IMG_0156

寺山修司生誕80年を記念して、大人と子供のためのメルヘン作品、美女音楽劇『人魚姫』が、本日、9月18日、東京芸術劇場シアターウエストで開幕する(
27日まで。10月17日〜18日兵庫県立文化センター 阪急中ホールで上演)。

『人魚姫』は1967年に寺山修司と宇野亞喜良が作った人形劇団のために書かれた、切ない愛の物語。今回の上演では、13歳の時に米国アポロ・シアターアマチュアナイト(キッズ部門)で優勝を果たした抜群の歌唱力を持つ青野紗穂が初舞台で人魚姫を、元宝塚歌劇団男役スターの悠未ひろが船長=王子役を演じることにはじまり、ほぼ女性ばかりの出演者と人形で幻想的な舞台が展開される。演出は2015年2月に読売演劇大賞の杉村春子賞・優秀演出家賞を受賞した気鋭の若手藤田俊太郎。また同じ年の読売演劇大賞で選考委員特別賞を受賞した宇野亞喜良が、役者が操る人形と役者の衣装などを手がける。華麗でファンタジックで妖しさも帯びた美術、衣裳も含め、さまざまに期待が集まる舞台だ。

IMG_0162

9月はじめの稽古場では、ダンスシーンの白熱した稽古が展開中だった。悠未ひろを中心に、芝居からそのまま続くという形ではなく、むしろきっぱりとしたアクセントとして挿入されるミュージカルシーンだけに、効果をあげる為に、出演者1人1人の顔の角度、笑顔にまで強い意識が求められる。繰り返すにつれ、場面がみるみる締まってくるのが伝わってくる。

IMG_0141

稽古場にところ狭しと飾られた美術の数々も、東洋的なものと西洋的なものがミックスされた上に、一目で宇野ワールドとわかる独特の美しさとオーラを放っていて、それらに囲まれた空間にいるだけで、舞台が創り上げる世界に誘われる思いがする。演出の藤田、美術の宇野が熱心に見つめる場面の先に広がる、本番の舞台への期待がいやがうえにも高まる時間だった。
 
IMG_0209宇野亞喜良と藤田俊太郎

そんな稽古場で、演出を手掛ける藤田俊太郎、男役の幻想性をまとって王子様を演じる悠未ひろに、それぞれ作品への思い、また意気込みなどを語ってもらった。

【藤田俊太郎インタビュー】

IMG_0013

──この作品を演出しようと思われたきっかけは?
今回は僕から発信した企画ではなく、プロデューサーから「寺山修司さんの作品を演出しませんか?」と依頼されたところからのスタートでした。でも、元々寺山さんが大好きでしたし、また美術の宇野(亞喜良)さんも、僕にとっては藝大時代からスターでいらした方ですから、寺山さんの台本で宇野さんが美術をされるカンパニーに関われるということで二つ返事でした。寸分の迷いもなかったです。
──寺山作品の面白さをどう感じていますか?
様々な観点があると思いますし、寺山さんには色々な種類の作品があります。60年代後半から「天井桟敷」を率いてアバンギャルドな演劇をしている寺山さんというのが、最も一般的なイメージだと思うのですが、この『人魚姫』は違っていて、「天井桟敷」結成前に、人形の為に書かれた芝居です。俳優ではなく人形が演じる為の本なので、アバンギャルドな面もありながらも、まるで短歌のような、寺山さんの抒情的な面が凝縮されているんです。寺山さんが少女の視点で書かれた詩集などもたくさんありますが、この台本にも少女の視点で描かれた抒情性が詰まっているので、それをどう演出していくかがポイントですし、作品の最大の魅力だと思っています。
──先ほど「スター」という表現をされた宇野さんの魅力は?
その手から創られるものすべてが素晴らしいです。絵画も立体的な人形も、すべてが宇野さんにしか描けない世界で、僕はもう昔からただ圧倒されるばかりでした。60年代、70年代を経て今なお、時代に関わらず輝き続けておられて、たくさんの方達が宇野さんの美術、その独特のビジュアルに魅せられているというのは、本当に大きな魅力があるのだと思います。
──そういう方と実際に、現場で共に仕事をされていかがですか?
宇野さんともこの間お話したのですが、何がこんなにも胸震わせるものを残すのかな?と思った時に、おそらく僕は宇野さんの美術を通して自分自身の中に、少年性ではなく少女性を発見するんですね。良い意味でのある種の違和感と驚きを宇野さんの美術から感じる。インスパイアされるものに、少年の目線ではなく抒情的な少女性に気づかせるものが、誰しもの中にあるのではないかと思っています。不思議な言い方として残しますが「自分の少女時代」に出会うんです。
──それはある意味でかなり劇的ですね。
そうですね。自分がかつて感じていたかも知れない目線だったり、感覚に気づくことですから。

IMG_0201

──そうした発見の中で、『人魚姫』の演出プランについては?
上演に向かって稽古をしている今の段階での演出プランを端的に言いますと、元々が、アンデルセンの童話である「人魚姫」、「リトル・マーメード」を底本に寺山さんの言葉で67年に書かれた人形の為の芝居です。ですから、まず人形劇をどう演出するのかを考えると、普通では表現できないキャラクターが出てくるんですね。クジラとか、そして人魚とか。物語はどなたもご存知のアンデルセンの童話ですから、単純な話なんです。人魚の女の子、人魚姫が人間の船長、王子に対して憧れを抱いて、初恋を胸に海の世界を飛び出て地上の世界に行くのですが、その初恋に破れて海の世界に帰ろうとした時には海はない。故郷は喪失してしまっている訳です。
これにどうやって色々な観点を持ち込んで上演するか?しかも人形劇ではなく、となると、普通にやったのではできない。そこで台本を読み込み、宇野さんとも話し合っていった結果、少しずつ見つかった観点が寺山さんの抒情性だったんです。短歌の中に凝縮されている寺山さんの抒情性がこの台本の中にはある。では、どうやってこの海を読み解こうか?と思った時に、寺山さんが青森にいた時に見ていた東京の風景、憧れがここにはあるんですね。実際に寺山さんが東京に出てこられてから書かれた「天井桟敷」のアバンギャルド性ももちろん内包してはいるんだけれども、一方で性的な台詞は1行もないんです。で、僕自身は秋田出身、東北の出身なんです。だからこそ寺山さんの田舎の少女の視点で書かれたような抒情性に惹かれるし、そこに僕が憧れていた宇野さんの美術がある。となると、この物語の人魚姫と王子様を読み解く上で、答えとしてバッと見つかったのが東北の海でした。東北の海の中で生きる少女。
今、東北の海岸の風景というのは一変しています。僕もボランティアで行きましたが、先日、この芝居に入る前にも自分の故郷には寄らずに、太平洋側をずっと旅してきました。やはりボランティアで見た時のように海岸沿いの風景は一変していました。でも、東北の方々は今、その2011年を語り継ごうとしておられて、語り部の方達がたくさんいらっしゃいます。ですから寺山さんの1967年の作品を今、2015年に上演しようとした時に、何が違うかと言えば当然ですが、2011年があった、ということなんです。これは歴然とした事実としてそこにある訳です。
じゃあ僕は東北人としてどうしようか。今、一変している東北の海岸沿いの風景は、もしかしたら東北の海の中で鮮やかな祝祭として生きていて、その祝祭の世界にいた青野(沙穂)さんの人魚姫が、悠未(ひろ)さんの王子様がいる、宇野さんの美術のある海の上の世界に憧れていった。そして自分が1番大事な声すらも失っても構わないという強い思いで行ったけれども、その初恋は実らずに海の世界に帰ろうとしたらその海はない。そう読み解くと全部つながるんです。少女が、悠未さんという男役がきちんとできて明晰な台詞術をもった素晴らしい存在感を持った王子と、宇野さんの美術と、黒色すみれさんが演奏する音楽に出会うという構造を作れば、この作品が演出できると思った、それが大枠です。それらがひとつひとつ具現化していったのがこの風景です(稽古場を示す)。
──舞台への期待がますます大きく膨らみますが、改めて見どころを。
まず寺山さんの言葉。その力に恐れおののきながら、毎日稽古をしています。日々発見の連続です。そして宇野さんの素晴らしい美術。更に笠松泰洋さんの音楽の構成が、寺山さんの言葉を通して、オペラのようでもあり、ミュージカルのようでもある色々な要素を、音楽の中に読み解かれています。出演者も皆素晴らしくて、悠未さんの歌は圧倒的ですし、人魚姫を演じる青野さんの17歳の溌剌とした歌声、その2人の主役と僕は考えているのですが、2人を軸に、出演、そして演奏の黒色すみれさんの奏でる音楽も良いですし、全員が本当に素晴らしいので、僕はこの出会いの中に、新しい観点を持ち込み、新しい表現ができないか?と思って演出をしています。人形もたくさん出てきますし、元々人形劇として書かれた寺山さんの作品が、どのようにしたら今の時代に新しく生まれ変われるか。僕自身も挑戦です。是非観にいらしてください。

IMG_0026
ふじたしゅんたろう○秋田県出身。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在学中の04年、ニナガワ・スタジオに参加。当初俳優として活動し、05年以降15年初頭まで蜷川幸雄作品に演出助手として関わってきた。11年『喜劇一幕・虹艶聖夜』で作・演出を手がける。12年、彩の国さいたま芸術劇場さいたまネクスト・シアター『ザ・ファクトリー2(話してくれ、雨のように……)』を演出。14年1月〜2月新国立劇場小劇場で上演の『The Beautiful Game』を演出、その成果で15年2月第22回読売演劇大賞の杉村春子賞・優秀演出家賞をダブル受賞。絵本ロックバンド「虹艶Bunny」としてライヴ活動も展開中。


【悠未ひろインタビュー】

IMG_0055

──寺山修司作品にはこれまでどういう印象を持っていましたか?
私はこれまで宝塚ひと筋で、舞台が好きというよりもとにかく宝塚が好きという人間でしたから、お恥ずかしい話ですが、ほとんど存じあげていませんでした。ただ、住んでいるところが下町なので、歴史ある古書店で寺山修司さんの作品がコーナーになって並べられていたりするのを見て、改めてこんなにすごい方の作品に私が出させて頂いて大丈夫かな?と思ってしまっているところです。なので、事の重さが皆さんよりはわかっていないところがあったのではないかと思います。
──ではかえって自然体で作品に飛び込める面がありますね。
過度にプレッシャーを感じずに、この作品の中で私にできることはなんだろう?と探しながら、演出の藤田さんと、このキャストのメンバーと作る新しいものを、と思っています。
──戯曲を読んでの感想はいかがでしたか?
台詞がまるで詩のようで、とても文学的で、私のこれまでの感情の襞の中では手が届いていなかった部分の、心をくすぐられるものを感じました。藤田さんは、寺山さんがいなかったら自分はこの世界に身を置いていなかった。寺山さんがいたからこそいまの自分がある、といつもおっしゃっていて、台詞の抒情性の素晴らしさについてたくさんお話してくださるので、更に深く感じ取れてきていて、音楽的なものや崇高さも感じます。
──そんな作品の中で、悠未さんの王子様が観せて頂けるということなのですが。
今回も男役でのオファーを頂きまして。もちろん宝塚を退団して以降、男役だったらなんでもやります、というスタンスでいる訳ではないのです。でも、『人魚姫』という、自分自身が幼い頃から知っている物語の王子様役、寺山さんの戯曲の中では「船長」という役柄になりますが、皆が憧れて恋する「王子様」に扮することができることに魅力を感じました。特に私は宝塚時代も悪役や、色の濃い役柄が多かったので、白いイメージの役はさせて頂いた経験が少ないですし、更に外部で、宝塚の男役としてではなく、今の自分にできる新たな男役スタイルを、藤田さんに引き出してもらえるのではないかと。稽古でも、私が宝塚で培った男役としての経験から提案したものを、藤田さんが「あ、いいですね」と言ってくださることもあれば、「せっかく僕が演出するので、ここは大劇場スタイルではない形でやってみましょうか」と、おっしゃられることもあって、お互いにアイディアを出し合ってすり合わせているので、今、とても楽しいです。
──宇野亞喜良さんの装置や衣装についてはいかがですか?
これまで触れたことのない、まるで美術品の中で、こうしてお稽古させて頂いているので、もうここにいるだけで不思議な世界に迷い込んだような気持ちがします。

IMG_0127

──確かに周りを見回しただけで幻想的な空間ですね。
普通のミュージカルや、芝居の稽古場とはまったく違いますよね。
──宇野さんの作品についてはどんな印象を?
お名前はやはり失礼ながら存じあげないまま、絵本や雑誌などで目にしていて、作品にはよく親しんでいました。改めて伺ったら「かの有名な」というようなすごい方でいらして。でも作品だったら「私、子供の頃から知っている!」という気持ちがありましたので、懐かしさと同時に、嬉しさを感じます。作品の中には斬新なものもあるのですが、夢々しく美しくメルヘンの世界そのものの作品も多くて、とても惹かれますね。
──その独特の世界観の中で王子様を演じられますが、悠未さん自身も王子様に憧れた経験は?
あります、あります!(笑)幼い頃読んだ絵本から「いつか私にも白馬に乗った王子様が現れる」と憧れて、大人になっても心のどこかでは待っているところがありますね。
──そんな少女の憧れを今回具現化するにあたっては?
今回はキャストのほとんどが女性なので、男性のお客様にも沢山いらして頂きたいですが、まず女性の目から見て素敵!と思える男性像を作りたいです。それは宝塚の時から意識して作っていたものでもありますし、ときめいて頂けるような、本当の男性にはない柔らかさや、繊細さが醸し出せればいいなと思っています。それが私が退団しても男役を演じる時に目指しているところでもあります。宝塚は宝塚として世界が確立していますが、そこから抜け出した時に演じる男役が、違和感があっておかしいではなく、形を変えて成立するものとしてやっていけたらといつも思っているので、今回はまた良い挑戦の機会を頂いたなと。まだどうなるのかがハッキリ見えている段階ではないのですが、それは、自分の想像以上のところにゴールがあるからこそだと思いますから、絶対に良いものになると信じて進んでいきたいです。
──では、改めて意気込みを。
アンデルセンの童話、絵本の「人魚姫」とはまた違って、寺山さんと宇野さんと藤田さんが作られる『人魚姫』には色々なメッセージが込められていて、でもそれを押し付けるのではなく、お客様それぞれに感じとって頂けたらと。東北の海が舞台になっていて、日本ものの香りを持ってはじまって、そこに西洋のものがミックスされていく不思議な世界観になっています。私自身がこの世界に入っていることも不思議な雰囲気でしょうし、人魚姫役の青野さんはじめ、「初めまして」の方達との出会いから生まれる融合と化学反応を是非楽しんで頂きたいです。本当に美しい世界になると思いますので、多くの方に観にきて頂けたら嬉しいです。精一杯頑張ります。

IMG_0142
ゆうみひろ○東京都出身。97年、宝塚歌劇団入団。『Le Petit Jardin』(05年)、『逆転裁判3』、ディナーショー『Heroe』(13年)等に主演作の他数々の名舞台を残した。13年『風と共に去りぬ』アシュレ役にて宝塚歌劇団を退団。退団後は、14年に『東京會舘 悠未ひろトークショー』『日経ホール チャリティーコンサート』主演、『MOONSAGA−義経秘伝−第二章』(平教経役)『悠未ひろクリスマスディナーショー』、15年『NARUTO-ナルト-』 (大蛇丸役)、同作品のワールドツアーなどに出演。ホンダCM「Nシリーズ就職篇」で歌唱も披露するなど、活躍の場を広げている。

IMG_0155
IMG_0112



〈公演情報〉
20150614_2008081
美女音楽劇『人魚姫』 
作◇寺山修司 
演出◇藤田俊太郎  
美術・衣裳・宣伝美術◇宇野亞喜良  
作曲・音楽監督◇笠松泰洋   
振付◇新海絵理子  
出演◇青野紗穂、悠未ひろ
水嶋カンナ、フラワー・メグ、佐藤梟、関根麻帆、有栖川ソワレ、日和佐美香、神谷沙奈美
高畑こと美、大内慶子、小川愛理、肥田ももな、金世那
人形遣い:ルナティコ  
演奏:東グルナラ   
演奏・出演:黒色すみれ
●9/18〜27◎東京芸術劇場シアターウエスト
●10/17、18◎兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
〈料金〉前売り¥5,000 当日¥5,500(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉
東京公演:Project Nyx 03-6312-7031 http://www.project-nyx.com  
兵庫公演:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255
http://www1.gcenter-hyogo.jp/sysfile/center/top.html


【取材・文/橘涼香 撮影/アラカワヤスコ】


話題作のレビュー、製作発表、稽古場レポート、インタビューなど
title_yoho

お得なチケット販売中!『ラ・マンチャの男』、水夏希出演のDANCE SYMPHONY〜最終楽章〜『THE DANCERS』、安寿ミラコンサート『la vie d’amour 〜シャンソンに誘われて〜』チケットも日時・枚数限定で販売中です♪ 演劇ぶっくバックナンバーも。
shop_rogo_l

header_rogo


粟根まこと、松永玲子ほか、キーポイントQ&A【演劇人の活力源】など連載中!
title