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【サヨナラ会見 一問一答】

退団の会見は、18時半から始まった。黒エンビで表れた瀬奈じゅんは、その清々しく明るい表情をしている。まず最初に瀬奈の挨拶から始まった。

瀬奈「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます。ただいま無事に大階段を降りて、卒業してまいりました。今、とても幸せな気持ちでいっぱいです。皆様にはたくさんお世話になりました。本当にありがとうございました。これからも私らしく進んでまいりますので、どうぞよろしくお願いします」

ーー今改めて思う宝塚は、瀬奈さんにとってどんなところでしたか?

瀬奈「どんな場所…私にとって、本当に全てでした。私の青春の全て、そして全てをかけても惜しくないと思える、そんな場所でした」S004

ーー最後の挨拶が素晴らしかったのですが、どのような気持ちで考えたのでしょうか。

瀬奈「私はやはり、本当にお客さまやファンの方に育てていただいたという思いを強く持っておりますので、それを伝えたかったのと、あとは、自分を信じてここまで歩いてきたということ、宝塚は、お嬢さん芸といわれがちなところがありますけれど、それでも、みんな命をかけて闘って、舞台をつとめているんだということを、どうしても伝えたかったという思いがありました」

ーー男役がいちばんやりたかった役ということでしたが、男役について。

瀬奈「私はとにかく男役が大好きで、自分が男役として生きることが、私の全てでしたから。いろんな役を演じていても、やはり男役だから演じられること、男役だからこそできる踊り、男役だからこそ歌える歌、というものを追究していきたいという思いがありました。そのことを、ぜひともお客様に伝えたかったので」

ーーこの挨拶の言葉は、いつごろ考えたのでしょうか?

S001瀬奈「考えたのは、東京公演始まってから、しばらく経ってから考えました。というのは最後の公演を肌で感じたいと。お客さまの感じていらっしゃることを肌で感じてみないと、自分の言葉って見つからないかなと思ったので。案外ぎりぎりでした(笑)。最後にとにかく伝えたい思いを伝えようと、考えました」

ーー宝塚大劇場では赤い薔薇でしたが、東京では白い薔薇にした理由を。

瀬奈「私の中では男役といえば赤い薔薇というイメージなんですが、やはり最後は、白い花のほうがいいのかなと思いましたので」

ーー挨拶の中に「新しい世界」でという言葉がありましたが、それはどのようなものを考えていますか?

瀬奈「それは私にもわからないです。ですから新しい世界がどういうものか、私自身も楽しみにしている状態です」

ーー女優さんとか、具体的に考えていることは?

瀬奈「具体的には何も決まっていないんですけど、とにかく今まで培ってきたもの、そしてファンの皆様が応援してくださる限り、ファンの方々が喜んでくださるような活動ができればとは思っています」

−−霧矢さん率いる新生月組に贈る言葉を。

瀬奈「なんの心配もしておりませんので、とにかく楽しませてくださいという思いでおります。そして私もとても楽しみにしておりますし、下級生がどんどん成長してくれることが私の願いでもあります」

S003ーー新しい世界に宝塚から1つだけ持っていくとしたら?

瀬奈「愛を(笑)」

ーー一本締めはいつやろうと決めたのでしょうか?

瀬奈「私は本当に宝塚が大好きで、どうしたら宝塚への思いが、自分が男役として生きることに諦めがつくのだろうと(笑)。よし、じゃあ一本締めをやって、それで私の宝塚人生、男役人生を終わりにしようと(笑)。それは東京に来てからですね、考えました」

ーー諦めはつきましたか?

瀬奈「はい! はい」

ーー最後に出て来られて、最後に入っていったときの気持ちは?

瀬奈「月組の仲間がもう舞台袖にいてくれて、みんなが笑顔で迎えてくれたので、清々しい気持ちでした」

ーー結婚のご予定は?

瀬奈「あるように思いますでしょうか? 愚問ですね(大爆笑)。びっくりします(笑)。でも、私にそういう質問をしてくださることが嬉しいです(笑)。ありがとうございます。でも、残念ながらありません」

ーーご希望は?

瀬奈「そうですね、まったくありません(笑)」

ーー愚問でした(笑)。

瀬奈「これからの人生、そう思える出来事があればいいな、と願っております」

 

記者も巻き込んでの笑いの中で、歌劇団の進行係が「では質問はこれで」とカット。

瀬奈「えー、この質問で終わりなんですか?」

再び大爆笑のなかで会見は終わった。

最後のステージを終えて、リラックスした表情の瀬奈じゅんは、記者たちの遠慮のない質問にも気持ちいいほど率直に答えてくれて、和やかに会見は終了。ひときわ大きな拍手の中を、パレードの準備に楽屋へと戻っていった。

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【パレード】

朝方の強い風は昼過ぎには収まり、年の暮れとは思えないほど穏やかな空気の中で、退団者のパレードは行われた。道からはみ出さんばかりのファンたちは、ボアのついた白いキルティングなどを着ている。整然と並び、応援する退団者が出てくるたびに、きちんと位置移動する行儀のよさは宝塚のファンならでは。公式発表では8000人だが、一般ギャラリーも含めるとそれ以上はいるような見送りの人数だ。
パレードは予定とほぼ同じ時刻、19時20分頃から始まった。

まずは娘役の麗百愛から順番に出てくる。麗百愛はキュートな笑顔でダンスが抜群だった。羽桜しずくは清楚な美しさの宝塚らしい娘役だった。男役の麻月れんかは、芝居好きないい若手男役だった。城咲あいは、スタイルのよさが舞台で際立つ実力派娘役だった。音姫すなおはいつまでも初々しい女役だった。まだまだ活躍が見たかった二枚目も立役もできる遼河はるひ。だがどの顔も吹っ切れたようないい笑顔だ。

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いよいよ瀬奈じゅんが楽屋口から出て来る。まずはホテル・ペニンシュラ方向にたくさん待っているファンと別れの挨拶をして、そして向きを変えて、道の両側にあふれんばかりに並んでいるファン、1人1人に別れを告げるように、ゆっくり両側をながめながら歩いて来る。
最後の衣装は黒紋付に緑の袴。花束は持っていない。舞台メイクなしの素顔が幼くさえ見えるほど若々しくキラキラと輝いている。S012

記者席の前で、しばらく写真撮影タイム、カメラマンから「瀬奈さん、両手上げてくれますか」「Vサインお願いします」などの注文には片手だけ上げて「両手?はしたないから」と答えるところなど、男役としての美学を最後まで忘れない瀬奈じゅんならでは。

そしてファンたちからの最後のエールが送られる。
「瀬奈さん、最高の男役を、ありがとうございました。あさこさんの大きな愛、受け止めました。あさこさん、愛してまーす」
瀬奈はにっこりと微笑んで「私も愛してまーす」と答える。そして両側からのファンの声のなかを、帝国ホテル側に止められた車に乗り込むために歩いて行く。やがて車のそばまでたどり着くと、その手前で振り返り、両手で大きな投げキスをファンに送った。ひときわ高く沸き上がる大きな歓声と拍手。
その声に送られながら、男役瀬奈じゅんは、爽やかに鮮やかに、ファンの前から去っていった。

 

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【文/榊原和子】