

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つまり、ここから先がその日、客席を埋めている観客に委ねられることになる。「ロワイヤル音楽堂」の俳優達が演じる登場人物の中から、投票制で犯人を選出。他にも犯人に迫る探偵役をゲームで選んだり、物語を爽やかなハッピーエンドで終わらせるためのカップル役を拍手で選んだり、といった様々な趣向による組み合わせはなんと288通り!  おそらく同じ展開、同じ結末に至る公演は2度とないだろう(なにしろ公演数よりも、組み合わせ回数の方が圧倒的に多いのだ)。生で演じられる舞台は、基本的にその日、その日が2度とない一期一会だが、それをここまでアトラクション的に逆手に取ったユニークな作品もそう多くはないだろう。

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そもそも、作家・チャールズ・ディケンズの死去により絶筆となったミステリー小説を原作としたミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』が初演されたのは、1985年のブロードウェイでのこと。翌年1986年のトニー賞でミュージカル作品賞、脚本賞、楽曲賞など計5部門を獲得、そして2013年再演時もリバイバル作品賞にノミネートされるなど好評を博した作品として知られている。そんな作品の日本版を演出するのは、これまで「笑い」を追求し続け、数々のヒット作品を手掛けている福田雄一とあって、とにかく舞台には種々様々な趣向がこらされていて、ひたすら笑わされ、驚かされることの連続だ。

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その全体をリードするのが、山口祐一郎であるというのが、作品のカラーを決定づけている。「ロワイヤル座の座長」という設定の山口の役どころは、物語の説明役と同時に、座長として座員たちへの指導やツッコミを入れに、かなりしばしば舞台に登場してくる。そして例えば宝塚歌劇退団後の初ミュージカルである壮一帆には「あの劇団の癖が全く抜けていない」とか、声優としても大活躍中の平野綾には「それは昨日のアフレコのキャラでしょう?キャラ引きずらないで」などのダメ出しを飛ばすのだ(もちろん2人の女優はわざとそう演じている)。だが、それらが山口の口から出ると、ほのぼのとした独特の雰囲気に包まれて、少しもあざとくなくただ可笑しみにあふれるから驚きだ。長年ミュージカル界の帝王として、数々の当たり役を持ち、主役を張ってきた人だが、製作発表会見やインタビューなどでの発言には、常に微妙に論点をはずした山口節とでもいうほかない、個性的な色合いを示してきた人でもあって、そのキャラクターがここまで舞台上に生きたのは、山口の長いキャリアの中でも1、2を争うと思う。舞台の成功を決定づけたのは、このキャスティングの妙によるところがまず大きかった。

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更に、多彩な出演者が、この相当に記憶力と瞬発力(なにしろ後半の展開は、その日の投票しだいのぶっつけ本番になるのだから)を要求される作品で、その実力を示しているのが頼もしい。タイトルロールのエドウィン・ドルード役の壮一帆は、宝塚で培った男役の演技力をふんだんに駆使できる役どころではあるが、それだけに収まらない本人の存在も感じさせなければならない作品の求める二面性をよく表現している。ミュージカルナンバーも男役のキーではなく、相当に高いのだが、か細い裏声になることなく歌いこなしていて、改めて力のある人だと印象づけた。物語の後半では、あっと驚く変身シーンも用意されていて、地力と軽みの双方があるのが、今後の女優活動への期待を膨らませた。

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美貌の歌姫ローザ役の平野綾は、金髪の鬘がとにかくよく似合い、婚約者がいながら何人もに横恋慕される役柄に絶大な説得力がある。歌もますます進化を遂げていて、今拓哉とのデュエットなど、この作品が軽やかなコメディ・ミュージカルであることをしばし忘れさせるほどの熱唱ぶりで、あの瞬間はまるでグランド・ミュージカルだった。そのギャップがまた、作品のアクセントにもなっていて、これはミュージカルファンには思いがけぬお得なプレゼントといった趣。今後も是非、たくさんのミュージカル作品に登場して欲しい人だ。

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その平野との壮大なデュエットをはじめ、たぶん劇中でわかりやすく一番怪しい人物、ジャスパーを演じた今拓哉は、持ち前の歌唱力はもちろんだが、こうした色濃い役柄での進境が著しい。どんな役どころでもこなせる、しかも歌える役者として、ますます重用されていくことだろう。やはりベテランの保坂知寿のパファーは、1幕のワンポイントの芝居が、後半の重要なキーポイントになる役柄を余裕たっぷりに表出。この人の任せて安心な盤石の存在感は、こういうその日、その日の先が読めない舞台では、共演者にとっても貴重なものに違いない。若手二枚目として、インドの煌びやかな装束を華麗に着こなすネヴィルの水田航生は、観客の支持を相当に集めそうだし、その双子の姉妹のヘレナの瀬戸カトリーヌの思いきりの良さ、こういう作品では、どうしても怪しい人なのではという視線が集まる、牧師のクリスパークルのコング桑田の、パワフルさと共にある、脱力感が絶妙な演じぶりなど、出演者の個性が舞台を更に弾けさせている。様々な役柄、更にはソロで1場面を担う役柄まである男性アンサンブルの面々や、「美人アンサンブル」と自ら名乗ってその通りだ、と思わせる女性アンサンブルの面々も大活躍で、テーマパークのような楽しさのある舞台を十二分に彩っていた。

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何よりも、客席にいて、自分の1票が物語を決められる。真剣に推理して1票を投じても、単純にファンの役者の出番を増やす為に1票を投じても、また熱烈に拍手を送っても、それは観客個々の自由。客席に座る度に違う舞台が観られるのだから、これはリピートの醍醐味も大きいだろう。少々の辻褄の合わなさや、強引さなどにはこだわらず、とにかく楽しんだものが勝ち!のおもちゃ箱をひっくり返したような舞台の客席で、作品の展開を握る主人公になれる。そんな、ユニークな体験を是非満喫して欲しい。
 
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〈公演情報〉
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ミュージカル『エドウィン・ドルードの謎』
原作◇チャールズ・ディケンズ(「エドウィン・ドルードの謎」)
脚本・歌詞・作曲◇ルパート・ホームズ 
上演台本・演出◇福田雄一
出演◇山口祐一郎、壮 一帆、平野 綾、水田航生、瀬戸カトリーヌ、コング桑田、今 拓哉 保坂知寿 ほか
●3/27〜29(プレビュー公演)◎シアター1010
●4/4〜25◎シアタークリエ
〈料金〉 S席 1,1500円 A席 9,000円(全席指定・税込)
〈問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-77779時半〜17時半)
〈公式ホームページ〉http://www.tohostage.com/edwin/

【全国公演スケジュール】
●4/28〜5/1日◎ 大阪・サンケイホールブリーゼ
〈問い合わせ〉ブリーゼチケットセンター 06-6341-8888(11時〜18時
5/4〜5/7 名古屋・中日劇場
〈お問い合わせ〉 中日劇場 052-263-7171 
5/14〜15 福岡・福岡市民会館
〈お問い合わせ〉 ピクニックチケットセンター 050-3539-8330 


【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝】