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6月4日に日比谷シアタークリエで幕を開けた『風を結んで』は、謝珠栄らしいメッセージが、この現実だからこそひときわ切実に伝わってくるミュージカルである。

背景になるのは明治維新。時代が変わることで混乱の中に放り込まれた人間たちが、何をよりどころに明日へと踏み出せばいいのか、その煩悶と苦闘が描かれている。

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オープニングは会津の白虎隊の戦いのダンスから始まる。
このシーンは白虎隊の若武者の全滅の悲劇を踊るが、やがて見えてくるドラマの本筋への伏線ともなっている。 
 

背景になるのは明治維新になってからの東京。
主人公は時代の変化で武士という身分を失った旗本の子息、片山平吾(中川晃教)。

彼は友人の田島郡兵衛(藤岡正明)や加納弥助(小西遼生)とともに、ある娘を身売りから救おうとしたばかりに大金が必要になる。
その娘とは、道場の試合で平吾に敗れ、真剣での決闘を申しこんできた橘右近(大澄賢也)の妹の静江(菊池美香)だった。
 

だが身の回りのものを売り払っても二束三文という3人に、大金をポンと貸してくれたのが捨吉(山崎銀之丞)。
彼は「パフォーマンス一座」を立ち上げようとしている洋行帰りの大林由紀子(大和悠河)に仕えていて、その大金の返済のために、3人は右近や他の武士たちを誘い、由紀子の一座で剣さばきを見世物として披露することになる。
 

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片山平吾には中川晃教が扮していて、ちょっと頼りない江戸の旗本の青年剣士が、しだいに自分の生きる道や仲間とともに生きる道を考え、真剣に時代と向き合っていく姿を爽やかに真っ直ぐに演じている。ソロをはじめとする劇中歌も伸びやかに歌っていて、主題を背負うにふさわしい活躍ぶり。
 

大和悠河は、洋行帰りで進歩的な考えの大林由紀子として、華やかなドレス姿で舞台にゴージャスな風を吹き込む。女性座長らしい風格や英会話の押し出しなどは、トップ時代そのままの求心力でさすが。「幸せの種」というもう1つの主題曲も丁寧に歌っていて心が伝わる。数場面だが白虎隊姿も見せて凛々しい。

平吾の友人2人は藤岡正明と小西遼生で、それぞれの個性が鮮明で、中川と3人で絶妙のトリオぶり。

藤岡はメガネでとぼけた味を強調。3人の中ではいちばんちゃらんぽらんに見せながらも、どこかで生きる意味を探っているまじめさも醸し出す。
小西はちょっと気弱で優しい青年という雰囲気を感じさせる役作りだが、最後の場面で見せる姿に強さをにじませる。

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未来へ目を向けようとする3人の若者と対峙するのが大澄賢也扮する橘。古い時代のサムライを引きずり、世の中に取り残されていく苦悩と悲哀を感じさせる。剣の名人という設定だけに殺陣の切れ味も鋭い。

山崎銀之丞は由紀子のそばで働く捨吉で、影のある胡散くささが巧みで、後半になって物語を大きく動かすのにふさわしい存在感。長いソロもある。

平吾と恋仲になる静江に菊池美香。ひたすら控えめな演技で、モダンで自立した大林由紀子と対比される昔の日本女性らしさを出している。

その他に、照井裕隆、小原和彦、俵和也、加藤貴彦が、それぞれ一座に参加する訳ありの武士として登場。殺陣やダンス、歌唱も含めて作品全体の厚みを出すのに大きく役立っている。 

スタッフワークも素晴らしく、和を象徴的に取り入れ高さを生かした美術の太田創、ドラマ性を抱え持ったスケール大きなメロディを生み出した甲斐正人、謝作品ならではの動きを考慮しつつ和服をアレンジした衣裳の西原梨恵などが、優れた手腕を発揮している。
 

謝珠栄の舞台の主題は、いつも敗れた側の痛みが底に流れている。

今回も明治という新しい時代を背景に、敗者として生きなければならなくなった武士という立場の悲しみや悔しさを描き出し、それでもなお「生きろ、生き抜け」とその背中を押す。
その不屈のメッセージを受け止めたキャストたちの熱がそのまま伝わってくる、実に真摯な、鮮烈な舞台である。
 
 

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ミュージカル
 『風を結んで』
演出・振付◇謝珠栄
脚本◇大谷美智浩
音楽◇甲斐正人
出演◇中川晃教/藤岡正明、小西遼生、菊地美香/山崎銀之丞、大澄賢也/大和悠河 他
●6/4〜19◎シアタークリエ
●6/26◎中日劇場
●6/28〜30◎イオン化粧品シアターBRAVA!
〈料金〉S席9500円 A席8000円 (税込)
〈問合せ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777

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【文/榊原和子 撮影/冨田実布】
 

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