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創立100周年の祝祭にわく宝塚の、代名詞ともなっている名作『ベルサイユのばら』の100周年バージョンとも言うべき、オスカル編が東京宝塚劇場で上演中だ(7月27日まで)。

池田理代子の同名人気劇画を原作とし、1974年の初演以来40年間、数々の記録を打ち立て、宝塚が100周年を迎える原動力のひとつともなったこの作品は、脚本・演出の植田紳爾が再演を重る度に新たな切り口で脚本を書き下ろすことでも有名だ。今回は原作人気を不動のものにした男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェの数奇な生き様に、物語を徹頭徹尾絞り込んだ印象が強い。特に、これまでにも「オスカル編」と呼ばれたバージョンはいくつか存在するのだが、1幕はそのどれにも描かれてこなかったオスカル誕生の日からスタートする徹底ぶり。代々王家を守護する任を負ってきた貴族、ジャルジェ家の六女として生まれながら、家督を継ぐべく男の子として育てられたオスカルの出自が丁寧に提示される。

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更に、成長し王宮を守護する近衛隊の隊長職に就いていたオスカルが、風雲急を告げるフランスの国情を案じ、自ら近衛隊長職を辞して、国民を守護する衛兵隊に転属したことによって新たな目を開かれ、悩み苦しみながら信念の命ずるままに生きようとする姿が克明に描かれていく。
特に、三部会の議場から締め出された平民議員たちの姿に感銘を受けたオスカルが、武力で彼らを排除しようとする近衛隊の前に立ちはだかる場面や、その為に父親から成敗されかかるオスカルを、彼女を密かに愛し続ける乳母の孫アンドレが捨身で庇う場面など、原作の有名エピソードでありながら、宝塚では初めて舞台に取り上げられたシーンが力強く、100周年の新たな『ベルサイユのばら』が生まれている感触が強まった。しかも1幕ラストを飾る肖像画から抜け出したオスカルが、ペガサスに乗って劇場空間を飛ぶ非日常の極みは、宝塚歌劇ここにありの趣。有無を言わせぬ力業の爽快感が際立つ。

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その一方で2幕には、オスカルに近衛隊長時代の部下であった貴族、ジェローデルとの結婚話が持ち上がっていることを知ったアンドレが、オスカルを毒殺しようとまで思いつめる場や、そのアンドレの思いにオスカルが遂に応える場、更にフランス革命勃発の契機ともなった「バスティーユの戦い」でのオスカルの壮絶な死まで、宝塚の『ベルサイユのばら』の名場面として名高いシーンが次々に網羅されて満足度も高い。宝塚ならではの華麗なるフィナーレも含めて、やはりこの作品が宝塚歌劇に出会った奇跡を思わずにはいられない、骨太な力量を感じさせた。

そんな作品の主人公オスカルを演じる凰稀かなめは、まさに劇画から抜け出しとしか思えない頭身バランスと美貌とで、まずビジュアルからがっちりとオスカル像を具現。その上に植田をして「これがオスカルの声だ」とまで言わしめた優れたセリフ術で、オスカルの苦悩、成長、信念を描き出している。特にセリフ発声に力強さがあるのが強みで、バスティーユでの絶叫は謂わば鳥肌もの。今回、フィナーレまでを含めて「男装の麗人」で通していて、特に男装の麗人の黒燕尾のダンスは、宝塚伝統の男役の黒燕尾とは異なる、抜群のプロポーションと、ミステリアスな色気を持つ、凰稀ならではの名シーンとして語り継がれるものになりそうだ。

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物語の中心がオスカルに収れんされているので、オスカルを愛する男性たちが大きくフューチャーされているのも、また今回の脚本の特徴だが、分けても印象的なのはやはりアンドレ。演じる朝夏まなと(6月20日〜27日、7月17日〜27日)は二枚目の型をきちんと守り、尚どこかに熱いパッションを感じさせる演技。同じアンドレをダブルキャストで演じる緒月遠麻
(6月28日〜7月16日)は、情念を内に秘めてあくまでもオスカルの影に徹する芝居巧者ぶりが光り、それぞれに魅力的だ。
 
またオスカルに求婚するジェローデルには、七海ひろき(6月20日〜27日、7月17日〜27日)と朝夏(6月28日〜7月16日)が配され、七海は誠実さで、朝夏は鷹揚な大きさで、それぞれ貴族の青年らしさを醸し出している。三部会のシーンは、ジェローデルにとっても大きな見せ場で、更に重要な役どころとして進化している。衛兵隊のリーダーで、自ら貴族でありながら暗い過去故に貴族を憎んでいたアランには、緒月(6月20日〜27日、7月17日〜27日)と七海(6月28日〜7月16日)。緒月の迫力にやはり一日の長があるが、今回アランにもオスカルへの愛を歌う「Pale Rose(蒼きバラ)」という新曲が用意されていることもあって、七海の爽やかさもひとつの形と思わせる。2つのパターン双方に味わいがあり、見比べる妙味は絶大だ。

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他に、革命に命を賭ける夫と共に戦うジェルジェ家縁の娘、ロザリーにはトップ娘役の実咲凛音。むしろ戦う女性としての面が強調された脚本だが、そのなかに可憐さをにじませることを忘れないのはさすがにこの立場の娘役ならでは。オスカルの居間での短い会話に親密さがこもるのは、凰稀とトップコンビの関係であることが通奏低音のように生きているからこそだろう。
その夫ベルナールの蓮水ゆうやが力強く、群衆のなかでも視線を集めて、つくづく退団が惜しまれる。ロペス・ピエールの澄輝さやとに存在感が増し、衛兵隊士のなかでは愛月ひかるがアランに次ぐリーダー格として目を引く。やはり退団のすみれ乃麗が演じるオスカルの姪ル・ルーの嫌味のない愛らしさも際立った。

総じて100周年の『ベルサイユのばら』として宙組一同が結束した力の熱量が高く、満足感いっぱいで劇場を後にできるのが何より。記念の年に相応しい大作の好走を喜びたい。
 

【囲み取材】

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初日を控えた6月19日、通し舞台稽古が行われ、凰稀かなめと実咲凛音が囲みインタビューで記者の質問に答えた。

凰稀は作品の見どころを「全部が好きなので難しい…」と前置きしつつ、オスカルの自分が主人公とし
て描かれてはいるが、そのオスカルが成長して進んでいくのは、周りの人びととの出会いがあったればこそで、真の主役は民衆だと思っている。宙組メンバー全員と千秋楽まで頑張っていきたいと力強く語った。
同じ質問に実咲も、オスカル様の周りにいる人たちがオスカル様を思う気持ちがそれぞれ違うので、周りの人間をきちんと描くことがオスカル様を描くことになると思うので、宙組全員が一致団結して役に向かっていくことによって、宙組ならではの『ベルサイユのばら』が作れると思っていると話し、言葉を選びながらも極自然に「オスカル様」と呼びかける姿が、役柄のロザリーと重なって微笑ましかった。

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折しもサッカーのワールドカップが開催中でもあり、その質問も飛んだが、凰稀は「テレビを観られていなくて…でも話は色々と聞いていてオスカルさんという方が得点したのは知っています。皆さん頑張って欲しいです」と笑わせた。

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最後に、先般、来年2月での退団を発表したことへの質問があり、凰稀は「この時期の発表ということで、皆さんを驚かせてしまいましたが、私自身は主演男役としてどこまで行こうか、先をどうしようかということを考えなからも悔いのないようにやってきましたし、いまの宙組ならば次につないでいってくれると思って、今回退団発表させて頂きました。ですがまだ退団の実感はまったくありませんし、退めるということもいまは口にしたくないんです。それはもう最後の2月15日までとっておきたい。今はお客様に楽しんでもらえるように、100周年という記念すべき年に私達がここにいられたという感謝の気持ちを込めて、ひと公演ひと公演務めて参りますので、温かく見守ってくださったら嬉しいです」と真摯に語った。

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尚、囲みインタビューの詳細は、7月9日発売の『演劇ぶっく』8月号に掲載します。どうぞお楽しみに!




宝塚宙組公演
三井住友VISAカードシアター 宝塚グランドロマン『ベルサイユのばら』
池田理代子原作「ベルサイユのばら」より。
脚本・演出/植田紳爾 演出/谷正純
出演/凰稀かなめ、実咲凛音 ほか宙組
●6/20〜7/27◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席 12,000円、S席 8,800円、A席 5,500円、B席 3,500円(税込)
〈問合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001(劇場・月曜休み)



【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

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