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本年9月での退団を発表し、更にエネルギーを加速させているトップスター龍真咲率いる宝塚月組公演、Musical『舞音─MANON─』〜アベ・プレヴォ「マノン・レスコー」より〜と、グランドカーニバル『GOLDEN JAZZ』が日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(2月14日まで)。

Musical『舞音─MANON─』は、フランス恋愛文学の最高峰の1つとされ、オペラ、バレエなどでも親しまれているアベ・プレヴォ「マノン・レスコー」を基に、舞台を20世紀初頭のフランス領インドシナに置き換え、謂わば「アジア版『マノン』」として再構築した、植田景子の意欲作だ。

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1929年夏、インドシナ駐在を命じられ駐屯地サイゴンの港に到着した、フランス海軍将校シャルル・ド・デュラン(龍真咲)が、ダンスホールの踊り子、通称「舞音
マノン」と運命的な出会いを果たすところから物語ははじまる。幼馴染でインドシナ総督令嬢カロリーヌ早乙女わかばとの婚約を目前にしているシャルルには、輝かしい未来が約束されていたが、黒髪をなびかせてサイゴンの富裕層の男たちを捉え続けるマノンの魅力を目の当たりにして、抗いながらもいつしか溺れていく。一方のマノンもまた、シャルルに心惹かれつつも、裕福に育った子供時代から一転、無一文で放り出されて以来、金の亡者となった兄クオン珠城りょうの命ずるままに、ただパトロンたちの間を飛び回り、子供時代同様の豪奢な暮らしを追い求めていた。そんなマノンと暮らすために、多額の金を必要としたシャルルは、フランス支配に対する独立運動を密かに進めている地下組織に、そうとは知らぬまま加担し、結果的にフランスを裏切る行為に手を染めていく。そんなシャルルを案じる親友クリストフ凪七瑠海は、なんとかシャルルを翻意させようとするが、すべてを犠牲にしてもマノンへの愛だけを貫こうとする、もう1人の自分美弥るりかに突き動かされるシャルルを止める術はなかった。だがそんなシャルルの前に、胎動する時代の波は更に過酷な運命を投げかけてきて……。

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盲目的に破滅へと突き進んでいく恋人たちの姿を描き、その見方によっては愚かしいとも言える行為の中にこそ、至高の愛を浮かび上がらせる原作世界は、宝塚でもこれまで上演されているが、今回植田景子がその舞台をアジアに移したことで、作品に独特の質感を与えている。爛熟の欧州から、静謐の東洋へ。この視覚的、精神的な効果は、作曲のJoy Son、装置の松井るみ、衣装の前田文子、振付の大石裕香、と、外部の女性クリエーター達が集った新鮮さと共に、舞台面に清新な風を感じさせる要素となった。端的に表れる「水の精霊」と名付けられたダンサーたちの動きを含めた、作品の流れの中に、常に風が吹き、水が流れている、そんな湿度を感じるのだ。この効果は思った以上に大きなもので、作品全体の印象を美しい世界観で染め上げていた。

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その涼やかな風の中に、異邦人として降り立つシャルルに、龍真咲のこってりとした個性がよく活きている。常に確固たる自分があり、そのパワーが片時も揺るがない人だが、だからこそこの静謐な世界の中で出会った、運命の恋にただ一途にひた走っていく男の情熱と、哀しみが迸る。しかも生来に陽性のエネルギーを発してもいる人だから、愛に殉じるシャルルの姿に、愚かさや悲壮感だけではなく、愛のみを追い求めた幸福感がにじみでるのも、この作品の本質をよく表していたと思う。強烈な個性が、役柄にピタリとはまっていて心地よい。男役として集大成に向かおうとするこの時期に、こうした役柄との出会いがあったのは、座付作家植田景子の手腕であると同時に、本人の強運と実力のなせる業であろう。

対するマノンの愛希れいかは、しなやかな肢体に宿る少女性が、宝塚世界の中の「ファムファタール」に相応しい。決して色香で人を手玉に取るというのではなく、少女期からの過酷な運命の前に、ただ兄に従い考えることを放棄したまま肉体だけが大人になっていった女性が、兄の死とシャルルの献身によって初めて本当の意味での大人の女性になり、真実の愛を知る。その過程をよく表したヒロインぶりだった。トップ娘役としてこの人の成長にもまた飛躍的なものがあり、このアジア版「マノン」の世界をよく支えていた。

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この公演から二番手男役のポジションについた珠城りょうは、まだ学年的には中堅にとどいたばかりというところなのを忘れさせる、どっしりとした落ち着きにこの人らしさがある。信じるものはただ金のみという、宝塚では難しい役どころだが、この役柄の死によってヒロインが再生するキーマンでもあり、その死に哀しみがあるのは正しい在り方だ。急速に力をつけることが要急されている立場でもあり、この経験は糧になるに違いない。ドラマ全体を後から俯瞰してみると、主人公にとって常に誠実な友人であったのはこの人だけだったのだ、と改めて考えさせられるクリストフ役の凪七瑠海が、その誠実さを真っ直ぐに表しているし、ほぼマイムだけでシャルルの心情を表す難役中の難役に挑んだ美弥るりかは、冒頭のセリ上がりから群を抜く華やかさ。両者共に月組の核をなしてきたメンバーとしての、地力と自負を感じさせた。もう1人、この公演から専科生となった星条海斗のフランス警察長官は、前作『1789』の役柄と主人公に対するポジションがあまりに近く、どうしても既視感があるが、それだけに役が手の内に入っている存在感が光る。

また、謎めいた賭博場の女主人憧花ゆりのの好助演は最早言うまでもないとして、同じ賭博場の支配人宇月颯は、おそらく本公演ではかつてなかったほど大きな役柄を、沈着な台詞回しと意味深い視線とで堂々と演じきっている。月組には持ち場を与えればこれだけの力を発揮する人材がいるのだということを、スタッフ諸氏には是非深く心に留めておいてもらいたい。他に、早乙女わかば、朝美絢、輝月ゆうま、海乃美月などなど、それぞれの個性が生かされた適材適所が見事で、独特の魅力を放つ作品が月組の総力をあげて創り出されていることが嬉しかった。
 
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そんな、静けさをたたえた作品から一転、カラフルに弾けるJAZZの世界を描き出すショー『GOLDEN JAZZ』は稲葉太地の作。グランドカーニバルと名付けられただけのことはあって、グッズとして販売もされているタンバリンや手拍子を客席も共に打ち鳴らしそう!という客席参加型のにぎやかなステージだ。

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特に、JAZZというと小粋でシックなイメージを抱き勝ちだが、スウィング、ラテン、ラグタイム、などなどJAZZという言葉の中に込められた、多種多様な表現を盛り込んでいるのがこの作品の特徴。謂わばJAZZになくてはならないアドリブ精神に富んだ、「なんでもあり」の世界が展開されていく。

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その中で、龍の歌唱力が幅広く生かされていて伸びやかに聞かせるし、JAZZの起源を求めたアフリカンリズムのシーンで芯を取り、持ち前のダンス力を如何なく発揮した愛希も出色。チェロ弾きの青年で中心となる珠城の場面には、踊れる新星暁千星や、歌の実力派貴澄隼人、晴音アキもフューチャー。一方で、凪七、美弥、星条の個性もたっぷりと魅せ、宇月のこれも秀でたダンス力も十全。芝居では辛抱役だった紫門ゆりや、千海華蘭、退団が惜しまれる煌月爽矢などの華やかさも目を引き、月組の豊富な人材が、多彩な場面場面を更に輝かせる効果を生んで、2016年の東京宝塚劇場年頭を飾るに相応しい、華やぎに満ちた時間となっていた。

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初日を控えた1月3日、通し舞台稽古が行われ、月組トップコンビ龍真咲と愛希れいかが、囲み取材に応じた。

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龍からは「皆様あけましておめでとうございます。本当はゆっくりされたい時なのだと思いますが、このような三が日の初日に通し舞台稽古にお越し頂きましてありがとうございました」という、記者へのねぎらいの言葉がまず冒頭に語られ、自身の退団発表もあり、改めて初心に返って地を固めて頑張りたいという力強い挨拶があった。

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また愛希からも「皆様あけましておめでとうございます。お正月からこうして集まってくださりありがごうございます」という言葉と共に、年頭から公演できることへの感謝と意気込みが語られた。

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また、前作『1789』では互いがコンビの役柄ではなかったことから、今回久しぶりにがっちりとコンビを組む2人に、新たな魅力の発見は?という質問が飛ぶと、2人は顔を見合わせて微笑み合い、先を譲った龍が言葉を選ぶように語る愛希をからかう一幕もあり、場の空気はますます和やかに。とても嬉しくて緊張していると語る愛希に、これだけ組んでいてまだ緊張するとはなんと初々しい、と笑った龍から、このタイミングを活かして頑張っていこうとの言葉がかけられ、それぞれの活動も多い月組トップコンビの、互いへの信頼感が伝わる場になっていた。

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尚、囲み取材の詳細は3月9日発売の演劇ぶっく4月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!



〈公演情報〉
宝塚月組公演
Musical『舞音─MANON─』〜アベ・プレヴォ「マノン・レスコー」より〜
脚本・演出◇植田景子
グランドカーニバル『GOLDEN JAZZ』
作・演出◇稲葉太地
出演◇龍真咲、愛希れいか ほか月組
●1/3/〜2/14◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円、S席 8,800円、A席 5,500円、B席 3,500円(税込)
〈問合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001(劇場・月曜休み)



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


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