宝塚ジャーナル : Rock Ballet『義経』～命果つるまで、疾風怒濤編～　上田遙・三浦宏規・渚あき・松原剛志・麻尋えりか　座談会

前列／上田遙、渚あき、三浦宏規　後列／麻尋えりか、松原剛志

ダンス界の革命児・上田遙が率いる「煌ダンスカンパニー」は、本年３月にRock Ballet『義経』～悲しき愛と美しい死の物語～を上演、義経が京都に入るまでの物語を描き、大きな評判を呼んだ。そしてこの度、その後の義経の運命を描く『義経』～命果つるまで、疾風怒濤編～を、９月11日から13日まで、品川の六行会ホールにて上演する。

今回の物語は、兄や朝廷から追われ、弁慶や仲間たちとともに落ちのびていく義経の悲劇的な運命を描き出す。

主演の義経は弱冠16歳の注目ダンサー三浦宏規。共演には、静御前に元宝塚娘役トップの渚あき、弁慶には松原剛志、源頼朝に花園直道、北条政子に麻尋えりか、また劇団☆新感線のインディ高橋なども加わる。前回に引き続き、伊勢三郎の和田泰右と苔丸の木原実優、ドラムの樹（タツル）も出演、悲劇のヒーロー義経の波乱の生涯が、ダンスと歌と芝居で表現される。

その舞台の構成･演出を手がける上田遙と、メインキャストである三浦宏規、渚あき、松原剛志、麻尋えりかに作品について語り合ってもらった。

失いたくない大切なものとは

──前回は、義経が弁慶や兄・頼朝と出会い、平家を打ち破り、京に入るまでの物語でしたが、今回はどうなるのでしょう？

上田　前回の最後は、後白河法皇から官位を貰った義経に、静が「そんな紙切れなど捨ててしまいなさい。本当に大切なのは支えてくれる人たちであり心でしょう」と言う場面で終わりました。今回は、その言葉通り理想の国を作ろうということになった義経が、情が深いことや若さゆえの過ちもあって、かけがえのない仲間を失っていきます。でも彼らは、義経と出会えたこと、ともに生きられたことで悔いはないと言うんです。そういう仲間の志を受けとめて義経は最後に６分間のソロを踊ります。その前に松原さんの弁慶も自分の思いを歌で歌います。
──涙なしでは見られない場面ですね。

上田　でもキャッチコピーにあるように「必ずや来世でまた会おう」という思いがあればこその別れでもあるんです。死をどう捉えていくかも、この作品のテーマの１つなので。（三浦）宏規はまだ近い人の死の経験がないので、どう想像して演じるか難しいとは思うけれど、自分にとって大切なものを失うとはどういうことなのか、そこをどう考えるか、それが大切だと思っています。

──三浦さんは何を失ったら恐いですか？

三浦　難しいですね。まだ身内も元気なので失うことは想像しにくいですし、何を失ったら……。

渚　踊りとか？　もし、もぎ取られたら？

三浦　困ります。でも難しい…この答はちょっと考えていいですか（笑）。

上田　今、あきさん（渚）がさりげなくかばってくれましたけど、今回の静にはこれが必要なんです。あきさんは元宝塚の娘役さんですから、包容力とか相手役を引き立たせる力を持っているんです。

静の役を演じるのは４回目

──それぞれの役について伺いたいのですが。三浦さんは義経は二度目ですね。

三浦　前回、先生（上田）が「この『義経』をやるにあたって、宏規自身が義経になって成長していくのがテーマだ」と言ってくださったんですが、まだ一緒に成長できてないなと実感しています。今回は初めて台詞も言わせていただくので、台本をしっかり読んで言葉を噛み砕いて、少しでも近づけるといいなと思っています。

──前回より義経の苦悩や葛藤も深まりそうですが。

三浦　一緒だった仲間が死んでいくのは、義経にはつらいことだと思います。最期に踊るレクイエムは６分あるので、そこをどう踊るかが課題です。

──渚さんは静御前の役は、なんと４回目だそうですね。

渚　そうなんです。最初に宝塚に入って間もない頃に、『花のもとにて春』という作品で初めて大きな役をいただいて、静の子供時代を演じています。その後、『この恋は雲の涯まで』の新人公演で、義経と一緒に大陸に落ちのびようとするとき嵐に襲われ、それを鎮めるために舟から身を投げる静を演じました。それから退団後、松平健さんがNHKで弁慶を演じられて、その舞台化の『弁慶』に静の役で出させていただきました。そして今回ですから、どこまでご縁があるのだろうと。

上田　４回目というのは知らなかったな。

渚　あまりのご縁に、自分でも「なぜまた今、静なんだろう」と考えました。きっと何か意味があるのだろうと。たぶん、三浦さんがこの若さで演じる義経の、その魂の初々しさに触れることが大事なのだろうと。それに10数年踊ってない私に踊らせようとする上田遙さんの勇気に（笑）向き合うことも。いろいろな意味を追い求めながら、今の自分ができるベストでやりたいと思います。

──静を渚さんにしようと思ったのは？

上田　僕は会ったときの直感で決めるんです。あきさんとは、まず一度お会いしましょうとなって。

渚　お会いした途端、「じゃ、お願いします」（笑）。「え、こんな早く？」と。

上田　階段を昇ってくるあたりから様子を拝見していたんです。松原さんの場合は舞台を拝見して決めたんですが、あきさんの場合は立ち居振る舞いです。それで、「基本的には歌が中心で踊りはあまりないです」と嘘をついて（笑）。

渚　今回は歌がメインなのでと（笑）。でも稽古が始まったみたら、なんでこんなにリフトがあるの？と（笑）。

上田　後半には麻尋さんの北条政子と女性同士の対決シーンもありますからね。鶴岡八幡宮の場で義経を思う静の気持ちを、政子が咎めるんですが、やがて女同士としてはわかり合えると変化していく、いい場面です。

渚　頼朝や北条政子は静の側からだと酷い人たちなのですが、夫婦としてはとても仲が良いんですよね。政子さんは夫をとても愛していて、本当によく尽くしていたようですね。

上田　頼朝を祀るための神社をあちこちに建てています。

一心同体で動く弁慶

──政子を演じるのは麻尋さんですね。

麻尋　私も悪役というイメージがあって、このポスターも撮るまでは黒いイメージだとばかり思っていて（笑）。でもヘアメイクの方がカラフルにしてくださったので、ちょっと意外でした。内側に燃えるような情念があるのかなと思いますし、たぶん、これまでのイメージを裏切るような政子さんかなと。

──麻尋さんは渚さんのトップ時代、同じ星組にいたそうですね。

麻尋　初舞台が、香寿たつきさんと渚さんのトップコンビお披露目の『LUCKY STAR！』でした。

渚　えーっ、そうなの？　ごめんね、私、本当に現役の時の記憶がうすくなっていて…（笑）。

麻尋　すごくお忙しそうでした。でも私たち初舞台生はトップさんと目が合うだけで興奮していました（笑）。

渚　ごめんごめん（笑）。今、繋がった！　すごく綺麗な男役さんだった。

上田　ということは、退団以来初めての共演なんだね。すごいな！

──そういう２人が対決するわけですね。

麻尋　それ、無理だと思います（笑）。

上田　僕の北条政子は北斗晶なんです（笑）。悪役を演じていながら、素顔は心優しいお母さんなんです。

麻尋　少しイメージがわかりました。振付をいただいたときも、ちょっと思っていたイメージと違うので、面白いなと思って。頼朝役の花園（直道）さんとデュエットも踊らせていただくのですが、２人が噛み合わない振付もあったりして楽しいです。

──そして、弁慶は松原さんですね。

松原　僕は義経の物語にそんなに詳しいわけではなく、荒くれ者で体が大きくて強靱な人というイメージだったのですが、この作品の弁慶は、育ちのことなども出てくるし、義経に惹かれて自分の志を投影して夢を預けるというところや、父のようであり母のようであり愛情深い人間というところがとてもいいなと思いました。そして思った以上に義経と一心同体で動いているので、義経を生かすも殺すも僕次第になるなと。

三浦　松原さんはすごく優しいんですよ。この間も歌を教えていただく機会がありまして、お手本を聞かせてくださったのですが、すごくわかりやすくて。例えば僕のまだ出来てない声を「こう出せばいいんだよ」と、出来てない声と出来ている声と両方出して比較してくださるんです。そして、最後に「１回歌ってみるからね」と聞かせてくださった歌声が弁慶そのもので、感動しました。松原さんに付いていこうと（笑）。

松原　もっと面白い話をしましょうか。この近くに美味しいホルモン焼きのお店があって、僕は大好きなので連れていってあげたくて誘ったんですけど、「ごめんなさい。僕、焼肉とかホルモン、一切食べれないんです」って。

渚　うそー！

麻尋　お肉も？

三浦　もともとお肉が食べられなかったんです。でもこの１、２年でやっと食べられるようになって。

渚　お肉は喉にもいいのよ。

三浦　赤身とかではダメですか？

渚　赤身でいいから。どんどん食べてね（笑）。

真っ直ぐに相手を見る三浦義経

──こういう義経だと、ますます弁慶はかばいたくなりますね。

松原　三浦くんはたぶん今、義経という大役を与えられて、芝居や台詞廻しなど素敵に演じなくてはいけないと思っていると思うんです。でもすでに素敵な義経になる資質は十分持っているので、今の三浦くんのままでいいんです。気取らずに台詞も言えばいい。そういう義経をどうお客様に素敵に見せるかは、僕たちみんなの仕事なのだから。だから初めてお芝居するということに臆することなく、自分自身で体当たりしていけばいいんです。

上田　いいこと言ってもらったね。確かに宏規はそのままでいい。実際に16歳でそのまま義経なんだから。僕はよく宏規を叱るんですけど、どんなに叱っても彼は目の光が落ちないんです。そこがいいところで、それが彼の才能だと。弁慶は荒んだ世を生きてきて、あるとき目の前に現れた義経のこの澄んだ目に賭けてみようと思うわけです。そういう関係性がそれぞれの役同士で生まれてくればいいと思うし、きっと出来てくると思っています。

渚　稽古場でも三浦くんは誰よりも沢山踊ってて、汗でぐちゃぐちゃになってもまだ踊ってるんですよね。それを見ると私たちも頑張らなくちゃと。この等身大のよさでいいんだと思います。今の輝きでいいんです。

麻尋　彼はすごく真っ直ぐにこちらを見てくれるので、逆に見透かされてるような恐さがあって（笑）、この子に嘘はつけないなと思いました。お稽古していても本当に一生懸命だし、本当に好きなんだろうなと。舞台って誤魔化せないものなので、絶対に素敵に立つと思います。

三浦　僕、さっきの質問の答がでました。こんなに愛のある方々に囲まれているので、これを失いたくないです。

上田　このメンバーでこういうふうに話すことなんて、たぶん二度とないと思うんです。でもこういう一期一会が彼を育てていくし、大きな力になっていく。僕はある時期から、自分が本当に一緒にやりたい人たちとだけ一緒に創ろうと決めたんです。それは中村勘三郎（18世）さんが亡くなったときで、そのあとも友だちとか知り合いの役者さんとか次々に亡くなった。そのとき「そうか、そんなに長く生きていられるわけじゃないんだ」と。そうすると自分の持っているものを皆さんに全力で叩きつけるしかない。「今」の大切さを強烈に感じているわけです。だから松原くんも勝手に電話して口説き落として（笑）。

松原　すごい情熱で口説き落とされました（笑）。

出会いがすべて！人間ドラマが描きたい

──この仕事を続けていくことは大変ですが、先輩たちから三浦さんにアドバイスするとしたら。

松原　やはり素晴らしい先人たち、そして自分をレベルアップさせてくれる演出家との出会いが一番だと思います。三浦くんが上田さんのような方とこれから何人出会えるかですが、たぶん片手ほどもないのではないかと。こうして上田さんに会えたことは、三浦くんにとってすごく幸せだと思います。

麻尋　宝塚のときも退団してからも、出会った沢山の人たちが今の自分を作ってくれていると思います。ですから、いかに色々な人と出会うか、そしていかに色々な人と話すかですね。たとえ考えが違ったとしても、だからこそ見えてくるものがあるので。私は以前、よく「自分探し」という言葉を使っていたのですが、自分探しも他の人たちがいないとできないんです。ぜひ沢山の人に出会ってください。

渚　私も「人」って財産だなと思います。そして今の三浦くんを見ていると「そのままでいいんだよ」と思います。私もこの間、同じ言葉を言われたのですが、以前はいつも言われていた言葉で、久しぶりにそれを言われたことで「あ、いいんだ！」と思ったんです。そういう言葉をくれるのも「人」なんですよね。とにかく自分に素直でいればいいと思います。それに私から見れば、この年齢で親元から離れて東京に来ているだけでもすごいなと。でも守ってくれたり叱ってくれたりする方が周りにいるのは心強いですよね。

──皆さんに沢山アドバイスをいただきました。

三浦　うまく言えないんですけど……すごく心に響きました。

上田　結局、僕は人間ドラマが描きたいんですよ。だから今回も皆さんと出会ったことで創作意欲が湧くんです。出会いがすべてなんです。そして、技術だけではないそれぞれの人間性を舞台で見せたいわけです。今回のカンパニーと一緒にこれからできる空間に、僕自身大きな期待を持っています。ぜひ、楽しみにしていてください。

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うえだはるか○ 演出家・振付家。1987年『叫びと囁き』で全国舞踊コンクール第1位文部大臣奨励賞受賞。熊川哲也、川井郁子、真琴つばさ、東山義久、東儀秀樹、早乙女太一などと意欲的な舞台を創り上げ、舞踊界に大きな影響を与え続けている振付家・演出家。1988年村松賞、1993年国際振付家コンクール、1996年批評家協会新人賞、2002年第20回江口隆哉賞を受賞。

みうらひろき○三重県出身。５歳よりバレエを始る。2013年に14歳で上田遙に見出され、煌ダンスカンパニーに所属、東京での活動を開始。2014年に15歳で『ハムレットの物語』で初主演を務める。続いて2015年３月のROCK BALLET『義経』でも主演。他に、Blue White（2014）、オペラ『鹿鳴館』（2014）、Dramatic・super・dance・theater『サロメ』（2014）、ミュージカル『恋するブロードウェイ』（2015）などに出演。

なぎさあき○兵庫県出身。88年、宝塚歌劇団入団。『キス・ミー・ケイト』で初舞台。雪組に配属。 90年『花のもとにて春』でバウホール初ヒロイン。その後花組を経て01年、星組トップ娘役に就任。03年、宝塚歌劇団を退団。女優として舞台・映像で活躍中。最近の出演舞台は『レ・ミゼラブル』『鉄道員(ぽっぽや)』『ピーターパン』『五木ひろし特別公演』など。

まつばらつよし○東京都出身。05年に『ボーイフロムオズ』のクリス・ベル役でミュージカルデビュー。それ以降『プロデューサーズ』、『FAME』、『タイタニック』、『レ・ミゼラブル』などのブロードウェイミュージカルに多数出演。最近の主な舞台は『何処へ行く～クォ・ヴァディス～』『ひめゆり』『アリス・イン・ワンダーランド』『ON AIR ～夜間飛行～』『デスノート The Musical』（15年）など。

まひろえりか○富山県出身。02年、宝塚歌劇団に入団。麻尋しゅんの芸名で星組の男役として活躍。『王家に捧ぐ歌』新人公演のアイーダ、『ベルサイユのばら』新人公演のオスカルなどを務め、『アンナ・カレーニナ』で主演。09年の退団以降は、女優として映像や舞台で活躍中。最近の出演舞台は『ニンギョヒメ』ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』-Petite　Etrangere-、ミュージカル『ショウ・ボート』など。

〈公演情報〉