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宝塚雪組の二番手男役スター望海風斗を中心に、暗黒街のボスを主人公にした、宝塚歌劇雪組公演ミュージカル『アル・カポネ〜スカーフェイスに秘められた真実〜』が赤坂ACTシアターで上演中だ(6月1日まで)。

禁酒法時代のアメリカで、その法律を逆手に取りニューヨークとシカゴのアンダーグラウンドに一大帝国を築き上げた、伝説のギャング、アル・カポネ。頬に傷を持つ(スカーフェイス)この実在の人物、謂わばアンチ・ヒーローを、宝塚歌劇の世界で主人公として取り上げるとは、かなり大胆な発想だ。けれどもやはり実在の戦場カメラマン、ロバート・キャパを描いた経験のある作・演出家の原田諒が、この難題に果敢に挑み、カポネに扮した望海風斗が、その高い要求に応えて堂々の演技を披露している。

禁酒法時代をむしろチャンスと捉え、酒の密造と密売を足掛かりに巨大な闇組織を構築していくカポネに相応しく、酒樽を組み合わせて作られた松井るみの装置が、まず印象的に舞台の展開を支えてゆく。その中で、1929年、ニュージャージー州の刑務所にむしろ意図的に収監されていたカポネが、自らをモデルにした映画の脚本を書いたベン・ヘクト(永久輝せあ)を呼び寄せ、映画でどのように自分が描かれても構わないが、脚本家にだけは「真実のアル・カポネ」を知っていてもらいたい…と語りはじめることで、ドラマは一気に1917年に遡る。大ボスとしてのカポネをまず観客に提示しておいて、イタリア移民二世で固過ぎるほど真面目な青年だった若き日のカポネを改めて見せる展開が鮮やかだ。
 
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ここから、カポネのイタリア人同士の絆を大切にする心根の深さ、また生涯の伴侶であり、この作品ではカポネが頬に傷を受ける原因ともなる運命の女性メアリー・ジョゼフィン・カフリン(大湖せしる)との出会いと恋、カポネにアンダーグラウンドで生きていく道をつけるイタリア系マフィアの大物ジョニー・トーリオ(夏美よう)との関わりなどを一気呵成に見せていく流れは、なかなかに快調だ。

特に、望海の定評ある歌唱力が作中に見事に生きている。何より数々の歌の色を自在に変えて歌うことができるから、将来に明るい夢を抱いていた晴れやかな若者が、次第に運命の手によって裏社会に導かれていく過程が歌を聞いているだけでもわかり、決して明るいとは言えない題材をミュージカルの方法論で運んでいく絶大な力となった。望海の苦み走った持ち味も役柄に合っていたし、貫録も十分。主役としての東京公演はこれが初めての機会だったが、とてもそうとは思えない安定感を示していて頼もしい。ますます将来が楽しみになった。

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一方、これは作品の構造としての問題なのだが、1幕の快調さに比して、2幕の展開がやや駆け足になるのが作品全体に力感があり、望海も素晴らしいだけになんとも勿体ない。その最大の要因として、カポネを最終的に追い詰めることになる捜査官、エリオット・ネス(月城かなと)の登場が遅いことが挙げられるだろう。エリオットの本格的な登場は2幕の第7場で
2幕全体は11場)、ここまでは映画の脚本家ベンが、カポネの話を聞いているという外枠が保たれたままだから、どうしてもカポネとエリオットとの関わりの書き込みが薄くなるきらいがある。もちろん、エリオットがカポネに、捜査対象としての感情を超えた心の琴線に触れるものを覚えたことはよく描かれているし、月城の歌唱も十分に聞かせる。華やかな美貌も手伝って、望海の圧倒的な主人公ぶりに対して、その主人公カポネが、本当はこんな人生を歩みたかったという羨望を抱く存在として、見事に対峙してもいるのだが、エリオットが「カポネを親友だ」と感じたところまでを納得させるには、あまりにも舞台上の時間が短いのが惜しまれた。
もっとも、1幕ラストのマフィア同士の大抗争シーンで「絶対に堅気の人間は巻き込まない」というカポネの強い信念で、通りかかってしまった抗争現場から恋人と共に逃がしてもらうという重要なシーンで、学生時代のエリオットが登場してはいる。カポネの男気も表す実に良いシーンだし、照明効果もあって、この人物が後々ドラマに関わってくるな、というメッセージは鮮やかに示されるのだが、惜しむらくはこの場に至るまでに月城がアンサンブルとして街の男や、サックス吹きの男、またギャングなど様々な役柄に扮して登場していること。月城かなとというスターに存在感があるだけに、これによってどうしてもエリオット初登場のインパクトが弱まる面があったと思う。出演者の少ない公演の事情は重々わかるのだが、ここはやはりある意味我慢をして、月城はこの場面まで使わないという選択肢もあったのではないか。カポネとエリオットの交感が実に良かっただけに、思案のしどころだったように思う。こうした与えられた陣容と、自分の作品との謂わば落としどころをどこに定めていくか、宝塚期待の若手作家原田諒の、今後の手腕に注目していきたい。

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その上で、ラストシーンの空間処理の美しさは、これぞ原田諒と言えるものだったし、小粋なフィナーレナンバーも楽しく、宝塚っていいなとたっぷり思わせて幕が下りる定石の醍醐味は十二分。名曲「カタリカタリ」の効果的な使い方も強いインパクトを残した。

他の出演者も、まず美貌であることを求められる役柄を支えたヒロインの大湖。1幕と2幕でカポネに対して全く逆の立ち位置になる二役を演じ分けた専科の夏美。作品全体のストーリーテラーの役割も担って奮闘した新進男役の永久輝。カポネの優しさを表す新聞売りの少年の人生をきちんと見せた真那春人や、香綾しずる、朝風れい、久城あす、など多彩な役柄で雪組男役たちが大活躍。題材上どうしても娘役の働き場が少なくなるのは否めないが、舞咲りん、透水さらさ、有沙瞳などが与えられた持ち場で頑張る姿も好印象で、全員が難しい題材に果敢に挑んでいる姿が清々しい。

何よりも「ギャングスター」を宝塚の主人公にすることを可能にした望海の地力がやはり頭抜けていて、異色作を支えきった力量に拍手を贈りたい。総じて宝塚の可能性が更に広がるのを感じる舞台だった。

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〈公演情報〉
宝塚雪組公演
ミュージカル『アル・カポネ〜スカーフェイスに秘められた真実〜』
作・演出◇原田諒
出演◇望海風斗 ほか雪組
●5/26/〜6/1◎赤坂ACTシアター
〈料金〉S席 7,800円、A席 5,000円(税込)
〈問合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

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