えんぶ本誌の宝塚記事取材の機動力を生かして、宝塚歌劇の製作発表、会見などをいち早く紹介。 宝塚OGの公演やインタビューのほかに公演の批評なども展開しています。

ミュージカルセーラームーンシリーズ最終章!お得なチケット販売中。

万感の想いを胸に、早霧せいな宝塚に別れ!ラストデーレポート

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2017年7月23日、宝塚歌劇団雪組トップスター早霧せいなが、相手役の咲妃みゆ、鳳翔大、香綾しずる、桃花ひな、星乃あんり、蒼井美樹の同時退団者と共に宝塚に別れを告げた。

2001年『ベルサイユのばら2001─フェルゼンとマリー・アントワネット編』で初舞台を踏んだ早霧は、新人公演主演を果たした『NEVER SAY GOODBYE』『維新回天・龍馬伝!』、バウ・ワークショップ初主演の『殉情』等をはじめとした数々の作品を経験した宙組時代を経て、09年雪組に組替え。『ニジンスキー』では、天才バレエダンサーヴァーツラフ・ニジンスキー、『双曲線上のカルテ』では不治の病を背負った医師フェルナンド=デ・ロッシを、早霧ならではのクールビューティな男役ぶりで活写した、優れた主演作を残しながら、音月桂、壮一帆と二代のトップスターを二番手男役の立場で支え、14年満を持して雪組トップスターに就任。相手役となった咲妃みゆとの、まるで絵に描いたような美しいコンビぶりと、熱血漢な男気にあふれたパッショネイトな個性で、雪組を牽引してきた。
特に『伯爵令嬢』『ルパン三世』『るろうに剣心』『ローマの休日』と、不動の人気を誇る劇画、アニメ、また世界的名画の世界を宝塚ミュージカルとして上演した数々の作品で、原作ファンにも宝塚ファンにも好評を博す見事な舞台を披露して、宝塚の枠を広げる大きな功績を残してきた。中でも相手役の咲妃みゆとの、互いが互いをリスペクトし、常に高めあいながら同じところを見つめ、手に手を取って走り続けるコンビとしての美しさと、巧まずして現れる厚い信頼感は、二人が共にいてくれるだけで舞台に幸福感を立ち昇らせ、「平成のゴールデンコンビ」と称えられるものとなっていった。
一方、歌唱力抜群の二番手男役スター望海風斗を含めた三人の関係もまた、「宝塚が誇るトリデンテ」とも呼ばれ『星逢一夜』『私立探偵ケイレブ・ハント』など、宝塚オリジナル作品、『Greatest HITS!』『La Esmeralda』などのショー作品も絶好調。退団作品となった『幕末太陽傳』『Dramatict“S”』まで、早霧時代のすべての本公演チケットが東西でソールドアウトするという、宝塚103年の歴史始まって以来の快挙を成し遂げるに至る、雪組の新たな伝説を作り上げた。

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そんな早霧の男役最後の日を飾るサヨナラショーは、大階段に真紅の衣装の早霧が現れるところから開幕。赤の衣装がストレートに想起させる『ルパン三世』から「ルパン三世のテーマ」を洒脱に歌う。早霧のスレンダーな体躯が、アニメのルパンの細身と見事に合致したトップ披露公演が目に浮かび、話題になったルパンステップをこの日も軽やかに決めてくれた。そこから、同作品の「My Dear Queen's Diamond」を皮切りに『星影の人』の「生きるときめき」、『星逢一夜』の同名曲、『哀しみのコルドバ』の「コルドバの光と影」、『るろうに剣心』の「不殺の誓い」「微笑みを交わして」と、雪組トップスターとして演じた様々な作品と役柄のナンバーがメドレーで歌われていく。曲調が変わるごとに、後ろを向いて振り返った早霧が、一瞬にして沖田総司から天野晴興に、更にエリオ・サルバドールにと、表情から纏う雰囲気までを変えていく様に圧倒される。
 
メドレーの最後は咲妃との名コンビのはじまりでもあった『伯爵令嬢』の「ジュ・テーム、愛さずにはいられない」。ストレートロングの黒髪の早霧演じるアランが、咲妃演じる金髪のコリンヌに所謂「壁ドン」をした瞬間の、宝塚ならではの胸キュン感が蘇るようだった。そのまま早霧と入れ替わって上手花道に、そのコリンヌを演じる咲妃が登場。懐かしい台詞も交えながら「翼、広げて」が、可憐なソロで歌われる。この展開の流れも絶妙で、まるで砂糖菓子のように愛らしい一対の出発点が見事に蘇らせていた。

続いて、大階段に早霧を中心とした白に雪組カラーの緑をぼかした衣装の男役たちが登場し『La Esmeralda』から「Mambo No5」が印象的な掛け声と共にダイナミックに踊られる。早霧のクール・ビューティな外見の中にある、誰よりもパッショネイトな熱い魂が、この男役たちとのナンバーにさく裂するようだ。そこから曲調が滑らかに流れ、早霧と咲妃による『Greatest HITS!』の名場面中の名場面「Over the Rainbow」に乗せたデュエットダンスが繰り広げられる。すべての戦いを終わらせる術はただ愛のみである、と訴えたこのデュエットダンスは、数多ある早霧と咲妃による忘れ難い名シーンの中でも、最高のものと言っても過言ではない愛と幸福感にあふれたものだっただけに、ここでの再現は別れを惜しむ観客への、二人からの何よりのプレゼントにも感じられた。改めて観ても、涙なくしては見られない美しいシーンだった。

デュエットダンスの余韻が残る中、望海風斗を中心に、この公演で退団する鳳翔大、香綾しずる、桃花ひな、星乃あんり、蒼井美樹が『La Esmeralda』から「愛のエスメラルダ」を賑やかに歌う。いつでもどんなタイミングでも、退団する生徒を見送る時に、惜別の想いがわかないことなどないが、ここにいる5名は雪組の中で特に大きな光を放ってきた個性的な面々だけに、明るい曲の調べの中に尚、寂しさが募った。
そんな曲が終わると、鮮やかなコバルトブルーの衣装に身を包んだ早霧と咲妃が登場。『ルパン三世』の「自由(リベルテ)」『私立探偵 ケイレブ・ハント』の「シティラプソディ・デュエット」『ローマの休日』の「本当の二人、本当の物語」がメドレーで歌い継がれていく。トップコンビが同時退団するサヨナラショーは、これまでも数々行われてきているが、コンビのデュエット曲にここまで多くの時間が割かれたのはあまり記憶がなく、やはり早霧と咲妃が特別のコンビだったことが、愛おしい思い出と共に刻みこまれた。

ここからサヨナラショーはいよいよクライマックスに。1人残った早霧がやはり『ローマの休日』から「約束の場所」を切々と歌う。早霧の演じたジョーと咲妃の演じたアン王女の永遠の別れと、生涯消えない奇跡の出会いの思い出を描いたこの曲には、わかりすぎるほどわかっている『ローマの休日』のラストで、こんなに泣かされるとは思わなかったというほど泣かされたものだったが、このハートフルな歌詞はまさに今の早霧と彼女を愛した観客たちに通じるもの。客席を埋めた緑の星型のペンライトが放つ、美しい光の海までが涙に揺れるようだった。
そして最後は、出演者全員が居並ぶ舞台に早霧が合流して『Greatest HITS!』の同名曲が歌われる。「いつか音楽が、すべての国境も、民族の違いをも超えて人々を1つに結ぶ、そんな夢を信じている」と、本当に夢のような、だからこそ決して忘れてはいけない尊い想いをテーマとしたこのショーの主題歌は、早霧率いる雪組がつないだ絆を体現する素晴らしい楽曲で、早霧が創り上げた雪組の輪が、舞台上にキラキラと輝いて写った。ここに集った、全国で中継を見つめた、更にそれぞれの務めの中で、今日この時を惜しんでいたすべての人の想いを代弁する電飾の文字「See you Again Sagiri!」に彩られ、サヨナラショーの幕は下りた。涙なくしては見られない、素晴らしい時間だった。

興奮冷めやらぬ舞台に、雪組組長梨花ますみが登場し、この日退団するメンバーの略歴や、コメントを述べ、緞帳に懐かしい映像が映し出されていく。そして再び緞帳が上がると、そこは最後のセレモニーの場。蒼井美樹を先頭に、宝塚の正装である黒紋付と緑の袴姿の退団者たちが、1人ずつ最後の大階段を下りてくる。挨拶はそれぞれに出会った人への感謝や、宝塚への愛が語られる真摯なもので、宝塚人生に悔いなしと清々しく語ってくれる姿に、こちらの寂しさがわずかに癒される想いがした。
そして、6人目に咲妃が登場。常にどこかのんびりした口調が印象に残る話し方とはまた違った1本芯の通った話ぶりで、相手役の早霧への感謝も込めた挨拶をする姿に、宝塚トップ娘役としての咲妃の集大成を感じさせた。
いよいよ、最後の時間となり、雪組生全員からの「ちぎさん!」という呼びかけに、「はい!」と答えて現れた早霧も、やはり同じ紋付袴姿。このセレモニーでは男役トップスターは黒燕尾服などを選択するケースも多いが、日本物を数多く手掛けてきた早霧の袴姿は実に清新で、早霧せいなという男役トップスターが最後に大階段を下りるのに、やはり最も相応しい装いに感じられた。惜別の言葉を述べる早霧の表情には万感こもるものがあり、彼女が創った雪組の時代の残像が煌めいていて、名残りを惜しむ観客からの、鳴りやまぬ拍手に応えるカーテンコールが長く続いた。

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その後、退団記者会見に臨んだ早霧は「宝塚の舞台を無事に終えて卒業することが出来ました。本当にありがとうございました。お忙しい中お集まり頂き光栄です。よろしくお願い致します」と挨拶。記者の質問に応えて、宝塚の男役としての最後の日の、想いを語った。

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その中で、「動員記録を打ち立てた要因は?」との問いに、「宝塚には5つの組があり、そこに70人〜80人の生徒がいる。その1人1人が輝けば輝くほど、宝塚を観たいと思ってくださるお客様が増える。だから全員が輝くことを常に考えてきたので、そのあたりではないか」と、決して新記録樹立が自分だけの功績ではなく、組子あってのものだと語り、また相手役の咲妃についての問いには「どんな時にも傍にいてくれた。彼女なくして今の自分はない」と言い切るなど、常に周りへの感謝を忘れない受け答えに、男役スターとしてだけでなく、早霧の人間性の素晴らしさが現れて深い感銘を与えた。 

特に、サヨナラショーの構成について「雪組の主演男役として立たせて頂いた作品からという思いと、私のサヨナラショーであるのと同時に、一緒にトップコンビとなって、共に卒業する咲妃と、共に創るサヨナラショーでもあると思ったので、二人のデュエット曲などに於いては彼女の希望も多いに入っています」と語る姿に、サヨナラショーの構成の真意を見る思いがして、改めて、男役としての大きさと男気を感じさせていた。

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それでも「男役最後の日に、ウルっとしたことがありましたか?」との問いに「毎日続けてきた何気ない挨拶も今日が最後なのかと思うと…」と言葉にした刹那、その情景が蘇ったのか涙を浮かべるシーンも。早霧が如何に深く、濃く、宝塚の男役を愛してきたかが、会場全体に伝わる記者会見となっていた。

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この日、近隣施設等の工事の為に、通行が制限されていた東京宝塚劇場前も、無事サヨナラパレードが行える場所が確保され、蒸し暑い7月の、更に小雨もパラつく時間もあった劇場前には、約8.000人の別れを惜しむ人々が集い、その熱気で更にあたりはむせ返るよう。その中を、1人、また1人と退団者たちが多くの拍手に迎えられ、劇場前を歩み去っていく。愛らしいピンクを基調とした花を持った咲妃が、その花に負けないとびっきりの愛らしい笑顔で場を後にすると、劇場前の空気が最高潮になる中早霧が登場。ファン1人1人の声と瞳を受け留めるようにゆっくりと歩み、多くの記者の求めに応じて笑顔を見せたのちに、早霧の雪組のトレードマークとなった「絆!絆!」の声に送られ、早霧せいなは「私の全てでした」と語った宝塚から、飛び立っていった。想いと想いがあふれる惜別の1日が終わりを告げた。

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そんな深い思い出の中に浸る暇もなく、新雪組トップコンビ望海風斗と真彩希帆を中心とした新たな雪組が始動し、この日宝塚を去っていった咲妃みゆ、鳳翔大、香綾しずるの、新しいステージの情報も早くも聞こえてきている。宝塚はこうして、100年を超える歴史を紡いできたのだ。きっと、今後について問われて「それは軍の機密事項です」と茶目っ気たっぷりに語って名言を避けた早霧の次の歩みも、遠からず発表されるであろうと期待している(と同時に、ゆっくりする時間も持って、たくさん美味しいものを食べて欲しいとも願ってやまない)。決してこの1日が別れだけの日ではなく、新しい出会いの日なのだとも信じている。けれどもそれとは全く別次元で、早霧せいなと咲妃みゆという「平成のゴールデンコンビ」が宝塚に残した数々の美しい軌跡を忘れることはないだろう。100年の歴史に燦然と刻まれた、愛すべきコンビに改めて大きな拍手を贈りたい。
 
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尚、早霧せいな退団記者会見の詳報は、9月9日発売の「えんぶ」10月号に掲載致します!どうぞお楽しみに!

※舞台写真は後日、追加掲載します。
  
蒼井美樹サヨナラパレード
蒼井美樹(撮影:住川絵理)
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星乃あんり
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桃花ひな
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香綾しずる
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鳳翔大
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咲妃みゆ
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早霧せいな


【取材・文・撮影/橘涼香 舞台写真提供/宝塚歌劇団】



妃海風コンサート2017






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大竹しのぶが38年ぶりに「にんじん」を演じる!ミュージカル『にんじん』公開ゲネプロ&囲みインタビュー

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ジュール・ルナールの傑作小説をミュージカル化した舞台『にんじん』が、38年ぶりに帰ってきた。
日本で世界初のミュージカル化として、1979年の夏、上演された『にんじん』。初演で「にんじん」役を務めたのは当時22歳の大竹しのぶ。今年還暦を迎えた大竹が、38年ぶりに再び「にんじん」役で、8月1日から始まった新橋演舞場の舞台を務めている(27日まで。大阪は9月1日から10日まで)。
 
脚本・作詞は、数々の大ヒット曲を生み出し、先日惜しくも亡くなった山川啓介。音楽は大人にも子供にも愛される曲作りに命をかけた山本直純。演出は、今年春の『フェードル』でも大竹と組んだ栗山民也が手がけている。
共演者には『ドリアン・グレイの肖像』の主演を始め、ソロコンサートも数多くこなし抜群の歌唱力を誇る中山優馬、テレビのみならず舞台でも美しいソプラノを披露する秋元才加、朝ドラなどに出演して若手注目株の中山義紘、元宝塚月組トップスターで女優・歌手・バラエティなど多彩な顔を見せる真琴つばさ、『レ・ミゼラブル』のバルジャン役をはじめミュージカル界で活躍する今井清隆、映像のみならず自らの劇団を率いて舞台でも精力的に活動する宇梶剛士、実力派女優として気を吐くキムラ緑子といった個性的な顔ぶれが揃っている。
その公開ゲネプロと囲みインタビューが初日前日に行われた。

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【あらすじ】
フランスの片田舎の小さな村。そこにかつては豪奢だったが、戦争後、落ちぶれてしまったルピック家がいる。どこにでもありふれた家族のように見えたのだが、末っ子の真っ赤な髪、そばかすだらけの顔で、通称“にんじん”と呼ばれるフランソワ(大竹しのぶ)は家族からバカにされ、時には理不尽に扱われていた。ルピック家には姉のエルネスティーヌ(秋元才加)、出入りする姉の婚約者で村一番の裕福な家庭のマルソー(中山義紘)、甘やかされてわがままな兄フェリックス(中山優馬)、父親のルピック氏(宇梶剛士)、母親のルピック夫人(キムラ緑子)がいた。ある日、そこへ新しい女中アネット(真琴つばさ)がやってくる。アネットはにんじんへの仕打ちを優しく慰めるのだが、ある日、ルピック夫人の貯金していた銀貨がなくなるという事件が起き、どういうわけかにんじんのせいにされ、ますます彼への仕打ちが激しくなっていく。しまいにはかつて幼いフランソワを育てていた「名づけ親」(今井清隆)までもが解決に乗り出してくる始末。ただ家族や兄弟から愛されたいとだけ望んでいたにんじんは、果たして……。

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鼓笛隊の派手な音楽から幕が開け、アンサンブルの統制のとれた合唱が終わる。草むしりをさせられていたにんじんの大竹しのぶが立ち上がり、「真っ赤な髪で/そばかすだらけ/そうさぼくは/みにくいにんじん!」と自虐とも取れる歌詞を力強く歌う。シャウトのような、まるで自分の存在証明のように聞こえる歌だ。舞台の照明はどこまでも明るいのに、大竹の歌とのコントラストが物悲しく美しい。どこかロック的な匂いのする歌唱が、夏のフランスの小さな村一面に響き渡る。
大竹しのぶは、小柄ということもあって14歳の少年そのものに見える。愛を求めているが満たされない、それでも笑顔を忘れない屈託のない表情が切ない。38年のブランクを感じさせないだけでなく、「新生にんじん」とでもいったみずみずしさがある。

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そこからにんじんの家の食卓のシーンに舞台が移る。ここで家族の関係性を一気に見せていく。兄のフェリックスは中山優馬、親にバレないように弟をいじめて、いいように利用する兄を丁寧に演じている。リアルに憎たらしさを感じさせる歌も絶妙。
姉のエルネスティーヌは秋元才加、彼女もにんじんを無視していて、心のない彼女の歌はにんじんには決して響かない。そんな歌を秋元はどこまでも美しいソプラノで劇場に響き渡らせる。婚約者マルソーの中山義紘は、いつもエルネスティーヌの顔色を伺い、険悪な家族の雰囲気に気押されて場違いなことを言ってしまう青年で、その天然ぶりがホッとする笑いを誘う。

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ルピック氏とルピック夫人は宇梶剛士とキムラ緑子、倦怠期さえ超えてお互いを憎んでいるような夫婦で、互いをルピック氏、ルピック夫人と呼び、何をするにもにんじんを介してコミュニケーションを図ろうとする。しかし母親は徹底的ににんじんをいじめ、父親もにんじんをネグレクトしている。だがルピック夫人にも、にんじんを本当は愛しているのに、愛せないでいる自分が許せない母親の葛藤があり、「それでも」の歌にその切なさが滲み出る。ルピック氏にも、子供にどう接していいのかわからない父親のもどかしさがあり、愛したいのに愛せない、そんなアンビバレンツな感情が、この夫婦の通奏低音となっている。

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そこに現れる真琴つばさ扮するアネットは、まさにコメディエンヌであり、安らぎの存在で、細かい表情と仕草で楽しい笑いを引き出してくれる。アネットは自分の仕事に誇りを持ち、3回離婚していることも気にしない豪胆さがあり、男勝りな歌を堂々と聴かせる。にんじんを誰よりも気にかけて勇気づけてくれる力強い存在だ。

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にんじんの育ての親で「名づけ親」の今井清隆は、ルピック夫人の大切にしていた銀貨がなくなった事件で、にんじんを助けるために登場する。心からにんじんのことを気にかけ、産みの親より親たらんとするその迫力に心打たれる。歌声のバリトンは伸びやかで、劇中で何回か「青空を見ることの大切さ」について言及するシーンがあるのだが、本当に青空を突き抜けてしまいそうな宇宙的な広がりを持つ歌声となっている。人間は不器用で誰もがうまく愛を表現できないでいる、悲しいのは、にんじんだけではないという、その歌の普遍性が心に響いてくる。

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追い詰められたにんじんは、どこからか「自殺すればいい」という声を聞いて、何度か自殺未遂を図る。また彼は、自分がいなくなったら世界がなくなってしまうという感覚に陥る。自己と世界が相対化してしまう実存主義のように、にんじんの中では、自らの存在が世界との関係の間で常に不安定に揺らいでいるのだ。だから彼は「フランソワ」という本当の名前を呼んで欲しいと切に願う。それこそが自分がこの世界にいることのできる絶対的な証明になると信じているからだ。

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やがて、にんじんは命令ばかりする両親に反抗し始め、兄のフェリックスはパリを目指し旅立ち、姉は結婚していなくなってしまう。そして父性と母性は、解決策を見出せないまま放り出される。この舞台はその在りどころを観客に問いかけているようにも見える。
 
そんな深い問いを含みながら、もちろん子供が見ても楽しい舞台だ。山本直純の音楽は、ポップで柔らかいメロディで、山川啓介の歌詞はわかりやすく誰でも一緒に口ずさめる。そして演出の栗山民也は、静謐に感情過多にならずに舞台を進行させる。見方によってはひどい惨状が繰り広げられているのに、それを凛とした佇まいで静かに突きつけてくる。

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名づけ親はにんじんに、青空をよく見ろという。にんじんは空を見上げて歌う。たとえ親に名前を呼ばれなくても「にんじん」は「にんじん」でいいじゃないか。舞台には十字架のような装置が出てきたり、あるいは十字架の形になった光が差し込んでくる。それは実存という相対的な世界と自分の感情だけでは片付けられない、この世界にあるはずの絶対的な希望のようにも見える。その気持ちを胸に、にんじんは、そして人々はまた歩き始めるのだ。

【囲みインタビュー】

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前列/キムラ緑子、大竹しのぶ、宇梶剛士 後列/中山義紘、秋元才加、真琴つばさ、今井清隆 
 
公開舞台稽古の前に囲みインタビューが行われ、大竹しのぶ、中山優馬、秋元才加、中山義紘、真琴つばさ、今井清隆、宇梶剛士、キムラ緑子が登壇した。

──いよいよ1日から初日が始まりますね。
大竹 この格好で普通に答えるのがいたたまれなくて(笑)。
優馬 そんなことないですよ。
大竹 お芝居しているときはいいんです。でも素になると恥ずかしい。
──取材陣からも可愛いと声が上がっていました。
優馬 お芝居では兄貴役で、いろんな意地悪なことをやらせていただくんですけど、稽古中やお芝居じゃないところは少女のようで…。
大竹 もう嘘ばっかり!(笑)
──キムラさんからご覧になっていかがですか。
キムラ 私はにんじんにいじめをするお母さんなんです。でもいじめたくないぐらい大竹さんは可愛いでしょ。稽古場で隣の席でしたが、稽古が終わって帰ってくると、おばさんに見えなかった?とずっと気にしていましたが、どう考えても14歳に見えましたよ。
──篠山紀信さんの撮られた写真も少年ですね。
大竹 この作品が好きなので、自分の歳は忘れてにんじんとして演じられるんです。ただ、ふと、何しているんだろう私は?と思ったりすることもあって、その戦いです。怖いもの見たさもあるのかなあ。
優馬 ふふっ(笑)。
大竹 笑うところじゃない!(笑)みんなそれぞれ愛を求め合って、そこがよくできているお話だと思うし、栗山さんが初演よりも細やかに演出してくださった。山川啓介さんがご本と歌詞をお書きになりましたが、天国から見てくれたら喜んでくれただろうなと思います。
──38年経って、大竹さんにはこの役はどう響きますか。
大竹 以前よりも子供の気持ちがわかるようになりました。
──大竹さんが人生を重ねてきてからでしょうか。
大竹 それもあるでしょうし、当時は社会的にいじめという問題は頻繁に行われている時ではなかったので。今は、よりリアリティを持って、子供たちはこんなにSOSの信号を出していたんだとわかります。
──他の方々から見て、いかがですか。
宇梶 稽古場の時から、しのぶさんなのかにんじんなのかわからなかった。可愛らしいですね。密にご一緒するのは初めてですが柔らかくて自然な方です。
真琴 私は、ルピック家では唯一暖色系かなと思っています。大竹さんは、客席から拝見させていただくと、恐ろしいほど純粋無垢な少年になる瞬間があるんです。これが『にんじん』という作品の魅力ですね。大竹さんのどこかに「にんじん」がいるんだと思います。
今井 大竹さんは、この間までギリシャ悲劇の女王様をやっていたわけで、スタンスが広くて、どんな役でも内から湧き出るものがあって、自然とこなす女優さんだなとびっくりしました。 
秋元 私はお姉さんをやらせていただきますが、どういう風に大竹さんのお姉さんをやるんだろうと、最初は聞き違いだと思いました(笑)。ただ、稽古をしていくうちに光栄だと思えるようになりました。最初は、張り詰めて黙々とした稽古場なのかなと思ったのですが、楽しみながら一生懸命やるところはやって、緩急のつけ方がしっかりしていたので、そういう稽古を通してもっと自由に、楽しみながらお芝居ができたらいいと新たな自分を見つけました。
──その婚約者マルソーが中山義紘さんですね。
義紘 食卓のシーンがたくさんあるんですが、マルソーはしきたりを知らない天然系なんですね。周りから何を言っているの?という反応をされてしまう。
秋元 張り詰めた空気感の中でも、どこかゆったりとした希望が見えたらいいなと2人で話していたから、中山(義紘)さんはその雰囲気を出してくれています。
──大竹さんは還暦を迎えました。
大竹 還暦だからもう一度やりたいという思いもあったんです。
──カンパニーではお祝いしたんですか。
大竹 ケーキをもらってハッピーバースデーを歌ってもらいました。
優馬 僕はまだプレゼントをあげてないんです。畏れ多くて。
大竹 なんで?なんかちょうだいよ。
優馬 ラブ(LOVE)を。
大竹 ラブはいらない(笑)。
キムラ 魚をさばいてくれるから。
大竹 さばけるの?
優馬 じゃ、ピチピチのやつを持ってきます(笑)。
──ジャニーズのさかなクンと言われていますからね。
優馬 なんでやねん!このタイミングでそう思われると本番に支障が出ます。
──では最後にファンの方に一言。
大竹 38年前にやったお芝居を、このメンバーで、栗山民也さんのおかげで新しい作品になって生まれ変わったと思うので、大人も子供も恋人同士も、繊細で元気がでる芝居を観にきてもらいたいです。

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※この公演のチケットを販売中!
http://enbu.shop21.makeshop.jp



〈公演情報〉
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ミュージカル『にんじん』
原作◇ジュール・ルナール
訳◇大久保洋(「講談社文庫版」より)
脚本・作詞◇山川啓介
演出◇栗山民也
音楽◇山本直純
出演◇大竹しのぶ、中山優馬、秋元才加、中山義紘、真琴つばさ、今井清隆、宇梶剛士、キムラ緑子 他
●8/1〜8/27◎東京 新橋演舞場
〈料金〉1等席 13,000円 2等席 8,500円 3等席A席 5,500円 3等席 B席 3,000円 桟敷席 14,000円 《子供料金》2階1等席 6,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489(10:00〜18:00)
●9/1〜10◎大阪 松竹座
〈料金〉1等席 13,000円 2等席 7,000円 3等席4,000円 《子供料金》2階1等席 6,500円(全席指定・税込)
※《子供料金》は4歳から小学校6年生以下対象
 

 

【取材・文・撮影/竹下力】



妃海風コンサート2017






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加藤和樹主演のサスペンス劇の傑作『罠』間もなく東京公演が開幕!

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加藤和樹の主演で09年に初演、大きな反響を巻き起こした舞台『罠』が7年ぶりに上演され、7月13日の亀有公演、7月15日、16日の兵庫公演を経て、8月8日からサンシャイン劇場で、いよいよ東京公演の幕を開ける! その舞台写真が到着した!

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この作品はフランスを代表する劇作家、ロベール・トマが1960年に発表し、パリで初演。トマはこの1作でフランス演劇界の寵児となり、以来、大ヒット人気作品として世界各国で上演されている。
日本においても度々上演されていて、09年の加藤和樹主演の舞台は、開幕と同時に反響と絶賛の嵐を巻き起こし、翌年には全国ツアーとして再演を果たした。この『罠』で記念すべき舞台初主演を飾った加藤は、その後の活躍も目覚ましく、演劇界の次代を担うトップスターとして大躍進を遂げている。

登場人物はわずか6人だけ、誰もが怪しく、誰もが真実を語っているとは思えない状況の中、殺人事件の取り調べは二転三転、緊張感漂うセリフ(証言)の応酬が続く。物語の巧みな伏線と見事な構成、そして物語は衝撃的なクライマックスを迎える!

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物語はとある山荘での出来事。新婚3ケ月のカップルがバカンスのため訪れていたが、些細な夫婦喧嘩から妻のエリザベートが行方不明になってしまう。夫のダニエルがカンタン警部に捜査を依頼するが、なかなか見つからない。そこへマクシマン神父に付き添われてエリザベートが戻ってきたが、全くの別人だった! ダニエルは激しく抵抗し、妻ではないと主張するが、状況証拠はどれもこれも現れた女が妻であると印象づけるものばかり。証人として絵描きや看護婦も登場し、騒動の渦は大きくなるが、ついに殺人事件にまで発展してしまう。誰が正しいのか、誰が嘘をついているのか、そしてエリザベートは一体どうなってしまったのか、やがて思わぬ事態から意外な真実があきらかになる!
 
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今回の舞台化にあたって、演出を手がけるのは、初演からタッグを組んでいる気鋭の深作健太。さらに白石美帆、渡部秀、初風緑、山口馬木也、そして筒井道隆など、人気と実力を兼ね備えた充実のキャストが参加して、より充実の舞台を繰り広げている。                     
 
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〈公演情報〉
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『罠』
原作◇ロベール・トマ
翻訳◇平田綾子
演出◇深作健太
出演◇加藤和樹、白石美帆、渡部 秀、初風 緑、山口馬木也、筒井道隆
●8/8〜15◎サンシャイン劇場
〈料金〉8,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (全日10:00〜18:00)

※えんぶshopでもチケット取り扱い中!
http://enbu.shop21.makeshop.jp




【舞台写真撮影/宮川舞子】




えまおゆう30周年記念コンサート






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吉田栄作・朝海ひかる・小倉久寛が再集結! 舞台『ローマの休日』いよいよ開幕! 

『ローマの休日』1_撮影:岸隆子(Studio Elenish

朝海ひかるがアン王女を演じる舞台『ローマの休日』が、本日、7月26日、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて初日を迎えた。(7月27日まで。その後、7月30日〜8月6日まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演)。
 
『ローマの休日』3_撮影:岸隆子(Studio Elenish

この作品の初演は2010年。出演者は3人のみという意表をつくアイデアで、ストレート・プレイ版『ローマの休日』として作られた。その舞台ならではの大胆な構成と、映画の世界観を生かした繊細な演出は、幅広い年代の観客から好評を得て、脚本・演出のマキノノゾミは第36回菊田一夫演劇賞を受賞、2012年には再演もされている。
 
今回は、絶賛を浴びた初演キャストの3人が7年ぶりに再集結。一層深みの増した演技で、新聞記者ジョー・ブラッドレ−とアン王女の淡くせつない恋愛模様、ジョーとカメラマン、アーヴィングの熱い友情、そして3人の人間ドラマが演じられる。

『ローマの休日』5_撮影:岸隆子(Studio Elenish (1)

【初日コメント】
 
その舞台の出演者、吉田栄作・朝海ひかる・小倉久寛から初日コメントが届いた。

吉田栄作(ジョー・ブラッドレ−役)
7年ごしの作品で、再再演の公演に出演出来てとても嬉しいですし、舞台の上で生きれることに感謝の気持ちが尽きません。是非舞台上で生きている私達を観に来てください。

朝海ひかる(アン王女役) 
お稽古場の空間から、一気に舞台という空間が広がり、そしてお客様にご覧頂き、一気に初演の興奮が蘇りました。『ローマの休日』は不朽の名作であると、今改めて実感しています。

小倉久寛(アーヴィング・ラドヴィッチ役) 
本日はありがとうございました。舞台の初日というのはいつも緊張してしまうんです。他のキャストも表には見せませんが、すごく緊張していると思います、まあ3名ですけれども(笑)。ですが大阪のお客様につつまれて初日を乗り切ることができました!

『ローマの休日』2_撮影:岸隆子(Studio Elenish)

【イベント情報】
公演期間中に以下のイベントが開催される。
7/30(日)16:30 初日スペシャルカーテンコール
7/31(月)13:30 アフタートーク(吉田栄作・朝海ひかる・小倉久寛)
8/1(火)18:30 & 8/3(木)18:30 出演者写真&特製チケットホルダー(非売品)プレゼント

〈公演情報〉
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『ローマの休日』
オリジナル脚本:イアン・マクレラン・ハンター/ジョン・ダイトン ■原作◇ダルトン・トランボ
演出◇マキノノゾミ  
脚本◇鈴木哲也/マキノノゾミ 
音楽◇渡辺俊幸
出演◇吉田栄作、朝海ひかる、小倉久寛 /川下大洋(声の出演)
●7/26・27◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈料金〉8,800円 U-25チケット5,000円[25歳以下対象/当日指定席引換/要証明書](全席指定・税込) 
●7/30〜8/6◎世田谷パブリックシアター
〈料金〉S席8,800円 A席7,000円 U-25チケット5,000円[25歳以下対象/当日指定席引換/要証明書](全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(10:00〜18:00)



【資料提供/梅田芸術劇場 舞台撮影/岸隆子(Studio Elenish)】



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