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鬼才ボブ・フォッシーの「フォッシースタイル」と呼ばれるスタイリッシュでセクシーなダンスと、独特な世界観で、現在もブロードウェイで上演中であり、全世界で愛され続けているミュージカル『CHICAGO』の、宝塚100周年記念OGバージョンが東京公演を終え、大阪、梅田芸術劇場で上演中だ(30日まで。続いて愛知刈谷総合文化ホール公演、東京凱旋公演が控える)。 

2012年に宝塚OGによるダンスショー『DANCIN' CRAZY2』の第1幕で、やはり宝塚OGだけの『CHICAGO』のハイライトバージョンが上演された折、観客に配られたアンケート用紙に、「宝塚OGによる『CHICAGO』の全幕上演は観たいですか?」という趣旨の質問があったから、主催の梅田芸術劇場には、今回の宝塚OGによる『CHICAGO』完全上演の青写真が、その時すでにあったのだろうと思う。
とは言え構想を練るのと、実際に実現するのとの間には大きな隔たりがあるから、権利関係をクリアするにはおそらく苦労もあったと推察されるが、何よりも「女性だけの『CHICAGO』」という挑戦に対して、ブロードウェイ側の認可が下りたのは、先方が「宝塚」という100年続いた女性だけの劇団の存在を認知してくれていたことが大きかったそうだ。そのことひとつを取っても宝塚100年の歴史に、重みを感じずにはいられないが、この宝塚OGバージョン『CHICAGO』の仕上がりに接して、更にその思いは強くなった。女性だけで上演されているという、特殊性で差引する必要のない、実にレベルの高い舞台が展開されている。

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作品は、1920年代のアメリカ、イリノイ州シカゴを舞台に、殺人を犯した女性たちが、その犯罪をも逆手に取り、メディアの寵児となってスターダムにのし上がっていく、実話を元にしたストーリー。日本での上演も回を重ねているし、映画版もヒットしたから、すでにお馴染みの方が多いだろう。
メインキャストは言うに及ばず、アンサンブル、オーケストラ、黒で統一された衣装など、すべてを含めたトータルコンセプトがなんとも洒落ていて、やはり数あるブロードウェイミュージカルの中でも、その独創性において一つの金字塔に違いない。けれどもだからこそ、あの毒気と猥雑さをたっぷりと含んだの舞台が、本当に女性だけで上演できるのか?宝塚とはむしろ真逆の世界だが…と案じる部分がなかったと言ったら嘘になる。
だが、それは全くの杞憂だった。とにかく宝塚OGたちの本気度、その底力たるや半端ではない。

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メインキャストはいずれもトリプルキャストで、弁護士ビリー役が峰さを理、麻路さき、姿月あさと。
峰の高い歌唱力と演技力は現役時代から折り紙付きだが、男役としてはファニーで可愛らしい顔立ちが、年齢を重ねて良い意味で渋みを加えたのも効を奏し、すべては金の為だと言い切るビリーの、決して真っ白いヒーローではない一癖も二癖もある、悪徳弁護士ぶりにピタリとはまった。自ら「男役ではなく男を演じたい」と抱負を述べていたが、その言葉通りに泰然自若の男ぶり。全体から見ても、一歩抜けていた感がある。

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麻路はこのトリプルキャストの中では、端的に言ってひとり歌の人ではないのだが、それが全く瑕疵にならない男役度の高さ、雰囲気作りの上手さで、堂々たるもの。現役時代から独特の空気感を纏うことのできる人だったが、そこに更に貫録も加わり、実に心地良いマリコ(麻路の愛称)ワールドが展開されていた。退団後「女優」と言うよりは「宝塚OG」という肩書が似合う歩みをしている人だと思うが、その経験が伊達ではなかったと感心しきりだった。
3人の中では最も若手ながら、2012年ハイライトバージョンですでにこの役を経験している姿月は、さすがに「ボーカリスト」を名乗る人ならではのビリーだ、というのが第一印象。歌に比重の高いビリーで、芝居はひたすらにクール。腹話術のナンバーの音域の広さも圧巻で、素直に「カッコいい」姿月ならではのビリーだった。
 
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3人共に元宝塚の男役トップスターならではの華があり、羽に囲まれるナンバーはもうお手の物。シカゴという街で、ビリーという弁護士もまた大スターなのだと、ストレートに納得できる存在感だった。
そのビリーに弁護される、センセーショナルな事件の容疑者の1人、ヴォードヴィルのスター・ヴェルマに和央ようか、湖月わたる、水夏希。

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和央は米倉涼子の主演舞台でもヴェルマ役を演じているだけに、まず作品に相応しいスタイリッシュさがある。それでいて、どこかコケティッシュな雰囲気もあって、何があろうと決してへこたれず、我が道を行く役柄にピッタリ。身長があるのでロングのポニーテールの髪型もよく似合い、スラリとした長い脚と共に魅力的だった。演者が役柄を愛していることが伝わるヴェルマだ。

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湖月はハイライトバージョンの経験者で、その折フォッシースタイルに魅了され、長く踊り続けて来たという積み重ねがダンス場面に生きている。世界で共通の衣装を使い、似た体格の人の衣装を着まわすという『CHICAGO』のシステムの中で、衣装の丈が足りなかった、つまり、世界一大柄のヴェルマ役者だったそうだが、そのダイナミックさの中に巧まずして憎めないものが残る湖月の個性が、役柄に良い作用を与えていた。
 
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ひとりヴェルマ役初挑戦となった水は、経験者の中で苦労が多かったことと思うが、それを全く感じさせないオシャレな雰囲気が際立つ。居ずまいが徹頭徹尾外国人風なのもヴェルマという役柄に相応しい。新参の容疑者ロキシーに話題を持っていかれながらも、なんとか踏ん張ろうとする必死さを、客席から応援したい気持ちにさせられるヴェルマだった。
この役柄は『CHICAGO』で最も有名なナンバーと言っていい「オール・ザット・ジャズ」を冒頭で歌うことで、客席を『CHICAGO』の空気に一気に引き込む必要があるが、やはり元宝塚の男役トップスターである3人のスター性が、それぞれその役割りを十二分に果たして見事だった。

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そして、ヴェルマから大衆の関心を一気にわが身に引き付ける新たな事件の容疑者ロキシーに、朝海ひかる、貴城けい、大和悠河。
ハイライトバージョンを経験している朝海のロキシーは、ビリーとの腹話術のナンバーで見せる人形振りが、まるで本物の人形のようで、そこから「人前で嘘をつくことに罪悪感のない女性」を嫌味なく作っていた。この役は行動パターンだけを取るとイヤな女になりかねないので、それを如何にアメリカンにドライに仕上げるかが、日本人が演じる時のカギになると思うが、そこをきちんとクリアしたロキシーだった。
 
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貴城は本当に可愛らしいという言葉がピッタリの女優に変貌しいて、宝塚時代を知らない向きになら、元娘役だったと言っても通るだろうという風情。だが、その中にロキシーとしての毒もちゃんとにじませるのが、良い意味で重い芝居をするこの人ならではのロキシーだった。「おでこの女性」という彼女だけのセリフもあって、大いに笑いをとっていた。

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大和は、やはり歌の人ではないのだが、それをみじんも感じさせないキュートさに、小悪魔的な香りがたっぷりとあり、ロキシーという役柄にはまさに打ってつけ。退団後、実に魅力的な女性へと華麗なる変身を遂げた人で、様々な女性像を軽やかに演じて来ているが、これは中でも指折りの当たり役と言えるだろう。
女であることを武器にすることにためらいのないロキシーは、前述したように、ともすると女性の共感を得にくい側面があるが、さすがは宝塚で一時代を画したスター揃い。それぞれがこの役柄にチャーミングな憎めなさを加味することに成功していて、作品を見事に牽引していた。

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女囚たちの看守ママ・モートンはダブル・キャストで初風諄とちあきしん。
初風はかの『ベルサイユのばら』初代マリー・アントワネットとして知られる永遠の歌姫だが、付け届けをちゃんとする女囚にだけ良いママだと言い切って憚らない役柄をを堂々と演じていて驚かされた。ダイナミックな歌声では、宝塚在団時から歌える男役として鳴らし、現在歌唱指導の仕事も多く手掛けるちあきが勝るが、なんといってもこの意外性で初風がさらった格好。とは言え、双方共に十二分に楽しめる。
単細胞でお人よしな上に、存在感の薄いロキシーの夫エイモスは、磯野千尋が全公演を通して演じる。宝塚時代から役幅の広い人で、様々な役柄でヒットがあるが、このエイモスもまた実に滋味深い味わい。ソロナンバーも哀愁たっぷりに歌い上げ、ちゃんとおじさんに見える力量も含めて感嘆ものだった。

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更に素晴らしいのが、この世界を支えているといっても過言ではない、アンサンブルの面々。宝塚時代からダンサーとして知られた人材が多く入っているが、フォッシースタイルを見事に踊り、多彩に演じ、歌う姿に感嘆させられる。特に男性が踊るパートを踊る「ジェントルマン」のメンバーの労苦はいかばかりだったかと思うが、その流したであろう汗を想像もさせない涼やかな踊りっぷりが素晴らしかった。女性側の「レディース」も、女囚たちのナンバーなど働き場が多く、それぞれがキラキラと輝いている。中でも「トップ・レディース」のクレジットで、元トップ娘役の星奈優里、蒼乃夕妃が入っているが、ふたり共に素晴らしい肉体美を披露。色気たっぷりでありながら、決して下品ではなく、美しきレディースたちの先頭をきって『CHICAGO』の世界を支えた力量に拍手を贈りたい。

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こうした優れたメインキャスト、そしてアンサンブルのメンバーが、多彩な組み合わせで日替わり出演するのだから、もうこれはできるなら毎日通いたいという気持ちにさせられるほどで、何度観ても新しい発見があるだろう見応えたっぷりの舞台だった。
その中でも、初日までシークレットになっていた記者メアリー・サンシャイン役が、ソプラニスタの岡本知高だったのにはやはり驚かされた。「女性の音域で歌える人」ではあるけれど「男性」なので、「世界初女性だけの『CHICAGO』」という部分で、ちょっとねじれも感じる。だが、この役どころ「実は男性でした」というオチのあるキャラクターなだけに、そのねじれ自体が作品の毒気を更に深めもしたと思う。これはこれで面白かったが、例えば現在宝塚現役の専科生である一樹千尋になら、きっと演じることができるだろうから、それは将来への期待として取っておきたい。そう、そんな夢を抱くほど、この宝塚OGによる『CHICAGO』の完成度は、宝塚100周年記念の今年だけのものにしておくのはもったいない高さを誇っていた。

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作品の仕上がりが宝塚OGに、ひいては宝塚に誇りを持てる公演になったのが何よりだし、どうしてもこういう布陣の場合、宝塚ファン以外の観客への認知度が低くなる恐れがあることが残念でならない。宝塚だという先入観に囚われず、広くミュージカルファンにも、『CHICAGO』ファンにも、是非一度足を運んでみて欲しい。そこに新たな感動の扉が待ち受けているに違いない。そう確かに信じられる、優れた舞台だった。

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ブロードウェイミュージカル 『CHICAGO』
〜宝塚歌劇100周年記念OGバージョン〜
作曲◇ジョン・カンダー
作詞◇フレッド・エップ&ボブ・フォッシー
初演版演出・振付◇ボブ・フォッシー
オリジナルNYプロダクション演出◇ウォルター・ボビー
オリジナルNYプロダクション振付◇アン・ラインキング
翻訳◇常田景子
訳詞◇森雪之丞
日本版演出◇吉川徹
日本版振付◇大澄賢也
指揮・音楽監督◇上垣聡
出演◇峰さを理、麻路さき、姿月あさと、和央ようか、湖月わたる、水夏希、朝海ひかる、貴城けい、大和悠河 ほか
●11/19〜30◎梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席¥13,000? A席¥9.000 B席¥5,000(全席指定・税込)
〈問合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800
●12/5〜7◎刈谷市総合文化センター大ホール
〈料金〉S席¥13,000? A席¥9.000 (全席指定・税込)
〈問合わせ〉 http://kariya.hall-info.jp/
●12/10〜19◎東京国際フォーラムホール C
〈料金〉S席¥13,000? A席¥9.000 B席¥5,000(全席指定・税込)
〈問合わせ〉梅田芸術劇場(東京) 0570-077-039



 【取材・文/橘涼香 撮影/アラカワヤスコ】


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