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トップスター朝夏まなとが牽引し、宙組メンバーのパワーが結集する、宝塚宙組公演「シェイクスピア没後400年メモリアル」ミュージカル『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』と、ダイナミック・ショー『HOT EYES!!』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(3月27日まで)。

ミュージカル『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』は、今尚、世界中でその作品が上演されていない日はないだろうとさえ思われる、演劇界の巨人、詩人であり、劇作家であるウィリアム・シェイクスピア本人の人生を取り上げたミュージカル。没後400年というメモリアルイヤーに合わせて、新進作家の生田大和が書き下ろしたオリジナル作品だ。

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16世紀末のロンドン。ペストの流行に怯える人々の間では、日常の困難をひと時忘れさせる演劇に熱狂が集まっていた。そんな中1本の芝居が上演される。その名は『ロミオとジュリエット』。脚本を手掛けたウィリアム・シェイクスピア
朝夏まなとは、この芝居に込めた若き日の妻アン・ハサウェイ実咲凜音との出会いを思っていた──。
時は遡り、6年前のストラットフォード・アポン・エイヴォン。劇作家となる夢を捨てきれず、革手袋職人の父親の意に背いて森で詩作にふけるウィリアムは、家の為の望まない結婚を強いられようとしている娘アンと出会う。ウィリアムの詩に興味を示したアンが、詩の朗読をはじめると行き詰まっていたウィリアムから言葉が泉のように湧き上がる。アンこそ自分の運命の人だと直感したウィリアムは、彼女に愛を告げ、その言葉の泉に魅せられたアンもウィリアムの想いを受け入れるが、その直後父親が理不尽に受けた屈辱を晴らそうと、ウィリアムは町で騒動を起こし永久追放の身となってしまう。バルコニーで互いの運命の悲劇を嘆く2人。だが、芝居を好む時の女王エリザベス1世美穂圭子)の為の一座を立ち上げようとしていた貴族ジョージ・ケアリー真風涼帆はウィリアムの才能を高く評価。2人に救いの手を伸べて結婚を許可し、ウィリアムをロンドンへと連れて行く。やがてジョージの下で劇作家として成功を納めたウィリアムは、女王との謁見も叶い、故郷からアンと息子を呼び寄せ、順風満帆に人生を送るかに見えたが、人の心を動かす彼の言葉を利用しようとするジョージをはじめ、貴族たちの思惑から、2人の間にも不穏な影が差し始めて……

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まず、演劇を志すものにとって神にも似た存在であろうウィリアム・シェイクスピアの華麗なる作品群を上演するのではなく、その本人を描こうとした生田の勇気に敬意を払わずにはいられない。何しろその存在が偉大すぎるし、更にこれだけ著名な作品たちの輝きに比して、作家本人の存在はほとんどベールに包まれている。甚だしくは現存する作品のすべてがシェイクスピアの手になるものではない?との説まであり、その制作年代すらが曖昧だ。つまりは、ほとんど何もわかっていないと言っても過言ではなく、この偉大な劇作家の人生を描くことは謂わば雲をつかむような話でもあって、これまでにもほとんど取り上げられてこなかった。

だが、生田はその何もわかっていないという点を逆手に取り、何でもありの想像の翼を広げた作品を書きあげることに成功している。何よりも面白いのは、シェイクスピアの人生に彼の作品をコラージュしたことだ。例えば、劇作家志望の青年ウィリアムが生涯の伴侶となるアンと出会うシーンは『ロミオとジュリエット』。劇作家として成功し多忙な日々を送る中で生まれたアンとの隙間に忍び寄る疑惑には『オセロー』。夫婦の絆の再確認には『冬物語』と、様々な作品の中でも最も有名な展開を、大胆にシェイクスピア本人の体験と重ね合わせている。もちろんこれはフィクションなのだが、演劇好きなら、更にシェイクスピアに詳しければ詳しいほど発見の多い、こんな作品が楽しくない訳がない。ドラマの展開はもちろん、二村周作の装置、特にシェイクスピア作品のタイトルを記したパネルなどは、思わず背景に見入ってしまったほどで、きっと天上のシェイクスピア本人も、微笑ましくうなづいてくれるのではと思える、作品の豊かさが嬉しい。この難しいチャレンジに打って出て勝利を納めた生田の手腕を高く評価したいし、芝居への愛がすなわち宝塚への愛につながることも、心地良さの所以だろう。

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中でもやはり、シェイクスピア本人を演じる主演の朝夏まなとの、どこか太陽を思わせる生来の明るさとパワーが作品に息づいている。反発していたはずの父親の為に憤ったり、口では冷たいそぶりをしていても、自身が成功を納めると父親の夢をかなえてやろうとしたり、とにかくこの作品のウィリアムは一言で言って「良い奴」で、それが朝夏の個性にピッタリと合っている。だから物語半ばで、アンに示す不審も「そんなことを言うときっと後悔するよ」が客席にストレートに伝わり、それはつまりラストの展開が読めることでもあるのだが、それが瑕疵になるどころか、大いなる魅力になるのが朝夏ならでは。実に溌剌とした主演ぶりだった。
対するアンの実咲凜音は、前作『王家に捧ぐ歌』で、大ヒロインのアイーダを演じた後なだけに、純粋な乙女を如何にも軽やかに演じている。冒頭と後半で息子をもつ楚々とした人妻というポジションになるが、こうした役柄はもうすでに手の内に入っていて、安心して観ていられる。リリカルな歌声の美しさも健在で、コンビの安定感が際立った。
シェイクスピアの才能を見抜き、その才能を愛すると同時に自らの野心にも利用しようとするジョージ・ケアリーの真風涼帆は、髭もよく似合い、色気もある万全の二番手男役として頼もしい芝居を披露。朝夏とは対照的に、どこか陰のある魅力の持ち主だけに、その立ち位置にミステリアスな香りがあるのが、役柄に更なる陰影を与えた。ジョージの妻エリザベスの伶美うららとの関係には『マクベス』を思わせる一面もあり、伶美のすさまじささえ漂う壮絶な美貌も手伝って、作品全体にとっても強いアクセントになっている。ジョージに同調する貴族たちサウサンプトン伯・ヘンリーの愛月ひかる、エセックス伯・ロバートの桜木みなとも、それぞれが個性的に役を演じて、スターとしての大きさを増していることが感じられる。

また、専科から特出のエリザベス1世の美穂圭子と、宮内大臣一座の役者リチャードの沙央くらまが、それぞれ大きな戦力として作品を盛り上げているのも見逃せない。美穂の位取りの高さは女王役に相応しい一級品だし、持ち前の歌唱力も万全で、ラストシーンの輝きを支えている。沙央のリチャードは、一座の役者の中でアンに密かな思いを寄せるという設定だけに、ここに沙央が入ったからこそ、群衆芝居の中から役柄が立ち上がる優れた効果を生んでいた。専科勢の助力かくあるべしの好演で、2人の力量と生田の配役の妙を共に感じた。

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一方嬉しいのは、これによって宙組のメンバーの出番が軽くなったとは全く感じられないこと。一座の役者たちには、劇中劇でシェイクスピアの著名な作品を次々に演じる妙味があって、澄輝さやと、蒼羽りく、和希そらをはじめとした多くの面々が躍動。当時の役者は男性に限られていたから、久々に男役を演じている純矢ちとせの姿も面白い。寿つかさ、美風舞良をはじめ、凜城きら、松風輝、星吹彩翔、風馬翔ら宙組をガッチリと支える個性派も大活躍で、宙組が総力をあげて作品を押し上げている様が圧巻だった。

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そんな熱量の高い芝居に対して、更に大きな熱量を放ってきたのが、ダイナミック・ショー『HOT EYES!!』で藤井大介の作。宙組は朝夏の前任者の凰稀かなめ時代から芝居の1本立てに多く当たってきている組で、更にその中で数少ないショー作品がすべて藤井作品という、かなり珍しい巡り合わせになっている。その中にあって、ダンサートップスターである朝夏の為に藤井が用意した新たな仕掛けが、宝塚の象徴とも言える大階段を全場に渡って使用するという方法だった。これは順みつきの退団公演だった1983年の『オペラ・トロピカル』以来の試みと言うから、実に33年ぶりのこと。階段の上から降りてくるということは、影で階段を昇らなければならない訳で、朝夏以下宙組メンバーの運動量は相当なものだと思うが、その甲斐あって、プロローグや中詰めなど、階段を駆使した人の出入りが多層的になることが華やかさにつながっている。よほど集中していないと、その出入りの妙を見逃すほどで、階段の半ばの上手側と下手側、また階段下の前部にも新たなアクティングエリアが設けられていて、観ていて目が足りないような気持ちを味わった。

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更に、朝夏の印象的な大きな瞳にテーマを求めたことも功を奏していて、瞳にフィーチャーしたメドレーなど、全体に弾むようなメリハリがあり、ただ大階段の迫力にとどまらないテンポの良さがいい。ダンサー朝夏ならではのショパンを使ったソロダンスは見惚れるばかりだし、その朝夏、真風、愛月、実咲、怜美、星風まどかと揃えた3組のデュエットダンスなど、宙組の胎動も確かに感じられる人の配置も含め、見どころの多いショー作品となっている。

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初日を控えた2月19日、通し舞台稽古が行われ、トップコンビ朝夏まなとと実咲凜音が囲み取材に応じて作品への抱負を語った。

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まず朝夏が「本日はお忙しい中舞台稽古においでくださいましてありがとうございます。千秋楽まで宙組公演どうぞよろしくお願い致します」また実咲が「本日はお忙しい中お集まりくださいましてありがとうございます。千秋楽までお客様に楽しんで頂けますよう頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します」とそれぞれ挨拶、記者の質問に答えた。

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その中で朝夏は、偉大な劇作家シェイクスピアを演じるにあたり、あくまでも生田大和の描いたフィクションの中での、感情の振幅や、成長を大切にしていると語り、また実咲も心を大きく動かされるので、芝居の基本に立ち返る思いがすると語った。シェイクスピア作品で最も好きなものは2人共に『ロミオとジュリエット』だそうで、この作品でのバルコニーシーンの熱の入り方、互いの息の合い方が納得できる話だった。

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またショーについては、大階段がずっと出ていることで華やかさがあり、また舞台から客席の距離がとても近く感じられると口を揃え、東京公演への手応えも十分の様子。充実した公演が展開されるだろうことが確信できる時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は5月9日発売の「演劇ぶっく」6月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚宙組公演
シェイクスピア没後400年メモリアル
ミュージカル『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』
スーパーバイザー◇小田島雄志
脚本・演出◇生田大和
ダイナミック・ショー『HOT EYES!!』
作・演出◇藤井大介
出演◇朝夏まなと、実咲凜音 ほか宙組
●2/19〜3/27◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円、S席 8,800円、A席 5,500円、B席 3,500円(税込)
〈問合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001(劇場・月曜休み)




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】



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