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謝珠栄が率いるTSミュージカルファンデーションが公演中である。
今回の『眠れぬ雪獅子』はチベットの現在と過去を背景に、彼の地に伝わる「黒い帽子の踊り」の伝説を探りながら、「命と心」という謝珠栄ならではのテーマが、東山義久と伊礼彼方という若いスターを中心にパワフルに展開されている。

美しいターラ菩薩(保坂知寿)の歌声で幕が上がる。

舞台は1951年のチベット。旅芸人テンジン(東山義久)は都チャムドにやってくる。おどけた笑いを届ける一座が上演するのは、仏教を弾圧した王ラン・ダルマ(今井清隆)を843年に暗殺した僧侶ラルン(小西遼生)の話。

ラルンは「黒い帽子の踊り」の踊り手に混じって、ラン・ダルマを討ち仏教を救った。伝説を茶化して笑いをとるテンジンに、ドルジェ(伊礼彼方)は怒って上演をやめさせる。


チャムドの人々はワンドゥ(今井・二役)の圧政に苦しんでいた。詩人ドルジェは、父がワンドゥの命令に従わず殺されたという知らせを受けて帰郷したのだった。

収穫の祭に高僧を呼び、自分の富と権力を更に拡げる企みを持つワンドゥ。その野心を支えるのは搾取される農民たち。暴力に怯え苦しい暮らしに甘んじているが、領地を拡大されれば限界を越えてしまう。
 

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ドルジェはテンジンに「黒い帽子の踊り」を教えて欲しいと頼む。酷い態度をとられたのに、テンジンは快く受け入れる。テンジンは寺で育ちながら飛び出して旅芸人となるが、愛に溢れた人物だ。
「今」を生きるドルジェ、「未来」を考えるテンジン。

そして、過去のラルンと弟ぺマ(山田ジルソン)という二人の僧侶。彼らの行く末は……。

仏教の教えをテーマに謝珠栄が演出する深い輪廻の物語だ。


ドルジェとペマが信じた「筆の力」は「権力・暴力」に負けるのか。

それを象徴するように、文字があしらわれた装置が広がる。ゴツゴツとした岩肌の山を想起させる装置には、ターラ菩薩の天女のような緑色の衣裳が映える。

また、曼荼羅のような光効果、菩薩の動きの連動したライティングは見る者を物語に誘いこむ。


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東山義久はクールな魅力が持ち味だが、テンジン役でみせる屈託ない笑顔には場を支配する明るさがあった。ドルジェと仲間達への友情、暖かい人柄を説得力ある演技でみせる。シャープなダンスは勿論、女装のダンスシーンも見せ場である。

苦悩に満ちたドルジェの伊礼彼方は、心を隠す抑えた表現が求められる難しい役どころ。一匹狼的な動きと、その下にある情熱を感じさせる役作りで成功していた。

輪廻の源であるラルン役を演じる小西遼生は装飾のない僧侶姿が美しい。仏教への思い、弟への思い、暗殺という手段に正面からぶつかり、苦しみながら生きる様を熱演する。

ラン・ダルマとワンドゥという悪の二役を演じる今井清隆は圧倒的な歌唱で権力を表す。登場しただけで重厚な存在感があるのはさすが。

その悪と対照に、保坂知寿は時代を超越する菩薩役で神秘と慈愛溢れる美声を聴かせる。占い師ドルガ役では穢い身なりで、声も別人で驚かされる。ドルガはターラ菩薩の化身と考えることができ、二つの役は共通して物語を牽引するキーパーソンである。
 

鍵となる「黒い帽子の踊り」は、男性6名(訂正:女性も含む)による切れがあるダンス。黒い帽子を目深に被り顔を布で覆った踊り手は、勇壮でストイック。腰布が舞い、優雅で扇情的にも思える。東山、伊礼ほかがそれぞれに踊る。込められた思いを感じながら、何度も見たくなるような魅力的なシーンとなっている。


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TSミュージカルファンデーション

『眠れぬ雪獅子』

演出・振付◇謝珠栄

作◇大谷美智男  

出演◇東山義久 伊礼彼方 小西遼生/照井裕隆 滝沢由佳 小野妃香里 小林遼介 中塚皓平 麻尋えりか 上口耕平 山田ジルソン/今井清隆/保坂知寿 

●10/21〜30◎世田谷パブリックシアター

〈料金〉S席9500円 A席6000円

●11/1◎富山市民会館 大ホール

●11/5〜6◎兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

〈問合せ〉

TSミュージカルファンデーション 03−5738−3567

http://tsmusical.com


【文/佐藤栄子】

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