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元宝塚歌劇団雪組のトップ娘役だった愛原実花が女優としてスタート。8月6日から名古屋の御園座で、退団後初の舞台に出演している。

作品は井原西鶴の名作『好色一代男』で、片岡愛之助が扮する色男の浮世之介が、さまざまな姿に身を変えながら、理想の女性を求めて諸国を遍歴する物語である。

世之介を取り巻く女性たちには、宝塚OGの紫吹淳や遼河はるひ、ベテラン女優の竹下景子なども出演するという贅沢なキャストの中で、愛原は島原の花魁・夕霧太夫と、やくざの囲われ者のおしのという二役で登場する。

来年初めには『ラ・カージュ・オ・フォール』という人気ミュージカルにも出演が決まって、女優として順調に歩きはじめた愛原実花に、女優初舞台の稽古場で、この作品への取り組みと、これまで、これからを聞いた。


【最高位の花魁と薄幸の女性の二役】

ーー愛原さんの役柄は二役だそうですね?
夕霧太夫という島原の花魁と、おしのというヤクザに囲われている女の役です。

ーー『好色一代男』という作品は主人公の浮世之介の女性遍歴を描いていますが、実は真実の愛を求めてさまよう物語でもありますね?

そうなんです。出演が決まってから原作を読んでみたのですが、世之介さんが理想の女性を求めて旅をするというお話なんです。

ーーおしのは悲恋だとか?

はい。すごく切ない恋で、世之介さんと道行きの舞いもあったりして、最後は悲しい別れになります。

ーー夕霧太夫のほうは最高位の花魁だそうですが、そういう役どころは?

初めてです。資料を調べてみたら、全てに長けていて、和歌、鳴り物、書、唄、踊りにも優れていて、さらに、品と芸と教養と容姿が「極上の人」という、たいへんな役です(笑)。

ーー衣裳も豪華だそうですね。

太夫の衣裳は今まで着たことがないようなものです。和物ではこれまであまり豪華な衣裳には縁がなくて。宝塚時代の『風の錦絵』など、ブーツを履いてました(笑)。

ーー御園座という劇場は?

まだ行ったことがないのですが、伝統ある劇場ということで楽しみです。

ーー今回、宝塚のOGの紫吹淳さんと遼河はるひさんとの共演もありますね?

紫吹さんの舞台は宝塚に入る前のファン時代からたくさん拝見していましたから、お会いするのをすごく楽しみにしていたんですが、まだお会いできていないんです。出る場面が紫吹さんは江戸で、私は京都ということもあってすれ違いで。遼河さんも今回初めてご一緒します。モデルさんみたいに美しくて素敵な方です。

ーー相手役の愛之助さんとの呼吸はいかがですか?

まだ一緒のシーンはなくて、ちょっとお話させていただいただけなんですが、すごく優しい方です。私はご挨拶するだけで緊張していたのですが、「こちらこそよろしくお願いしますね」と穏やかに言ってくださって、ファンの方がたくさんいらっしゃるのがよくわかりました。そこにいらっしゃるだけで雰囲気がファーとなるんです。

ーー男優さんとの舞台は確か初めてですね?

はい。まだ慣れなくて緊張しています。宝塚の娘役は、一挙手一投足まで相手役の方に合わせることが当たり前でしたし、まず相手役さんの考えを大事に、いろいろ教えていただきながら、というような形でしたが、これからは、自分の考えをちゃんと見せていかないと、ということをすごく感じています。

ーー宝塚歌劇団では「生徒」でしたからね。

愛之助さんにも最初は、「教えてください」みたいな感じになってしまって。「一緒にやっていきましょう」という姿勢で向き合ってくださっているのが、厳しくもあり、楽しみでもあって、新たな気持ちでがんばりたいと思っています。
 

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【今を生きるのに必死だったトップ娘役時代】


ーー周りの役者さんたちも含めて稽古場も雰囲気がずいぶん違うのでは?

やはり相手の方が本物の男の方というのが一番大きな違いですね。すごく声が太くて低いなとか具体的な違いを感じますし、年輩の男優さんや女優さんもいて、多様というか個性がある方ばかりだなと。

ーーその中で愛原実花らしさをいかに出すかですね。

そうなんです。まだ娘役の形がどこか残っていて。

ーーでも下級生時代からリアルな演技派として目立っていて、『忘れ雪』の金井静香とか、『凍てついた明日』のボニーなどは、伸び伸びと演じて好評でしたね。

何もわからないまま、自分なりにやってました。とくに原作がある役は、その役にいかに近づくか、演じていて自分でも楽しかったです。

ーー愛原実花らしさは、そういう自由さだと思うのですが?

そうですね。『忘れ雪』の頃は、ちょうどなにか吹っ切れたというか、とにかくお芝居を楽しみたいと思っていて、悪役でも濃い役でも、何でも楽しもうって。純粋に作品の中できちんと生きられればいい、作品の中で自分の役割りを見つけられたらそれでいい、そういう気持ちでした。

ーーその頃はトップ娘役になるという話はまだ?

全然ないです。考えてもいませんでした。

ーー女役とか個性派で行こう、みたいな?

セリフがなくても脇のほうで誰かと小芝居していたり、そういうことが楽しかったですね。それまでは、ふだんも娘役だから娘役らしい服にしようとか、背が高いので3センチヒールしか履かないとか、いろいろ気にしていたんですが、全部やめて自分らしくしはじめたんです。それを水夏希さんが見てくださって、「そこが良かったんだよね」と、あとでおっしゃってくださいました。

ーートップ娘役になってからは、そういう自由さと相反する部分も多かったと思うのですが、かなり苦しんだのでは?

どういう芝居をしたいとかどういうふうになりたいとか、それどころではなくて、とにかく目の前にある与えられたものに取り組むだけでした。今日を生きること、明日を生きること、それだけで必死で。トップ娘役という立場にいることだけで精一杯でした。


【父の看病をする用意を】


ーー退団公演の最中にお父様が亡くなりましたね。

宝塚大劇場の公演中でした。父が亡くなったと聞いたのが開演10分前だったので、逆に泣いている場合ではないというか、やらなくてはならないことが目の前にあったのは有り難かったと思います。今のように1日がゆったりと流れているなかで受け止めるより、あの開演前の緊張の中でよかったなと。それに、舞台ってやっぱり神聖な場所ですから、守られているのをすごく感じていました。暗転とか袖にいるときとか、近くにいるのを感じていました。そういう気持ちで冷静に舞台をつとめられたのも、お客様のおかげだと思いますし、水さんはじめ雪組の皆さんのおかげだったと思います。

ーーとくにお父さん子だったそうですね。

そうなんです。それだけに何もなかったら立ち直るのがたいへんだったと思います。だから退団の忙しさに救われました。

ーー退団後のことは相談されたのですか?

一応、こういう仕事をしたいと言ってありました。

ーー芸能界は反対だったと聞きますが?

早く辞めて医者か公務員と結婚しろというのが口ぐせで(笑)。でも最後は、私の続けたいという気持ちはわかってくれていました。ただ、役者を続けるのがどれだけたいへんか知っているので、心配もしていました。

ーー厳しい世界ですからね。

私も退団したあとはすぐ女優になるのではなく、まず父の看病をしようと思っていて、その用意をしていたんです。ちょうど退団を考えた時期に父の病気がわかったこともあって、辞めたら車の免許を取って病院に乗せて行こうとか、介護の勉強をしようとか考えたり…。

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【できれば映像にもチャレンジしたい】


ーー退団して3カ月くらいで事務所の発表がありましたね。

12月に誕生日があったので、ちょうど次のことに踏み出すのにいいきっかけだと思いました。

ーーまだ25歳ですから、早い退団でしたね。

宝塚は本当に大好きだったので、辞めるのは寂しかったんですけど、幸せに送りだしてもらったので、最高の思い出として大事にしていきたいと思っています。これからもずっと観ると思います。自分のホームだったと思えるところですから。

ーーあちこちの劇場や関係者ゲネプロなどでよくお見かけするので、すごく舞台が好きなんだろうなと。

いろいろな舞台を見ることで本当に勉強になってます。芸能界の先輩方とかスタッフの方たちとお会いできる機会にもなって、視野がすごく広がりました。それに宝塚もすごくたくさん観に行ってます(笑)。

ーーそして、今後の方向性ですが、どんなものをやりたいですか?

舞台だけでなく映像もチャンスがあったらやってみたいです。今は型にはまらないでなんでもやってみたいし、可能性を探るためにもなんでも経験したいです。

ーー演技の資質をどんどん伸ばしていければいいですね。まずは、この初舞台にチャレンジですね。

皆さんの胸を借りて頑張りたいです。すごく素敵な舞台になりそうです。和物なのにイタリア歌曲みたいな音楽が入ったり、照明も道具もいろいろ凝っているし、踊りもあるし。楽しく観ていただけるものになると思いますので、皆さんぜひ名古屋までいらしてください。
 


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御園座八月納涼公演

『好色一代男』

原作◇井原西鶴

脚本・演出◇岡本さとる

出演◇片岡愛之助、紫吹淳、愛原実花、守田菜生、遼河はるひ、

原田龍二、桂雀々、田根楽子、上村吉弥、竹下景子 ほか

8/6〜21◎名古屋・御園座

〈料金〉一等席 13,000円/二等席 7,800円/三等席 3,900円/特別席 15,000円/特別室[食事付]東(4名)40,000円/西(3名)30,000円   (全席指定・税込)

〈問合せ〉御園座 052-222-1481 (午前10時〜午後5時)
http://www.misonoza.co.jp/


【取材・文/榊原和子 撮影/冨田実布】

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