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全編をミシェル・ルグランの美しい音楽で紡いだミュージカル、『シェルブールの雨傘』がシアタークリエで上演中だ(21日まで)。
1964年カンヌ国際映画祭グランプリなど数々の賞を受賞した、 巨匠ジャック・ドゥミ監督によるミュージカル映画を出発点とするこの作品の、映画公開からちょうど50年。今回は、謝珠栄演出・振付により2009年に上演され、好評を博した舞台版に新たなキャストを迎えての上演である。運命に翻弄される若き恋人達を描いた物語は、初恋の思い出を持つ誰しもの胸を打たずにはおかない、哀切な余韻に満ちている。
 
冒頭、雨の情景を描いた美しい背景からスタートするドラマは、基本的には3組のカップルで構成されているアンサンブルの、場面ごとに個性あふれるダンスシーンをはさみながら、回転する装置の出し入れとともに、豊かな音楽に乗ってひと時も途切れない。謝演出の流れるような美しさと、それに応えた松井るみの装置がともに出色で、舞台には心地良い緊張感が貫かれている。

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そんなドラマに息づく出演者たちがまた素晴らしい。20歳の青年ギイと、16歳の少女ジュヌヴィエーヴが、将来をともに誓い合った幼くも激しい恋を、戦争によって引き裂かれ、心ならずも運命を異にしていく展開が、切々と胸に迫る。とくにこれまでも動乱の時代に生きる人間たちの生き様を色濃く描いてきた謝演出らしく、ギイが突然召集された戦地アルジェリアの激戦地で、極限状態の日々を過ごしていることがきちんと舞台上に描かれることで、ギイの苦悩がより鮮明になっている。

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演じる井上芳雄は、2度目のギイ役だが、この5年間に蓄えた力がみなぎり、セリフがすべて歌となっているミュージカルを支える緩急自在な歌唱力が光る。分けても最も有名なメインテーマの絶唱に次ぐ絶唱は、作品全体を牽引して白眉だった。恋に破れ、自暴自棄になり、嵐の時を過ごしたのちに、やがて静かな愛を手にするギイの人生をあますところなく描き出している。
対するジュヌヴィエーヴの野々すみ花は、ギイの子供を身ごもりながら、戦地からの音信が途絶えたギイを待ち続けることが遂にできず、子供ごと彼女を守ろうと言う別の男性の求婚に同意してしまう女性を、決して計算高くも、愚かにも見せず、ただあまりに若すぎた少女の脆さと哀しさにもっていたヒロイン力が頭抜けている。ポートレイトも可憐で愛らしいが、舞台で演じている動いている瞬間、瞬間がより一層美しい、宝塚時代から変わらぬこの人の憑依型とも言える女優魂が健在なのが嬉しい。

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やはり宝塚出身で、ジュヌヴィエーヴの母親エムリー夫人を演じた香寿たつきが、実に良い女っぷり。高音の歌唱も美しく、あふれる母性とともに、夫に先立たれ経営の行き詰った店を案じる女性の焦りを巧みに表現している。資産家の男性に一目惚れされるのが、ジュヌヴィエーヴではなく彼女だったとしても不思議ではないほど魅力的だった。そのジュヌヴィエーヴに求婚するカサールの鈴木綜馬は、この人らしい端正な品の良さが役柄の造形に生きている。ジュヌヴィエーヴに一目で魅せられた瞬間がよく伝わり、ジュヌヴィエーヴの窮状も家庭の財政が破たん寸前なこともすべて知りながら、あくまでも真摯に立つ姿が、ヒロインの行動にも説得力を与える力になった。

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一方、ギイ側の登場人物、ギイの伯母エリーズの身の回りの世話をしながら密かにギイを慕うマドレーヌの大和田美帆は、本来の明るい個性をしっとりと慎ましく耐える役どころのなかに潜ませた演技力が光る。心身ともに傷つき荒れるギイの傍に彼女がいてくれて本当に良かったと、客席から感謝したい気持ちにさせられたからたいしたもの。ギイをひたすら案じる伯母エリーズの出雲綾は、舞台上でほとんど動きのない役柄の心情を、宝塚時代から知られた持ち前の歌唱力で見事に描き切った。

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ほかに、前述したように様々な役柄でドラマの場所や、時の経過をあらわしたアンサンブルの面々の活躍も見逃せず、全編がミュージカルならではの魅力に満ち、悲しくも美しいラストシーンの雪景色が忘れ難い。時を経て色褪せることのない音楽の力と、「人生」の哀歓をあますところなく描いたストーリーが、映画誕生から50年という節目の年に、優れた舞台となって蘇ったことを喜びたい。


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ミュージカル
『シェルブールの雨傘』
脚本・作詞◇ジャック・ドゥミ
音楽◇ミシェル・ルグラン
演出・振付◇謝珠栄
出演◇井上芳雄、野々すみ花、鈴木綜馬、大和田美帆、出雲綾、香寿たつき ほか
●9/2〜21◎シアタークリエ
〈料金〉S席¥11,500 A席¥9,000
(全席指定・税込)
〈問合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777( 9:30〜17:30)
●9/25◎九州・福岡市民会館
●9/27〜29◎大阪・サンケイホールブリーゼ
●10/3〜5◎名古屋・中日劇場



【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝演劇部】

 
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