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東山紀之と田口淳之介がその持てるダンス力を駆使してドラマティックに物語を演じる『NO WORDS,NO TIME〜空に落ちた涙〜』が、東京グローブ座で上演中である。(2月5日まで。大阪公演あり)

この作品は、これまでウエルメイドな舞台を数多く手がけてきた演出家のG2が、初めて提示する“セリフの一切ない世界”。それゆえにこそ届けられる、言葉にならない“想い”が痛切に見るものに伝わってくるステージである。共演には元宝塚歌劇団トップ娘役だった花總まり、コンテンポラリーダンスの世界で活躍する黒田育世などが顔を揃えている。

  
【物語】

主人公のサラリーマンは、交通事故で愛する妻と幼い息子を同時に失ってしまった。1人だけの部屋、1人の食事。満員電車に揺られてオフィスにたどりつき、機械的に仕事を片づける日常。生きているか死んでいるかわからない彼が反応するのは、街の景色の中に妻の幻影を見たり、車の急ブレーキの幻聴を耳にするときだけ。そしてそのたびに、失われた妻と子への愛が心を苦しめる。ついには彼は自らの生を断とうという衝動にかられるが、そのとき、見知らぬ青年の姿が彼の目の前に現れて消える。そんなある日、息子のために買ったおもちゃの消防車が、こちら側とあちら側、2つのパラレルワールドの境界を超えて走り抜けてしまって…。

 

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今回の振付は、コンテンポラリーダンスの世界で活躍する黒田育世が手がけていて、彼女のダンスは1つ1つの動きのモチベーションがわかりやすく、その場面の訴える状況や感情が明確に伝わってくる。

たとえばこんなシーンがある。疲れ切って椅子にもたれたまま眠ってしまった男のもとに妻の幻影が訪れる。愛おしむように彼の頭のまわりを柔らかく舞う妻の手。その妻のひざに男が眠ったまま頭を預けようとしたその瞬間、妻の姿はするりと抜け出して、男の夢から去ってしまう。夫と妻、2人の間に当たり前のようにあった安らぎと触れ合い、その時間への男の飢えと喪失感。それが繊細で美しい一連の動きによって、どれだけ愛おしく大切だったか、まざまざと浮かび上がるのだ。

 

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東山紀之はそんな絶望と哀しみに満ちた男性の姿を、ダンスだけで的確に表現してみせる。最初の登場で舞台上にまるで生命のない物体のようにゴロンと自分を乗せる。そこですでに壊れた内面とやり場のない感情をもてあましている人間だということを、観客に感じさせる。それだけにパラレルワールドに入ってからは、妻に会えた喜びや連れの若い男性に抱く嫉妬などの生々しい感情が、より強く伝わってくる。彼のダンスはしなやかさと強靱なバネがあり、振りから振りへの連動が波のように滑らかだ。また身体の軸から指先まで感情が真っ直ぐに届いていて、しかもその1本1本の指の先まで繊細かつ優美に踊る。

田口淳之介は、影のように男の生活に現れる青年として登場、パラレルワールドでは成長した息子として男と出会う。長い手足で踊る彼のダンスはダイナミックでパワーがあり、若々しい感情や動きが溢れ出るような表現が気持ちいい。母親への優しい情愛や侵入してきた男への戦いの意志、また父親とわかってからの親しさの表現や甘えなど、多面的な表情をみずみずしく内面がほとばしるように踊ってみせる。
花總まりは男の死んだ妻で、生々しさを感じさせない透明感のある姿は、男が幻影の中で追い求める妻のイメージをそのまま体現。事故の記憶のシーンでは、何度も叩きつけられるような場面ながら、体の重力を感じさせないしなやかでふわりとした動きが美しい。男が息子と出会ってからは、2人の間で揺れ動く母と妻の姿、血の通う女の顔を見せる。ラストではもう1つ、別の姿で華やかに登場するのも見どころ。

 

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黒田育世の踊るシーンはさすがに圧巻で、体のすみずみまでコントロールされている的確で丁寧な動き、さりげない振りのように見えて実は複雑なテクニックなど、刺激的であると同時に引き込まれるような独自の世界を持ったダンサーである。この作品ではキャストの1人としても登場、男に想いを寄せる女性管理職では、気を引くための待ち伏せなどする様子はユーモラス。また、パラレルワールドでは、彼の脱出劇に力を貸すスーパーウーマンのような存在で、スパイス的な役割を果たしている。

美術(二村周作)は固定した装置はなく、パイプ状の枠を人間が運んで作り上げる形で場面と状況を変化させているが、それを操るアンサンブル8人(陰山泰、今枝珠美、植木美奈子、王下貴司、大江麻美子、岡本優、神谷直樹、寺西理恵)が、さまざまなフォーメーションで踊って、家族3人の世界を大きく異次元まで広げる役割を果たし、またアクションシーンなどで、シリアスな作品の中でのエンターテイメント性を高めるのにも、大きな力になっている。


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織り込まれる、心象風景のような、街の景色のような曇りを帯びた映像(奥秀太郎)、デジタルなリズムのなかに叙情を感じさせる音楽(和田俊輔)、そして振付とステージングの黒田育世。これら第一線のクリエーターたちのコラボをまとめあげたG2の演出。そんな新しい試みを全身全霊で踊るキャストたちの真摯な姿に感動するステージである。
 

  

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NO WORDS, NO TIME 〜空に落ちた涙〜』

作・演出◇G

振付◇黒田育世

音楽◇和田俊輔

出演◇東山紀之 田口淳之介 花總まり 黒田育世 
陰山泰、今枝珠美、植木美奈子、王下貴司、大江麻美子、岡本優、神谷直樹、寺西理恵

1/182/5◎東京グローブ座

2/812◎森ノ宮ピロティホール

〈料金〉東京/S9500円 A7500円 B5500

大阪/9500

〈問合せ〉東京/03-3366-4020 東京グローブ座

 Quoras エンタメ事業局 0570-020-40024時間テープ案内)

大阪/キョードーインフォメーション 06-7732-888810:0019:00 

公式サイト http://www.tglobe.net/

 


【文/榊原和子 撮影/岩村美佳】

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