8月31日、東京宝塚劇場で雪組公演『一夢庵風流記 前田慶次』『My Dream TAKARAZUKA』が千秋楽を迎え、トップスター壮一帆、トップ娘役愛加あゆ、副組長麻樹ゆめみ、実力派男役未涼亜希らが、宝塚に別れを告げた。
近年としては遅咲きのベテラントップ男役だった壮は、それだけに長く蓄えてきた力が噴出したかのような、見事なトップスターとして雪組を率いてきた。その上に、常に軽やかさ、竹を割ったような爽やかさを失わない個性が、組全体の結束力や明るさを引き出し、就任が遅かった分、寂しいことに長いとは言えなかったトップ在任期間を充実したものに昇華、トップぶりを存分に示して見事だった。とくに相手役の愛加が壮を深くリスペクトし、壮に一途なことが言動のすべてに現れていて、それを悠然と受け留める壮がさらに大きく見えるという、宝塚のトップコンビの理想形とも言えるかたちを築いていたのが印象深い。
そんな壮のサヨナラショーは、雪組トップ時代の主演作品、『ベルサイユのばら』『若き日の唄は忘れじ』『Shall we ダンス？』『CONGRATULATIONS宝塚!!』に絞り込んだ構成。各作品にじっくり時間をかけていて、壮時代の思い出を十分に堪能できる仕上がりになっていた。
数々の壮のソロ、愛加とのデュエットはもちろん、麻樹のソロで白渚すず、大澄れい、天舞音さら、寿春花果が歌い踊り、未涼が自身の主演公演『インフィニティ』からソロを歌うなど、同時退団者への愛にもあふれ、雪組男役陣がキザを極めた『CONGRATULATIONS宝塚!!』の名シーン「Tequila」も再現。さらに同作品の「Glory Hallelujah〜CONGRATULATIONS宝塚!!」のシーンでは、公演当時宝塚100周年を祝した人文字「100」が大階段に描かれていたところ、同じ人文字で鮮やかに「SO」の文字が描かれ、これにはグッと胸詰まらされた。
「ありがとうの言葉を勇気に変え、明日への道走りだそう」と『Shall we ダンス？』から「CHNGE」を壮が、雪組全員と交流しながら歌うラストまで、笑顔と感謝に彩られた、素晴らしいサヨナラショーの幕は閉じた。
続いておこなわれた退団者の挨拶では、愛加が「大好きな壮さんのお傍にいられた時間が世界で一番幸せでした」と語れば、壮が「大切なファンの皆様、雪組のみんな、相手役のあゆっち（愛加あゆ）ついてきてくれてありがとう！」と応えて、愛加がこらえきれずに号泣するなど、最後まで見ていて幸せになるコンビの姿を貫いて、会場中が温かいものに包まれるようだった。壮は「宝塚を去る日がくるのが怖くなかったと言えば嘘になりますが、とても穏やかな気持ちでここに立っています」と心情を吐露。出会ったすべての人びとへの感謝と、次期トップスター早霧せいな率いる雪組をよろしくお願いしますとの、次代を託す言葉を述べ「それでは新しい大海原へ！19年間本当に楽しゅうございました」と締めくくり、名残尽きぬ客席からはいつまでも、いつまでもカーテンコールの拍手が続いた。
引き続いて行われた退団記者会見では、「皆様本日はお忙しいなか、このようにお集まりくださいまして、本当にありがとうございます。私の宝塚人生のなかで、とても幸せな１日を過ごすことができたと思っています。皆様から頂いた温かいご声援を胸に、次の新しい一歩を踏み出したいと思っておりますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。そして、引き続き雪組をよろしくお願いいたします」と挨拶。記者の質問に対する受け答えも実にしっかりしていて、宝塚のトップスターとしてばかりでなく、人として豊かで聡明な一面を見せていた壮一帆。
退団後の去就については明言を避け、しばらくゆっくり休んでできなかった親孝行をしたい…と述べたが、これだけの人材、もちろんゆっくり休んだ後でいいから、是非また元気な姿で活動して欲しいと願わずにはいられなかった。
すべてを終えて劇場前に集まった8000人を超えるファンの前で下級生から続いた退団パレードも、整然としてテンポよく進み、男役として白い薔薇は持ちたかったことと、花に可哀想なのでワイヤーを入れることはしたくなかったため大きさにもこだわらず、花のグリーンに雪組カラーを重ねた、という思いのこもった花束を持って壮が登場した時には、熱気も最高潮。そのなかで壮は、最後まで感謝の言葉を口にし、爽やかな笑顔を残して、何度となく手を振りながら宝塚に別れを告げた。
尚、退団記者会見の詳報は11月9日発売の「演劇ぶっく」に掲載します。どうぞお楽しみに！
【取材・文／橘涼香】
