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寺島しのぶ主演、麻実れいなど演技派の共演で『OTHER DESERT CITIES(アザー・デザート・シティーズ)』が東京・大阪で上演!

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寺島しのぶ主演、中村蒼、麻実れい、中嶋しゅう、佐藤オリエが共演する注目作『OTHER DESERT CITIES(アザー・デザート・シティーズ)』が7月に東京・大阪で上演される。
 
本作は、長い間隠されてきた家族の秘密を、各々の政治観と個性を織り混ぜながら語られる家族劇。
2010年オフ・ブロードウェイのリンカーン・センターでワールドプレミアを行い、翌年ブロードウェイのブース劇場にて上演され、「ウィットに富んだ辛辣さで深く心を打つ傑作」と称賛された。
そして2012 年トニー賞では、演劇作品賞、演劇主演女優賞、演劇助演女優賞、装置デザイン賞、照明デザイン賞と5部門にノミネートされ、シルダ役を演じたジュディス・ライト(Judith Light)が、演劇助演女優賞を受賞。更に同年、報道・文学・作曲に与えられる米国で最も権威ある賞、ピューリッツァー賞戯曲部門においては、ファイナリストに選ばれている。
 
日本版の脚本には、映画『紙の月』(2014年)の脚本でアカデミー賞優秀脚本賞を受賞した早船歌江子が、舞台脚本の翻訳に初挑戦。演出は、2010年に上演された『おそるべき親たち』(ジャン・コクトー)で第13回千田是也賞を受賞した熊林弘高が手がける。 

【あらすじ】
2004年のクリスマスイブ──遠く離れた砂漠の国では、イラク戦争が継続していた。
そしてカルフォルニア州にある砂漠の街・パームスプリングスでは休暇に集まった家族が、ある危機を迎えていた。
「これは小説じゃない。回想録なの」数年ぶりに帰郷した娘の宣言は、家族に投げつけられた爆弾だった。ずっと昔に封印し、お互いに語らずに来た過去を、赤裸々に書いた回想録を出版するというのだ。
有名人の両親は、体面を守るために娘と激しく対立する。
お互いを理解出来ないまま、家族はそれぞれの真実によって、相手を打ち負かそうとする。やがて事態は、修復不能なまでに壊れて行き……

主演の長女・ブルックには寺島しのぶ、ブルックの母・ポリーには佐藤オリエ、ポリーの妹・シルダには麻実れい、ブルックの弟・トリップに中村蒼、ブルックの父・ライマンには中嶋しゅう、まさに注目の演技派たちが並ぶ。
  
この出演者のコメントと、物語の世界観を前面に押し出し、登場人物たちの心の擦れ違いを描いたチラシビジュアルが届いた。

【コメント】
 
寺島しのぶ/ブルック(作家 NY在住。 うつ病を患い、長らく作品発表していない)
戯曲を一読して「これ、わたし!」って思ったんです。「今、わたしがやる意味がある」と思いました。このよく出来た戯曲で、熊林(弘高)さんの演出で、しびれる共演者の方たちがいて、やらない理由がなかったです。

中村蒼/トリップ(TVプロデューサー LA在住。姉と両親の対立に挟まれ、中立を貫こうとする)
海外の戯曲の出演経験はまだありません。自分ではまだ早いかなと思っていたのでうれしいです。聞くところによると、役者以外は稽古場に入れないルールで稽古をやるんですってね。どんな感じになるのか楽しみ。

麻実れい/シルダ(元脚本家 アル中。姉夫婦のやっかいになっている)
最初に台本を読んでみて、自分の中で可能性が見つからず、迷って迷って、演出の熊林(弘高)さんに電話で相談したほど。例え大変な役でも、熊林さんの演出には、できる限り関わりたいと、決意を新たにしました。

中嶋しゅう/ライマン(元映画俳優 共和党員でレーガン政権時代には大使をつとめた)
アメリカ共和党の政治家の役です。政権の内幕を描いたアメリカのTVドラマなどを観ていても、それは凄まじい世界のようですが、家族の前ではオロオロしているだけの、ただのお父さん。女性の強さにはかないません。

佐藤オリエ/ポリー(元脚本家 共和党支持者・攻撃的な性格で、娘の動向に目を光らせる)
今まで演じてきた母親の役は、わがままで子供を犠牲にする役ばかり。今回は逆で、家族を必死に守る役。できるかしら、とも思いますが、自分の母に似ていて、「母の色んなトコロ、活かせる」と密かに思っています。


〈公演情報〉
『OTHER DESERT CITIES(アザー・デザート・シティーズ)』
作◇ジョン・ロビン・ベイツ
台本◇早船歌江子
演出◇熊林弘高
出演◇寺島しのぶ、中村蒼、麻実れい、中嶋しゅう、佐藤オリエ
●7/6〜26◎東京芸術劇場シアターウエスト
●7/29〜31◎梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
〈料金〉9,500円(全席指定・税込)
〈発売日〉4月16日(日)
〈お問い合わせ〉
東京公演/梅田芸術劇場 0570-077-039
大阪公演/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 06-6377-3888

 

えんぶ4月号 




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オリジナルミュージカル『花・虞美人』間もなく開幕! 凰稀かなめインタビュー

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元宝塚宙組トップスターで女優としての歩みを着実に進めている凰稀かなめ。退団後初主演となるミュージカル『花・虞美人』が、3月26日に赤坂ACTシアターで開幕する。(31日まで。名古屋・大阪公演あり)
「四面楚歌」の語源ともなった楚の項羽と漢の劉邦の物語に基づき、美貌の持ち主としてのみ語り継がれている1人の女性、「虞美人=虞姫」にスポットを当て、新たな物語を紡ぐオリジナルミュージカルだ。この舞台で主人公虞姫役として熱い気持ちで臨む彼女に、公演への意気込み、そして年頭に行われた宝塚OGによる『エリザベートTAKARAZUKA20周年スペシャル・ガラ・コンサート』での発見などを語ってもらった「えんぶ4月号」の記事を、別バージョンの写真とともにご紹介する。

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美しさの中にある悲しさにきちんと感情をつないで
 
──退団後初主演舞台の『花・虞美人』ですが、今の段階で作品についてどう感じているか教えてください。
台本を読んで、まず人間模様がとても複雑にからみ合っているなと思いました。私と誰かということだけではなくて、例えば男同士ですとか、大将と軍師ですとか、役同士の人間関係が事細かに描かれている台本でした。それぞれの心理描写がよく練られているので、これをどういう風に演じていくかが課題だなと思っています。
──演じる虞美人、虞姫についてはどのように?
まず多くを語らない役どころなんですね。劉邦との結婚前夜に始皇帝の軍に父親を殺され、自らも連れ去られてしまい、父の仇の始皇帝を討とうとする。その思いを遂げてくれた項羽への新たな思いも生まれてくるですが、劉邦への愛もずっと続いている。そういう葛藤を言葉にすることがあまりないので、心の揺れ具合や、女性としての優しさ、器の大きさ、真実の愛を、台詞で訴えるのではなく、違う部分で表現していかなければいけないだろうと感じました。このあたりはセットや音楽が固まって、立ち稽古でどのようになっていくかですが、多くの思いを秘めている女性なので心して挑みたいです。私は元々お稽古に行くまでは、なるべくフラットでいたいと思っていて、しかも実在の人物とは言っても、今回の虞姫についてはほとんど資料らしい資料が残っていないので、お稽古の中で周りの人たちの芝居を感じながら、受け留めていく作業を特に心がけたいです。
──では稽古の中で様々な発見がありそうですね。
初めてご一緒させて頂く方々ばかりで、ベテランの方も多いので、とても楽しみです。退団後『1789ーバスティーユの恋人たちー』のマリー・アントワネット役をやらせて頂きましたが、音楽をスペクタクルで見せるフレンチミュージカルだったこともあって、芝居の要素は少なめでしたから、これだけじっくり芝居をするのは本当に久しぶりになります。もちろん今回も歌も踊りも入るミュージカルなのですが、芝居部分で見せていく部分が濃いので、「お芝居ができる!」という期待でうずうずしています。
──何よりもお芝居が好きな人だと言われていた凰稀さんですから、それは気持ちも高まっていることでしょうね。
はい、すごく気合いが入っているのですが、台本を読んで、どんな声でどんな風に話したらいいのかを、今試行錯誤しています。時代物なので、普通に話したのでは伝わらないし、でも感情を伝えるには心のままに話した方がいいので、そのバランスをどう取っていくかも、これから創り上げていく大切なポイントだと思います。何よりも台本の流れが美しくて、読んでいるだけで最後には涙が止まらなくなってしまったほどだったので、その美しさの中の悲しさに、きちんと感情をつなげられるようにしたいです。

おうきかなめ

今だからこそ感じられた新たなルドルフ像

──そんな新しい舞台に期待が高まるのですが、直近には宝塚OGによる『エリザベートTAKARAZUKA 20周年スペシャル・ガラ・コンサート』への出演もありました。女優として歩んでいる今、改めて演じた男役はいかがでしたか?
実は、はじめは出演すべきかどうか悩みました。自分のコンサートなどでは、ファンの方が喜んでくださることもあって、男役の場面も取り入れさせてもらったりしましたが、基本的には宝塚を退団して、現役生ではなくなった時点で男役も続けていこうとは思っていなかったので。でも『エリザベート』20周年という歴史の中に、自分が関われたということも奇跡ですし、宝塚にいても作品との縁がなければ出られないわけですから、久しぶりの軍服姿をファンの方にも喜んで頂けるだろうと思って出させて頂きました。コンサートでは当時のことをありありと思い出しました。まだ下級生で何番手という立場でもない時に、ルドルフ皇太子という役を頂いて、葛藤していたことなどが蘇りました。同時に、ガラコンサートならではの現役時代に共演することはできなかった方々、トート役の姿月あさとさんや瀬奈じゅんさんとご一緒できたのは光栄でしたし、当時の雪組トップスターだった水夏希さんと、トートとルドルフとしてまた共演させて頂けたのも、本当に嬉しいことでした。
──今の凰稀さんがルドルフを演じて、新たな発見などはありましたか?
当時は『エリザベート』という作品の中のルドルフとしてしか考えていなかったのですが、今回はその後宙組のトップをさせて頂いている間にやらせて頂いた『うたかたの恋』のルドルフの感覚が鮮明に残っていたんです。ですから『エリザベート』でのルドルフの15分間という凝縮された出番でも、家族との関係や、新しい国への思い、マリーとの恋など、『うたかたの恋』の経験で得た、『エリザベート』には描かれていないルドルフのバックボーンが私の中にあったので、満たされた気持ちで死ねました。自殺するのですが、辛い、哀しい、絶望したというだけではない、自由な魂として旅立てるというような。ですから、最期の場面で笑っているルドルフというのはあまりいないと思いますが、私は笑って死んでいけました。それは『うたかたの恋』を経たからこそ出てきたものだと思うので、自分でもとても面白い経験になりました。
──他にテレビドラマへの出演もあり、また『花・虞美人』へと向かう中で、更にやりたいことなども増えているのでは?
やりたいことはたくさんありますし、それが必ず実現しているので幸せです。今回も、お芝居とじっくり向き合いたいと思っていたところに『花・虞美人』に出会えました。虞姫のように内に秘めた強さを持った女性を演じるのも初めてですし、私だけでなくそれぞれの役どころにたくさんの見せ場がある作品なので、皆さんと切磋琢磨しながら創っていきたいと思います。踊りも多く、殺陣もふんだんにあって、私自身が立ち回りに関われないのは少し寂しいですが(笑)、全員で団結して素敵な舞台にしていきたいと思っています。

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おうきかなめ○神奈川県出身。2000年に宝塚歌劇団で初舞台。12年、宙組トップスターに就任、数々の作品で活躍、15年に退団。16年『1789−バスティーユの恋人たち−』マリー・アントワネット役で女優デビュー。コンサート、またドラマ『家売るオンナ』への出演など活躍の幅を広げている。17年1月の宝塚OGによる『エリザベートTAKARAZUKA20周年スペシャル・ガラ・コンサート』では、久々に男役として美しい軍服姿を披露した。

【アフタートーク開催】
東京公演
3月27日(月)13:00公演:黒川拓哉、松田凌、今井ゆうぞう
3月28日(火)16:30公演:凰稀かなめ、大澄賢也、松田凌
3月29日(水)13:00公演:ユナク(超新星)、池田努、岡田亮輔、石橋直也
3月30日(木)13:00公演:凰稀かなめ、小野健斗、桑野晃輔
名古屋公演
4月16日(日)11:30公演:凰稀かなめ、ユナク(超新星)、黒川拓哉
大阪公演
4月22日(土)13:00公演:凰稀かなめ、池田努、松田凌


〈公演情報〉
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ミュージカル『花・虞美人』
脚本・演出◇岡本貴也 
音楽◇鎌田雅人
出演◇凰稀かなめ ユナク(超新星) 黒川拓哉(LE VELVETS)・池田努(Wキャスト)  松田凌 岡田亮輔 石橋直也 桑野晃輔 今井ゆうぞう 小野健斗 奥田圭悟 高橋由美子 大澄賢也 他
3/26〜31◎東京・赤坂ACTシアター
4/15〜16◎名古屋・愛知県芸術劇場大ホール
4/22〜23◎大阪・森ノ宮ピロティホール
〈料金〉プレミアムシート 13,000 S席 11,000 A席 7,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉(株)ジェイロック 03-5485-5555
http://www.hana-gubijin.jp/




【取材・文/橘涼香 撮影/岩田えり】 






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新生月組が一丸となって盛り上げる珠城りょうトップお披露目公演 宝塚月組『グランドホテル』『カルーセル輪舞曲』

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新トップスター珠城りょうのお披露目公演である、宝塚月組公演、ザ・ミュージカル『グランドホテル』と、モン・パリ誕生90周年レビューロマン『カルーセル輪舞曲』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(26日まで)。

ザ・ミュージカル『グランドホテル』は、1928年のベルリンを舞台に、高級ホテルを訪れた人々が1日半のうちに繰り広げる様々な人生模様を描いたミュージカル。原典の映画は群像劇を総称する「グランドホテル形式」という言葉を産んだ作品としても知られ、1989年トミー・チューンの演出・振付により、ブロードウェイで上演されたミュージカル版はトニー賞5部門を受賞。宝塚歌劇では、同氏を演出・振付に迎えて、1993年に上演された涼風真世、麻乃佳世を中心とする月組での初演が大きな喝采を集めた。今回はそれ以来、ほぼ四半世紀ぶりとなるとなる待望の再演で、トミー・チューンを特別監修に、岡田敬二、生田大和が演出を担当。新トップスター珠城りょうが実は破産状態にあるものの、貴族のプライドを失わないフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵に。また、トップ娘役の愛希れいかが世界的なバレリーナ、エリザヴェッタ・グルーシンスカヤに扮した、謂わば『グランドホテル』〜ガイゲルン男爵編〜の趣のある作品になっている。

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【STORY】
1928年、ベルリンにある世界に名だたる高級ホテル「グランドホテル」には、今日も回転ドアを潜り抜けてやって来ては、また去っていく人々の人生が交錯している。
ここに長期滞在しているフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵(珠城りょう)は、人生に快楽のみを追い求めるハンサムな貴族として、ホテルに関わる人々の羨望を集める存在だ。出産が長引いているフロント係のエリック(朝美絢・暁千星Wキャスト)の妻に、花を贈ることも欠かさないなど、洒脱さを示しながら悠々自適に暮らしている。だが、その実フェリックスは、ホテルの滞在費を半年以上も滞納しているほど、多額の借金を抱え困窮しており、彼の傍には今日も、借金の取り立て人である運転手(宇月颯)が忍び寄ってきていた。
そんな時フェリックスは、5回目の引退興行の最中である世界的プリマ・バレリーナ、エリザヴェッタ・グルーシンスカヤ(愛希れいか)をロビーで見かけ、その美しさに圧倒される。けれどもグルーシンスカヤ自身は、バレリーナとしての自分に自信を失いかけていて、22年間彼女への思いをひた隠しにしながら、献身的につき従うラフェエラ(暁千星・朝美絢Wキャスト)に、キャンセル料を工面して公演を中止したいので、所有している高価なダイヤモンドとルビーのネックレスを売りさばくよう頼んでいた。
そこへ、ユダヤ人簿記係オットー・クリンゲライン(美弥るりか)も回転ドアを通って現れる。実は不治の病に冒されているオットーは、全財産を現金に換え、ただ働きづめに働いて来たこれまでには手に出来なかった、新しい人生を求めて「グランドホテル」に宿泊しようとしていたのだ。だが、彼の貧しい身なりを見た支配人(輝月ゆうま)は、予約は取れていない、今日は満室だとオットーをホテルから追い出そうとし、確認を懇願するオットーとの間で押し問答が続いていた。その様子を見かねたフェリックスの口添えで、一転宿泊を許されたオットーは、初めて会った本物の貴族であるフェリックスに深く感謝する。
そこにまた、フリーのタイピスト、フリーダ・フラム(通称フラムシェン、早乙女わかば・海乃美月Wキャスト)がやってくる。ホテルに宿泊しているプライジング社長(華形ひかる)の「秘書募集」の求めに応募してきた彼女は、いつかハリウッドスターになる夢を持ち続けているものの、早急にまとまった額の金銭を必要とする事情を抱えていた。そんなフラムシェンをダンスの相手に誘ったフェリックスは、彼女をオットーに紹介しダンスの相手をしてやってくれと耳打ちする。初めてのダンスに夢中になるオットーだったが、フラムシェンを探しに現れたプライジング社長は、かつての部下であるオットーの名前すら覚えてはいなかった。
その一方運転手は、借金の返済の為にグルーシンスカヤが舞台に立っている間にネックレスを盗んでこいと、フェリックスを唆す。やむなくグルーシンスカヤの部屋に忍び込んだフェリックスは、マネージャー(光月るう)と興行主(綾月せり)の懇願を受けて舞台に立ったものの、アンコールの拍手さえ沸き起こらなかった空席だらけの客席にショックを受け、公演の途中でホテルの部屋に逃げ帰ってきたグルーシンスカヤと鉢合わせしてしまう。だが、この予期せぬアクシデントによる出会いが、フェリックスとグルーシンスカヤに、思いもかけなかった情熱の火を灯すことになり……

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1989年にトミー・チューンが、映画で有名だった『グランドホテル』をブロードウェイミュージカルとして上演した折には、「ミスター・ブロードウェイ」の手で鮮やかなミュージカルとして生まれ出た、作品に対する世界の評価は絶大なものだった。だからこそそんな伝説と数々の受賞歴を引っ提げて、宝塚版としてこの作品が1993年に本邦初演されたことにも、特別な輝きがあったのは間違いない。それは当時、宝塚随一のフェアリーとして礼賛されていたトップスター涼風真世が、自身の退団公演にも関わらず、重篤な病を抱えているしがない簿記係を演じるという、宝塚歌劇のセオリーからすれば、極めてイレギュラーなキャスティングを押し通すだけのパワーだった。実際に、美しい正方形が並ぶマス目の床に、金と赤の椅子が整然と置かれ、回転ドアを通って人々の人生がひと時ふれあい、またすれ違っていく、新たな様式美に満ちた舞台は、宝塚を観ているということ以上に、新しいブロードウェイミュージカルの風を感じさせてくれる興奮に満ちていた。

それからほぼ四半世紀。作品は様々な形で日本の舞台を彩ってきている。特に、現在イギリス気鋭の演出家として世界から注目を集めているトム・サザーランドが、新たな視点を持ち込んで、主要役のほとんどをWキャストとしただけでなく、それぞれ2チームの結末が異なるという、極めて刺激的な演出で展開された新たな『グランドホテル』が、我が国でわずか1年前に上演され、ミュージカル通の間で大きな話題と絶賛を集めていたことが、この宝塚版への見方を否応なく変えた面はあると思う。まず端的に言って、初演から経た年月がプラスに働いたのは、この作品で月組のトップスターとして正式な披露をする、しかも近年では異例と言える若い学年でのトップ就任となった珠城りょうが、男役としてのカッコよさを追求できるフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵を演じられたことだ。これはやはり、ブロードウェイミュージカルを宝塚作品に変換する為の、大きな功績と仕掛けになっていた。一方、ガイゲルン男爵を主役にする為と、宝塚歌劇の二本立て公演の上演時間の制限とによって、多くのキャラクターのエピソードがカットされたのが、やはり作品全体に少なからぬ影響を与えている。特に「時間が残り少ない」とすべての登場人物が口にする、その切迫感がどこにあるのかを示すものが薄くなっているのは惜しまれる点だ。この「時間が残り少ない」という感覚は、ポピュリズムに覆われようとしているのを感じざるを得ない、今現在の世界の空気に、これは決して幸福なことではないながらピッタリと合致するものなだけに、そのヒリヒリとした感触が遠のいたのはもったいなかった。

けれども、また視点を変えると、トミー・チューン版だけが持つ様式美、回転ドアと、マス目の床と、赤のビロード張りの金色の椅子という装置に、宝塚ならではの美が実に巧みに生かされていることもまた浮かび上がってくる。まず何よりも、椅子を動かし、決められたマス目の中で立ち、歌い、時に踊り続ける出演者たちの、統一された集団の美しさが比類ない。これだけの大人数を、ホテルの従業員や客といった、名前のない役どころ、所謂アンサンブルに使える劇団は、宝塚を置いて他にはない。しかも、その大人数が必要に応じて個性を際立たせ、また一瞬にして個の魅力を消し、集団としてのユニゾンに徹する様は見惚れるばかりだ。そこには確かに、宝塚にしか成し得ない世界観を持った『グランドホテル』が広がっていて、改めて多くの人の人生が1つのホテルを通り過ぎていく、という作品の骨子を支えていた。

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そんな中で、フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵に扮した、珠城りょうの美丈夫ぶりは注目に値する。最初に新人公演で抜擢された入団2年目という段階から、どっしりと落ち着いた魅力を放っていた珠城は、これまでの道のりでも実年齢にあった若い青年役よりもむしろ、もう少し大人の役に輝きを見せる人として深い印象を残してきた。それが今回の男爵役に無理を感じさせない力になっている。特に、珠城が非常に誠実な、好人物を演じられる魅力に長けていることがはっきり表れたのは、ここからトップスターとして歩み出す珠城の指針を極めて明確に示したと思う。この人には、王道のスターの香りと存在感が確かに備わっている。それだけに必要に迫られて盗みにまで手を出していても、ジゴロにはなれない貴族の強いプライドを持つ男爵の屈折した面よりも、根は鷹揚で、良い家柄の生まれの高貴な男という面が、鮮明に前に出る形になった。その為例えば、宝塚版初演の男爵役久世星佳の表現を好むところなどからは、或いは違和感を生じさせるかも知れない。だが、今回取り入れられた男爵の大ナンバー「Roses At The Station」で回想される、野原を駆けまわっていた少年の日々、そのまぶしく清らかな少年時代をこの男爵が確かに持っていた人物であることが、納得できる男爵像は、珠城時代のはじまりにとって決して悪いものではなかった。クラシックな正統派スターの誕生を、改めて喜びたい。

その珠城の相手役を引き続いて務めることになったトップ娘役の愛希れいかの出来栄えが、全体からも頭1つ抜けていて、強烈に目を引かれる。全盛期を遠く過ぎたプリマバレリーナというには、当然ながらいささか若いが、それを適度な貫録と大物感で補い、世界に名を成した人だけが持つエキセントリックさを巧みに表現していて、突然現れた男爵との恋に少女の心を取り戻していく過程が一層鮮やかだ。もともと抜群のダンス力を誇る人でもあって、バレリーナならではの日常にも現れる足の運び、立ち姿などにリアリティーがあり、恋に落ち踊る情熱を取り戻したグルーシンスカヤのナンバー「Bonjour,Amour」の喜びの爆発の表現には、涙さえ誘われる。愛と死が手を結んだことを表す「Death/Bolero」の珠城との高度なリフトを含んだダンスナンバーも素晴らしく、珠城&愛希コンビのデュエットダンスが、月組の新たな呼び物になるだろう予感も十分。男爵を主役に据えたことで、どう描くかに注目していたラストシーンも、回転扉から出て行く愛希のグルーシンスカヤと、入ってくる珠城の男爵、純白の衣装の2人が回転扉の中で瞳を交わす演出が、作品中の白眉と言ってもよい鮮やかな余韻を残していて、秀逸だった。トップ披露作品でトップスターが銀橋に出ないというのは確かに異例だが、レビューが後に控えていることも考えると、ここで幕を切る選択も十分可能ではなかったかと思う。それほど美しいシーンを、新コンビ2人が創り出していて、今後への期待が高まった。

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宝塚版初演でも、外部公演でも芯となる人物、オットー・クリンゲラインに扮した美弥るりかは、華やかな容姿を眼鏡の奥に潜め、命の残り火を見つめている人物の悲哀と、虚無感と、だからこそ燃え盛る生への執着を静かに、だが見事に表現している。初演でこの役を演じた涼風真世の大ファンだったという美弥が、今月組で新トップの珠城を支える立場で同じ役を演じるという、何かのはからいかのような機会を確実に捉え、着実な実績を残したことは、美弥るりかというスターにとっても大きなエポックになることだろう。男爵とチャールストンを踊り興じる姿の我を忘れた没頭ぶりも、死の恐怖を抱えた人のギリギリの行動に見えて、病だけでなく時代がユダヤ人のオットーにそれを許さないことを承知で、平穏な未来が彼に訪れることを祈らずにはいられない、「オットー・クリンゲライン閣下にお車を!」の終幕のエリックの台詞が、胸にしみる演じぶりだった。

そのホテルのフロント係エリックと、グルーシンスカヤの付き人を交互に演じたのが、朝美絢と暁千星。暁のエリックには、この作品中「時間は残り少ない」ことが希望につながっている、唯一の人物に相応しい明るさがあり、子供の誕生を喜ぶ歌声も実に伸びやか。観る度に歌が上手くなっていて伸び盛りの勢いを感じさせる。一方の朝美は、感情を押し殺したホテルマンになろうと努めながらも、根の優しさが邪魔をするギャップを丁寧に表現した役作り。その丁寧さが、更にラファエラの造形にも生きていて、グルーシンスカヤへの複雑な愛情に、ほの昏いものもにじませた好演だった。暁がグルーシンスカヤへの純粋な憧れと敬愛で、ひたすらに彼女の楯となろうとするラファエラだったのと併せて、各役、両者の個性の違いが面白かった。

もう1人、ハリウッドスターを夢見るフラムシェンもWキャストで、早乙女わかばと海乃美月。『1789〜バスティーユの恋人たち』でも、主人公ロナンの恋人役であるオランプをWキャストで演じていて、月組の重要な娘役としての地位を確立している2人だ。華やかな存在感で早乙女が、安定した歌唱力で海乃がそれぞれ際立ち、これもまた見比べる楽しさのあるWキャスト。プライジング社長から提示される、謂わば愛人契約をビジネスと割り切れると信じて引き受けてしまうことが、悲劇を呼ぶ役どころだけに、そういう行動に出ざるを得なかったフラムシェンの切迫感を、もう少し強く出しても良い気もするが、2人共に比較的余裕を強調した演技なので、そういう演出意図なのだろう。宝塚の娘役としては難しい役柄に、果敢に挑んでいた。

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そのプライジング社長は、専科から特出の華形ひかる。専科に転出以来、所謂外箱公演で数多くのヒットを飛ばしてきていたが、本公演には久しぶりの登板。基本的に彼女はスターだし、更に明るさと朗らかさを有した魅力的な人だけに、もちろん健闘しているが、柄違いの香りは拭えなかった。特にプライジングがどれだけ追い詰められ、破滅的な心境に陥っているかを表すエピソードがごっそりカットされているので、ともするとただの好色な男性に見えかねないのは、あまりにも気の毒だ。折角の人材、是非配慮を持った起用を願いたい。
こうした全体のシーンの取捨選択によって、割りを食った役柄がある一方で、男爵が主役になったことで俄然大きな役柄として際立ってきたのが、男爵に借金返済を迫る運転手役の宇月颯。物語が男爵を軸に動くだけに、その男爵を追い詰め、次の行動、その次の行動へと促していく運転手役は、宇月の色気たっぷりの、妖しさもにじませた凄味の表出と相まって、作品の展開を握っている存在ともなっていたのが嬉しい発見だった。起用に応えた宇月の快演と共に、群像劇のどこにフォーカスを置くかによって、作品の見え方がかくも変わることを証明した役柄として印象深い。
そんな作品のストーリーテラーとして、グランドホテルのすべてを見つめ続けているドクターに扮した専科の夏美ようが、決して出過ぎず、けれど気配を消し過ぎもせず、常に全体を俯瞰して舞台に位置する按配が絶妙。作品の重石として得難い存在感を示していた。

他に「グランドホテル」で踊り続ける盲目の伯爵夫人・憧花ゆりのと、ジゴロ・紫門ゆりやが、初演ほどには効果的に見えなかったのは、演者ではなく演出の問題ではないかと思われるのが惜しまれる点だったが、前述したようにコールドの美しさが特に印象的で、新生月組の総力を結集したテクニカルでありつつ、様式的な舞台となっている。
 
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そんな作品の後に、美しい回転木馬のシルエットからスタートするのが、日本初のレビュー「モンパリ」誕生90周年を記念したレビュー『カルーセル輪舞曲』で稲葉太地の作。90年前に、パリから学び宝塚に蒔かれた「レビュー」の種が、今、こんなにも大きな花を咲かせました、と、高らかに歌い上げたレビュー讃歌が晴れやかだ。
特に、ひと昔、ふた昔前までの宝塚で当たり前だった花の都パリへの徹頭徹尾の賛美が、あくまでも敬意は持ちながら品良く後退して、宝塚レビューを誇らかに提示してくるのは、やはり現代のレビュー作家である稲葉ならではの感性の賜物だろう。何より王道のお国巡りレビューが、パリからはじまり、世界各地を周り、宝塚に帰ってくる、宝塚伝統の黒燕尾のダンスが「モンパリ」の音楽で展開される見事さ、この誇り高き宝塚讃歌には、胸を熱くさせるものがある。

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しかも素晴らしいのは、この作品がレビュー誕生90周年を寿ぐだけでなく、新トップスター珠城りょうのお披露目をも、華やかに提示していることで、どこへたどり着くのかはわからないが、旅のはじまりに胸は震える、と珠城が晴れやかに歌う時、月組の新たな未来への夢が大きく膨らんでいくのを感じた。特に、珠城に添うだけでなく1人で立派に場面を持つことができる愛希の、まるでバービー人形のようなプロポーションとダンス力、ファンタジックなシーンにピッタリの美弥るりかの、華やかな容姿とスター性の上に、正統派二枚目であるトップスターの珠城が揃った陣容は、ラストランがはじまっている雪組のトップ、トップ娘役、二番手男役の「トリデンテ」と称される強力さを思い起こさせるものがあり、新たなトリデンテ伝説が新生月組ではじまる予感を覚えた。

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他にも、雪組への組替えを控えて重要なポジションを立派に務めた朝美絢、「モンパリ」へのオマージュである汽車のラインダンスを堂々と担った暁千星の巧みな使い方をはじめ、月組スターたちへの目配りが隅々にまで行き届いていて、目に耳に楽しい。ニューヨークでは朝美と共に紫門ゆりやが愛希と踊り、組長憧花ゆりの以下、多くの娘役たちが大活躍。千海華蘭と晴音アキの歌唱力も生かされている。『ノバ・ボサ・ノバ』へのオマージュを感じさせるブラジルでは、響れおな、貴澄隼人、輝月ゆうまが銀橋に出る。輝月には更にシルクロードで白雪さち花と共に抜群の歌声を披露するカゲソロがあるし、果てしない未来を目指すインド洋では、1人では越えられない荒波を、あなたの翼になり手を取りあって越えて行こう!と新生月組を高らかに宣言する「飛翔」と名付けられた佳曲を、宇月颯が見事な美声で歌い上げた。優れたダンサーとしてはかねてから定評のあったこの人が、実は優れた歌手でもあることは、これまであまり知られていず、宝の持ち腐れをもったいなく思っていたものだが、それがあたかもこの日の為の温存だったのかと思わせたほどの、秘密兵器ぶりが鮮やかだ。そしてもちろん貴千碧、咲希あかね、煌海ルイセ、美里夢乃の退団者たちへの餞があり、水先案内人として全体を引っ張る華形ひかるは、セリ上がりあり、銀橋渡りありの八面六臂の活躍で本領を発揮していて、華形ならではの魅力がショーで全開になったことに安堵した。だからと言って月組生の活躍も負けず劣らず顕著で、エトワールの麗泉里まで、見どころ満載。珠城率いる月組の、輝く未来に期待の高まる輝かしいレビューとなっている。

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また、初日を前に、囲み取材も行われ、新トップコンビ珠城りょうと愛希れいかが、新たな月組の旅立ちとなる公演への抱負を語った。

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その中で、新コンビとしての互いの魅力を問われた珠城が、トップ娘役としてのキャリアを重ねた今、大人っぽいものから可愛らしいものまで幅広く演じられるのが、愛希の魅力だと語ると、愛希は、珠城とは1学年違いという関係性から、密な立ち位置で見続けてきたが、舞台に対するまっすぐさがずっと変わらないと、珠城を語り、黒燕尾の似合う男役さんらしい男役としての、珠城の魅力を改めて真摯に伝えて、早くも互いのコンビネーションは上々の様子。

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更に、どんなトップスターになりたいか?を問われた珠城から、これまで自分が見続けてきたトップさんのいずれもが、組の中で太陽のような存在だったので、自身も組の皆を照らすような存在でありたい、という決意が語られ、新生月組の新たな船出の順風満帆な航海が予感される時間となっていた。

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尚、囲み取材の詳細は5月9日発売の、えんぶ6月号に舞台写真の別カットと共に掲載致します。どうぞお楽しみに!


〈公演情報〉
宝塚歌劇月組公演 
ザ・ミュージカル『グランドホテル』
脚本◇ルーサー・ディヴィス
作曲・作詞◇ロバート・ライト、ジョージ・フォレスト
追加作曲◇モーリー・イェストン
オリジナル演出・振付・特別監修◇トミー・チューン
演出◇岡田敬二
演出◇生田大和
翻訳◇小田島雄志
訳詞◇岩谷時子 
モンパリ誕生90周年 レヴュー・ロマン『カルーセル輪舞曲』
作・演出◇稲葉太地  
出演◇珠城りょう、愛希れいか ほか月組
●2017/2/21日〜3/26日◎東京宝塚劇場 
〈料金〉SS席12,000円 S席8,800円  A席5,500円 B席3,500円 
〈問い合わせ〉東京宝塚劇場 03-5251-2001




【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】




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宝塚歌劇が特撮ヒーローものに挑んだ芹香斗亜東京初主演作品!宝塚花組公演『MY HERO』

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宝塚花組の二番手男役スターとして活躍している芹香斗亜の、待望の東京初主演作品である、宝塚花組公演アクションステージ『MY HERO』が、TBS赤坂ACTシアターで上演中だ(23日まで。のち、大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティで4月2日〜10日まで上演)。

ウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊ものなど、数多くの名作を生んでいる「特撮ヒーローもの」と呼ばれるジャンルは、子供たちばかりでなく、大人にも根強いファンを持つ日本の一大ムーブメントの1つだ。今回、作・演出の齋藤吉正は、そんな世界に着目。敢えてかなり劇画チックに舵を切ることで、宝塚の世界観と特撮ヒーローの融合を図った異色作となっている。

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【STORY】
かつて全米中の子供たちを虜にした伝説のヒーローMASK☆Jを、再び映画として蘇らせる『MASK☆J The Movie』の制作発表会見が、華やかに行われていた。主人公MASK☆Jを演じるのは、人気絶頂のイケメン俳優ノア・テイラー(芹香斗亜)だ。子供たちの夢を叶えるヒーローを演じることに意欲満々な挨拶を続けるノアだったが、実は子供が大嫌いな彼は、この仕事に対して真摯な気持ちなど持ち合わせていなかった。
というのも、ノアの父親ハル・テイラー(綺城ひか理)は、かつてMASK☆Jのスーツアクター(マスクをつけて変身後のヒーローを演じる、顔の出ないアクション俳優)として、伝説のスタントマンと呼ばれた存在だったが、撮影中の事故で死亡。幼くして父親を失ったノアは、世の中に顔も出せず、危険なアクションシーンだけを演じてきた父に対する屈折した思いから、スーツアクターを軽蔑し、必ず顔の出るスター俳優になろうと決意し、今日の地位を得ていたのだ。その為、自身のスーツアクターを務めているテリー・ベネット(鳳月杏)に対しても、ねぎらいの言葉ひとつかけるでなく、高慢な態度を取り続けていて、私生活にも大きな乱れが生じていた。
だが、そんなノアのスターを鼻にかけた享楽的な生活は、スポンサーがらみの致命的なスキャンダルで一変する。『MASK☆J The Movie』の主演は降板。これまで何かとノアをかばってきた事務所からも縁を切られ、たちまちにしてスターの座を転げ落ちるノア。『MASK☆J The Movie』があれだけ馬鹿にしていたテリーを主演に改めてクランクインするという話も、ノアはただ歯噛みして聞くしかなかった。
しかも、ひょんなことから知り合った元テニスプレイヤ—であり元グラビアアイドルのポジティブな女性クロエ・スペンサー(朝月希和)が、マネージャーとして懸命に取ってきた仕事は、なんと遊園地のヒーローショーのスーツアクターだった。どんなに落ちぶれてもスーツアクターにだけはなりたくない、父親の二の舞はご免だ!と抵抗するあまり、ノアは段取りをロクに覚えないままにマスクをつけてショーに出演し、ショーをめちゃくちゃにしてしまう。
そんなノアに「あなたは私の夢を壊した!」と泣きながら訴えたのは、福祉学を学ぶ学生マイラ・パーカー(音くり寿)だった。彼女の言葉から、伝説のヒーローMASK☆Jに本気で夢を見る人たちがいることを悟ったノアは、真剣にマスクをつけ、ヒーローを演じるようになる。そこには自分を本物のヒーローだと思い、声援を送ってくれる子供たちがいた。マスクの中から父親が見ていた景色、自分が知らなかった世界に、次第に気づかされていくノア。けれども、マイラがボランティアを務めるシルバーホーム「ネバーネバーランド」に持ちあがった新興企業「スマイルカンパニー」による買収話が、意外やノアがスターの座を追われたきっかけとなった、スキャンダルの暴露と関連していることがわかりはじめ……

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おそらく子供の頃に、鮮やかに変身し、悪の秘密結社や、怪獣たちをカッコよく倒すヒーローたちに憧れた…という記憶を持つ人は、かなり多いのではないだろうか。それだけでなく「仮面ライダー」に代表される長い歴史を誇って来た特撮ヒーローものは、子供と一緒に画面を食い入るように見つめている母親たちの熱狂的な支持を集めて、数多くのスター俳優を生み出し続けている。けれども一方で、変身後のヒーロー、マスクの下で本人の顔を知られることなく、颯爽とヒーローを演じるスーツアクターの存在が、脚光を浴びることは極めて稀だ。
そんな世界にスポットを当てた齋藤吉正のアイディアは、なかなかに卓越したものだったと思う。特に、広く顔を知られることこそが大切で、常に美しく在ることが正義の宝塚スターと、決して顔を知られてはいけないスーツアクターを結び付けた発想は、誰しもができるものではなく、作家の意欲的な挑戦として評価できる。齋藤得意の映像でスタートする展開も、アメリカンコミックから飛び出したような快調なテンポ感を生んでいて、好感が持てた。
 
ただ一方で、様々なアイディアを詰め込み過ぎたきらいがあるのもまた事実で、中でも謎の新興企業として登場する「スマイルカンパニー」の件が、作品の非現実度をいたずらに高めてしまっているのがどうにももったいない。世界征服の計画がご近所の小狭い買収話からはじまるのは、特撮ヒーローもののある種のお約束でもあって、おそらくはそこに作家のオマージュがあるのではないか?と推察されるが、ノアと亡き父親の関係、ノアと父親の再婚相手である継母との関係、実は病を抱えていたテリーとノアの立場の逆転、更にダブル・ヒロインであるマイラとクロエとの出会いからの様々なエピソードなど、人と人との関わりを丁寧に描いただけで、十分感動作になり得る美しいテーマが作品の中にはあふれている。そこに真っ直ぐに向かう方法も、或いはあったのではないだろうか。特に専科勢を大量投入したという訳ではない若手主体の公演で、シルバーホームの老人たちが、かなりの時間を割いて登場するのは、懸命に演じているスターたちにもやや酷な気がした。

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だが、そうしたあれこれをどうでも良いか、という気にさせるのが、主演の芹香斗亜の、これぞヒーロー!と快哉を叫びたい文句なしのカッコよさだ。驕慢なスターとして登場する冒頭から、そのスターの座を追われ、自虐的な仕事にも取り組まなければならなくなる作中のノアの描写は、決して徹頭徹尾カッコよいものではない。にも関わらず、とにかく芹香はどんな時も、どんな場面でも、自分で自分を「カッコ悪いな」と吐露する時でさえも、抜群のプロポーションと男役度の高さで魅了してくれる。しかもこの人の舞台には鷹揚さと、温かな優しさがあるから、どんな場面も品が落ちない。そんな芹香演じるノアが人間として成長していく、転落からのサクセスストーリーに心躍らないはずがない。もちろんマスクをつけたヒーローとしてのアクションも見事に決まり、爽快な東京主演デビューとなった。バウホール公演での初主演から、今回の東京・大阪での二度目の主演公演まで、スケジュールの巡り合わせで時を要したが、その蓄積があってこその芹香の現在であることを思うと、スターとしての逞しさを感じる。

そんな芹香のノアの影武者的立場から、一転スター街道を昇り始めるテリーを演じた鳳月杏も、花組への加入以来、驚くばかりのスピードで階段を駆け上がっている、本人と役柄がリンクした面白さがあった。特に1幕で多く張られていた役柄の伏線がミステリアスで、何かを秘めている風情が鳳月の個性をよく活かしていたので、ここを脚本が更に効果的に回収してくれれば、より大きな役どころになった可能性もあったと思う。是非そうなって欲しいと思わせるのも、鳳月の魅力あってのことだから、重用の理由もわかろうというもの。芹香と2人でマスクのヒーローを演じるシーンは、互いのプロポーションの良さが引き立て合って素晴らしかった。

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「この物語のヒロインである」という華々しいナレーションと共に登場するマイラの音くり寿は、少女時代にノアの父親と重要な関わりを持っていた役どころ。この「少女時代」というのが、目下音の魅力が最も引き立つところでもあって、彼女の個性を脚本が良く活かしている。過去のトラウマから車椅子生活になっているという設定なので、主なシーンで車椅子に乗ったままの演技になったが、よく動く表情と美しい声で難題に果敢に挑んでいた。一方、元全米901位のプロテニスプレイヤーなる、どう考えても誇れる経歴ではない出自を、あっけらかんと自慢するアメリカン・ガール、クロエに扮した朝月希和は、これまでしっとりとした演技に成果をあげてきていた姿から一転、あくまでもポジティブな女性像が、実に魅力的だったのが大きな収穫だった。基本的に泣き顔の人だと思っていたが、こういうポップな役柄もいけるとなると、役幅がグッと広がるから、このチャンスをきっかけに更に伸びていって欲しい。クロエが元テニスプレイヤーだったことが終幕につながるので、これは是非設定をお忘れなきよう、と言ったところ。
 
ノアの父親ハル・テイラーの綺城ひか理が出番としては多くないながら、非常に重要な登場をしていて、目下大売り出し中の勢いを感じさせる。そのハルの再婚相手のメイベルに芽吹幸奈が扮して、しとやかに添えるのが花組娘役の伝統ならでは。前述の「スマイルカンパニー」は天真みちる、乙羽映見、矢吹世奈が思いっきりカリカチュアして演じていて、役者陣の奮闘には惜しみない喝采を。他に梅咲衣舞、和海しょう、華雅りりか、茉玲さや那、等がそれぞれの持ち場で奮闘していて、盛りだくさんな作品を支えていたし、冴月瑠那以下シルバーホームの老人たちの、タカラジェンヌはかくも健気で真摯な演技者であると示した姿勢に敬意を表したい。総じて出演者全員で、芹香斗亜の東京初主演作品を盛り立てた姿は清々しく、手島恭子のこれぞ特撮ヒーローもの!のワクワク感あふれる音楽と共に、宝塚の美徳を感じさせる公演になっている。

〈公演情報〉
宝塚花組公演
アクションステージ『MY HERO』
作・演出◇齋藤吉正
出演◇芹香斗亜 ほか花組
●3/16〜23◎TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席 7.800円 A席 5.000円
〈お問い合わせ〉阪急電鉄歌劇事業部 03-5251-2071(10時〜18時・月曜定休)
●4/2〜10◎梅田芸術劇場シアタードラマシティ
〈料金〉S席 7.800円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場シアタードラマシティ 06-6377-3888(10時〜17時半)
公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/


【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】


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