元宝塚星組の朝澄けいといえば、気品のある美貌で人気の若手男役スターだったが、2002年に退団、今では女優としてシンガーとして活躍している。
その朝澄けいのライブが11月7日に行われる。演出は同じ宝塚歌劇団出身で昨年からフリーになった演出家、荻田浩一。彼のデビュー作品『夜明けの天使たち』にも出演し、その後も、彼のショーや芝居で数々の印象的な仕事を残した朝澄にとって、このライブは記念的なイベントになるはずだ。
また来年1月には、再演が決まった荻田演出の『蜘蛛女のキス』にも出演するという。今、意欲溢れる朝澄けいに話を聞いた。

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【7年目のスタート】

ーーまもなくライブがありますが、今回はチャレンジ的な意味があるとか?
これまで何回かコンサートやライブをさせていただいてましたが、選曲はわりと自分が慣れ親しんだ歌とか宝塚の曲とか、よく知ってる中から選んできたんです。でも今回は荻田先生に構成・演出していただけることもあって、自分のこれまでの流れを入れつつ、新しい方向性を考えようということで、次の段階に移行する朝澄けいを、そのまま感じていただけるものになればいいなと思っているんです。

ーー荻田さんの演出というのが嬉しいですね。彼はすごく音楽通ですが、今回はどんな曲を提案されたのですか?
海外ミュージカルや古い映画の主題歌、宝塚でよく聞く有名なミュージカルナンバーもあります。候補曲は日本の昔のものからブロードウェイ・ミュージカル、しかもジャンルも幅広く、何十曲と出してくださったので、その中から私のキーに合うものなどを相談しながら選んだんです。でもあまりの数多さに、選曲にすごく時間がかかりました(笑)。

ーー荻田さんなら構成も独自のワールドになってるのでは?
どこかドラマみたいな流れを意識して作ってくださってます。今の私の状態を描かれているというか。それにどうしても私が歌うものはバラード系が多いんですが、それがさらに幸せじゃない感じのものになってて(笑)、相変わらずの荻田先生ワールドです(笑)。

_MG_6007ーー朝澄さんは、温かくて心に沁みる、バラードに合う声を持っていますね。
今回はいろいろ挑戦しようということで、あまり出してない音色で歌う曲もあります。それから荻田先生が今回のために日本語詞をつけてくださった歌もあって、そのどれもが素敵な歌詞なので、なんて贅沢だし幸せなんだろうと思っています。それだけにちゃんと消化して歌うのが課題です。

 

ーーミュージカルやお芝居に出るのと並行して毎年、コンサートかライブを必ず行ってますね。退団したときは、こんなに歌の仕事をすると思っていなかったのでは?

そうなんです。全然歌姫とか歌手とかいうものとは縁遠い存在だったんで(笑)。役のなかで歌わせていただくことはあっても、普通に歌える程度にしか自分も周囲も思っていなかったので。それが、卒業してからこういう形で歌と関われているのは嬉しいし、本当に恵まれているなと思います。とくに今回、一つ一つの曲の奥深さをすごく感じています。たぶん、まったく聞いたことなかった曲や、初めて歌う曲が半分くらいあるせいかもしれません。その初めて聞いた曲をどう歌いこんで、その曲の世界を作るかが楽しいし難しいですね。

ーーそういう意味では、このライブで音楽との向き合いかたも違ってきているということですか?
たぶんこれまでは、どこか本名の私が楽しんで歌っていたと思うんです。でも今回は「朝澄けい」を意識しているというか、自分のなかで何か新しい一歩を踏み出したものになれたらと思っていて。今まではあまり自分にプレッシャーをかけ過ぎないようにしてたんですけど、今回はあえてプレッシャーもかけているところです(笑)。

 

_MG_6044ーー宝塚を退団して7年目ですが、今、これまでになく意欲満々になっているように見えます。
なんか開き直った感じはありますね。やっぱり自分は歌も好きだし芝居も大好きなんだなと。宝塚にいた頃も好きだったはずなのに、いろいろな意味で自分の本当の思いをちゃんとわかっていなかったと思うし、それを素直に出せないでいたような気がします。

ーーすごく期待されていたしどんどん上に昇ってる途中でしたから、退団はちょっともったいなかったなと。
今思うと、自分で自分をどこか不自由にしてる部分があったのかなと思います。周りは期待していろいろ言ってくださるのに、それに応えられない自分がイヤだったり、自分にそれほどの価値があるかどうかも疑ったりして。だから退団したあと、本当にこういう活動ができるようになるなんて考えてもいなかったですし、考えられなかった。

ーー1年後にライブから活動を再開しましたが、ここまで続いてるのは、やっぱり表現衝動があったんでしょうね。
ライブのあと芝居をさせていただいて、でもどこか「私でいいんですか?」みたいな思いはいつもあったんです。でも始まると楽しいし夢中になれる。それでも、公演が終わるとあれで本当によかったのかなと自信がなくなるし。でも昨年、荻田先生の『D〜永遠という名の神話』に出演させていただいたときに大きな変化があって、本当の自分を解放できたというか。
それまでの『アルジャーノンに花束を』とか『蜘蛛女のキス』などは、共演者のほとんどが年上のかたたちで、OG公演なども上級生ばかりということが多かったんです。それが『D』は、同世代の人たちが多いカンパニーで、宝塚で1年下の舞風りらちゃんはよく知ってる仲ですし、主役の東山義久さんも同世代で。そういう仲間と毎日稽古が終わったあと、本音で舞台のこととか仕事のこととか、思い切り話したんです。そういうなかで初めて、自分の本音とか舞台が好きな気持ちに改めて気がついて。これまで中途半端に歯止めをかけていた自分に、「好きならやろうよ、そういう自分を認めてあげようよ」みたいな気持ちになれたんです。

ーーやっと自分の本心を認めたわけですね(笑)。
今頃ですけど(笑)、これが私のペースみたいです(笑)。退団してから7年、ゆっくりでもここまで続けてこれたのは、周りのかたに本当に恵まれていたからだし、同時に自分もやっぱり好きで、続けたいという思いがあったからだなと。

ーーこんなに綺麗で歌も芝居もできるのだから、もっと自信を持っててもいいと思います(笑)。
私はへんなふうに完璧主義で、つい減点法で採点してしまうんです。役についてもすごく理想もあるだけに「あ、できてない」とマイナスしてしまう。根はすごいダラダラ人間なのに(笑)、そういうところだけ完璧主義者なんだと最近わかったんです(笑)。でも、これからは芸事ではいい形で加点法も取り入れていこうかなと。

ーーこれまでも朝澄けいという才能にオファーがあったわけですから、それも自信に思っていいのでは?
そうですね。これからはもうちょっと自分を認めてあげたいと思います(笑)。

ーーそういう点も含めて、このライブは本当に7年目の新しいスタートですね。
今年初めに事務所にも所属しましたし、いろいろな意味でスタートです。ですからきっと記念的なイベントになると思います。1日だけですが3回あるんです。その1回1回に、全然違う感動があるんじゃないかと思っています。

 

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ーーそして来年の1月は『蜘蛛女のキス』の再演で、またマルタ役で出演ですね。
私は宝塚時代から再演を経験したことがなかったんです。初めての再演ということでは緊張しているんですが、もう1度『蜘蛛女のキス』の世界に入れるのはすごく楽しみです。この作品でも千秋楽が終わってしばらくのあいだは自分のなかで、あそこはああすればよかったとか、ああいう表現もあったとか、けっこう反省していたので、そのときの思いを活かせたらいいなと思います。それに加えてキャストの一部のかたが替わるので、また1から向き合うこともできるし、すごいチャンスだなと思います。

ーーマルタ役はセリフがあまりないけどミステリアスで美しくて、朝澄さんにはまり役でしたね。
マルタは台本にしたら1Pの半分くらいしかセリフがなくて、幻想の中で通り過ぎる場面がほとんどでした。初演では、そのマルタの張りつめた心ばかり出すことに意識が行きすぎていたような気がします。今回は、その張りつめたものは結果であり、ヴァレンティンを愛していた気持ちや彼女の内部の苦悩をもう少し出したいなと思ってます。やはりあそこに至るまでにはマルタにもドロドロした感情があったはずだし。そういう内面をもうちょっと深めて、それが見えるように表現していきたいなと思っているんです。

ーー石井一孝さんも浦井健治さんも、さらに深めてきそうで楽しみですね。稽古場では遠慮せずにぶつかっていくほうですか?
稽古に入ると周りのことが眼に入らなくなるので、大丈夫なんです(笑)。遠慮なくぶつからせていただきます(笑)。

ーー芝居と歌という形で、さらに意欲的に活動していきそうですが、この先の朝澄けいの夢は?
いろいろあるし、あまりに大きな夢なので…。いつかはそれができる人間になれたらいいなと思ってますし、今はとにかく、与えられたものをできる限りの力で生きて、その結果、どこかにたどり着けたらいいなと。

ーーでは、まずはライブの朝澄けいを楽しみにしています。
新しく移行しつつある私を、観て聞いて、感じていただけたら幸せです。

 

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『朝澄けい Live』

●11/7◎GINZA TACT

構成・演出◇荻田浩一

出演◇朝澄けい

<時間>13時、16時、19時 

<料金>¥6800(ワンドリンク付)

<お問合せ>キャンディット 03-3402-8205      

         http://www.candid-net.jp/

『蜘蛛女のキス』

●2010/1/16〜18◎梅田芸術劇場 メインホール

●2010/1/24〜2/7◎東京芸術劇場 中ホール

原作◇マヌエル・プイグ

脚本◇テレンス・マクナリー

作詞・作曲◇ジョン・カンダー&フレッド・エッブ

演出・訳詞・上演台本◇荻田浩一

出演◇石井一孝 金志賢 浦井健治 初風諄 今井朋彦 朝澄けい 他

<料金>梅田芸術劇場/S席¥12000  S席¥8000 B席¥4000
    東京芸術劇場/S席¥11000  A席¥8500 Z席¥3000
<お問合せ>梅田芸術劇場/06-6377-3800

 

                http://www.umegei.com/

                                【取材・文/榊原和子 撮影/岩村美佳】