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ウィリアム・シェイクスピアの数多い作品の中で、最も成熟した喜劇とも呼ばれる『十二夜』が日比谷の日生劇場で上演中だ(3月30日まで。後、大分、大阪でも上演)。

海難事故で遭難したヴァイオラ音月桂)は、瓜二つの双子の兄セバスチャン音月・二役)が海で死んだと思いこんだまま、見知らぬ街イリリアへとたどり着き、護身の為男装してシザーリオと名乗って、この街を治めるオーシーノー公爵小西遼生の小姓として仕えることとなる。そのオーシーノー公爵は父と兄の喪に服している伯爵令嬢オリヴィア中嶋朋子に恋焦がれており、シザーリオを使いに立てて、オリヴィアをかき口説かせる。だが、シザーリオを男性だと思い込んだオリヴィアは、一目で恋してしまう。オリヴィアの自分への恋心に気づいたヴァイオラは、この一方通行になるばかりの恋模様を嘆く。というのもヴァイオラ自身が、密かにオーシーノー公爵に恋をしていたからだ。
一方、やはり一命を取りとめていたセバスチャンもイリリアに到着。ヴァイオラが生きて、しかも男装してこの街にいることなど知る由もないセバスチャンが、偶然オリヴィアに出会ったことから、更に事態は複雑に絡み合う。また、オリヴィアの執事マルヴォーリオ(橋本さとしが、サー・トービー(壌晴彦)やその友人のサー・アンドルー(石川禅)、フェイビアン(青山達三)、オリヴィアの侍女マライア西牟田恵らに仕掛けられた悪戯も手伝い、それぞれの恋の行方は混乱の一途を極めてゆき…。

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クリスマスから12日目の最後の祝祭日「十二夜」に初演されたと伝えられている、シェイクスピアの傑作喜劇であるこの作品は、日本でもこれまで何度となく上演されている馴染み深いものだ。それだけに舞台を観る楽しみの多くは、この古典劇を演出家がどう構築し、またカンパニーがどんな芝居を見せてくれるのか?にかかってくる。その意味で、今回のジョン・ケアード版『十二夜』にまず感じたのは、祝祭劇と思われがちのこの作品の笑いの裏に、合わせ鏡のように秘められている哀しみが、むしろ前面に出ていることだった。
日本では『レ・ミゼラブル』『ベガーズ・オペラ』『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより』など優れた演出舞台の数々によって、ミュージカルの演出家としてのイメージが強いケアードだが、元々英国のシェイクスピア専門劇団であるロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで多くのシェイクスピア作品を上演し、現在は同劇団の名誉アソシエート・ディレクターを務める人だ。当然ながらシェイクスピア作品への造詣は人一倍で、その深い洞察力が、戯曲の笑いの中に人間の愚かしいまでの懸命さと、その必死の行動故にもたらされる可笑しみを巧みにすくいあげている。
だから作品は、単なるその場しのぎのコミックに陥ることなく、人間の生き様から生まれる複雑な色合いをなして湿度が高い。舞台上に度々降る雨、雷鳴もその印象を更に強めた。残念なことに昨年11月に亡くなった美術・衣装のヨハン・エンゲルスの仕事も、英国の庭園を思わせる緑濃い舞台面が、回転しながら場を転換していく美しいもので、移ろう人びとの恋模様と過ぎ行く時を俯瞰するように、中心に据えられた日時計が象徴的な気品にあふれていた。

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そんな舞台の中で躍動する出演者たち、特にポスターメンバーである4人、音月桂、小西遼生、中嶋朋子、橋本さとしが素晴らしい。
宝塚雪組のトップスターとして活躍し、退団後は主に映像での仕事に軸足を置いていた音月桂だが、2本目となる舞台作品で早くも当たり役を引き当てた感が強烈だ。ヒロインのヴァイオラ、ヴァイオラが男装して男性を装うシザーリオ、本物の男性役である双子の兄セバスチャンと、二役というより、実質三役に近い役どころを演じるが、その演じ分けがなんとも巧みで感嘆させられる。特にシザーリオとセバスチャンは衣装も同じで、サッシュベルトの色だけが両者の違いを表しているのだが、その色の変化が仮になかったとしても、いま音月がどちらの役を演じているのかが、歩き方、立ち方にはじまる佇まいだけで、出て来た瞬間に理解できるのには舌を巻いた。ヴァイオラの瑞々しさ、シザーリオの中性的魅力、セバスチャンの颯爽とした凛々しさ、いずれもが魅力的で、終幕双子の兄妹が出会う場面の鮮やかな切り替えは見事の一言。戯曲の設定からして最も難しいこの場の演出が正攻法なのも、演出家が音月の力量に委ねた面が大きかったからかもしれない。その手法は是非実際の舞台を観て確かめて頂きたいが、女優音月桂が男役として培ってきた財産を、余すところなく披露していて頼もしい。

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その音月のヴァイオラが恋するオーシーノー公爵に扮した小西遼生は、まず登場時点から高貴な身分の者独特の鷹揚さに気品を加え、更に恋する者の苦悩をにじませて目を引きつける。持ち前の端正な容姿で豪奢なローブを苦もなく着こなして、おそらくは領民にも慕われているのだろう領主が、自らの恋心に酔っている状態がどこか微笑ましくもある。シザーリオを侍らせての芝居がまるで絵のようで、これほど美しい公爵も珍しいとため息ものだった。

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そんな美しい公爵に恋焦がれられる伯爵令嬢オリヴィアの中嶋朋子が、その役割りを十二分に務める可憐さと美しさと気位の高さを持ち合わせていて喝采もの。役柄を深く理解している知性的な演技も的確で、まるで詩のように語るセリフ発声が耳に心地良い。親族の喪に服している楚々とした令嬢ぶりも、シザーリオに一目で恋に落ちた後の、一転して燃えるようななりふり構わぬ行動もすべてが魅力的。この人が美しいことがドラマを回す鍵とも言える役どころに誠に相応しかった。

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そしてそんなオリヴィアに仕える執事マルヴォーリオの橋本さとしの自由闊達な芝居には、ただただ喝采を贈らずにはいられない。とにかく出てくるだけで、舞台の空気感に軽やかさが加わり、片時も目が離すことができなくなる。劇中散々に笑い者にされる役どころだが、その存在感があまりに愛すべきものなので、ついつい感情移入してしまい、悪戯を仕掛ける方をどこかで疎ましく思いかねないほど。前述したように、作品の喜劇性の裏にある哀しみが際立ったことに、この人が果たした役割は大きく、最後のシルエットまでケアード版『十二夜』をある意味で象徴した存在だった。

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これらメインキャストはじめ俳優たちのセリフ術がいずれも明晰で、膨大な戯曲の魅力を自在に立ち昇らせたのも今公演の大きな魅力となっている。道化役の成河やオーシーノー公爵の小西自らが実際に楽器を演奏する場面も含め、舞台全体に音楽が溢れているのも実に味わい深いものだった。尚、開演5分前から舞台上にオーシーノー公爵に仕える楽士に扮した演奏家たちによる弦楽の美しい演奏がはじまるので、観劇の際には是非余裕をもって客席に座られることをお勧めしておく。ともあれ、古典中の古典である『十二夜』にまた一つの新たな歴史が加わったことを喜びたいと思う。多くの人に実際に劇場で体感してもらいたい舞台だった。
 
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『十二夜』
作◇ウィリアム・シェイクスピア
翻訳◇松岡和子
演出◇ジョン・ケアード
出演◇音月桂、小西遼生、中嶋朋子、橋本さとし/
青山達三石川禅壌晴彦成河西牟田恵宮川浩山口馬木也(五十音順)他
●3/8〜30◎日生劇場
〈料金〉S席12,000円 A席7,000円 B席4,000円 ベンチ席12,000円(税込)
●4/7◎iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ
●4/10〜12◎梅田芸術劇場メインホール
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ03-3201-7777



【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝】


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