えんぶ本誌の宝塚記事取材の機動力を生かして、宝塚歌劇の製作発表、会見などをいち早く紹介。 宝塚OGの公演やインタビューのほかに公演の批評なども展開しています。

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サスペンスの傑作『暗くなるまで待って』間もなく開幕! 加藤和樹・高橋光臣 インタビュー

加藤×高橋

1966年にブロードウェイで初演されたサスペンスの傑作『暗くなるまで待って』。盲目の若妻と悪党三人組がアパートの一室で繰り広げる駆け引きと騙し合いが、スリリングに描かれるワンシチュエーションミステリーで、日本でも何度か上演を重ねてきた。この作品が、1月25日から2月3日までの池袋 サンシャイン劇場を皮切りに兵庫、名古屋、福岡で上演される。
主人公の若妻スージーには凰稀かなめ、スージー殺害を企てる悪党のリーダー、ロート役を演じるのは加藤和樹、詐欺師で甘い二枚目のマイク役を演じるのは高橋光臣、そのほかに猪塚健太、松田悟志など実力派の若手も参加する注目作品だ。この舞台で共演する 加藤和樹と高橋光臣が、役柄への思い、また盟友である互いの魅力を語り合ってくれた「えんぶ2月号」のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。

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高橋光臣 加藤和樹

ここまでのワルも二枚目も
お互いに初めて

──まず作品についてはどのような印象を?
加藤 僕は2007年に上演された時に観ているのですが、当時はまだ僕自身舞台経験もさほどなかった中で、全ての展開に衝撃を受けて、それ以来いつか演じてみたいとずっと思い続けていたので、今回オファーを頂けたことに喜びでいっぱいです。
高橋 僕はこのお話を頂くまで作品に接したことがなかったのですが、まず台本を読んで大人の雰囲気と色気があるなと感じました。台詞にも細かい駆け引きがあり、ワルなんだけれどもほのかな恋心を抱いたりする描写をどう作るのかに、とても興味を引かれてます。ラストまでスリリングなので、実際にどんな舞台になっていくのかが楽しみです。
──演じる役柄についてはどうですか?
加藤 ロート役を演じさせて頂きますが、僕にとってはこれだけの悪を演じるのが初めてで。
高橋 本当に? ちょっと意外。色々やっているから。
加藤 うん、ここまでの悪は初めて。悪い奴はやってるけど、そうせざるを得ない何か理由があるとか、心根は優しいとかだったんだよね。だから、今回のロートに対しては、どこまで自分が彼に歩み寄れるのか、彼が近づいてきてくれるのかがある意味挑戦かな。見るからに悪そうな人って意外と良い人だったりするしね(笑)。一見悪い人には見えない人が実は…となった時にこそ背筋が凍るような怖さにつながるだろうし、存在そのものに畏怖の念が湧くようなところがロートという人物には重要だと思うから、そこをどう表現できるかを追求していきたい。
高橋 僕が演じるマイクは詐欺師なんだけれども、だからこそ女性から惚れられるくらいの魅力がないと成立しない役で。カズさん(加藤)がワルをやったことがないって言ったけれど、僕も色気のある男前の二枚目役って、ほとんどやっていないんだよ!(笑)。だから今回まず二枚目に徹する! というのが僕もチャレンジングで。
──持ち前の武器が活かせる役ですね!
高橋 いや〜(笑)、僕つい何か面白いことやりたくなっちゃうので(笑)。そこを今回はグッと抑えて、観る人が心を動かされるような存在になっていけたらなと思っています。

_MG_0189加藤和樹

集中力を必要とする分、
ハマった時には凄いものになる

──今回のような場面が固定された少人数のお芝居の醍醐味についてはいかがですか?
加藤 やはり役者ももちろんですが、お客様が集中してご覧になれる、目を逸らしたくても逸らせないという緊張感があるのが、こういうワンシチュエーションものの魅力かなと思います。
高橋 僕はワンシチュエーションものに出るのは初めてで。台本を読んでもずいぶん制約があるなと。「三歩歩いて〇〇をとって」とか書いてあるよね?
加藤 うん、あるある(笑)。
高橋 そこをどう(深作)健太さんが創るのかというのもあるんだけど、その制約の中で何ができるのかというのが、楽しみなのと同時に難しさも感じる。
加藤 決め事をまず身体に入れないといけないんだよね。この台詞が終わるまでにあれと、あれをやっておかないと、全部が崩れるということさえあるから、そこは役者もスタッフも本当に集中しないといけないので緊張するけど、だからこそ上手くハマった時には凄いものができると思う。健太さんは役者と一緒に考えて、体当たりしてくれる演出家なので、そこは安心感があるかな。
高橋 僕は健太さんとは初めてなので、僕という材料をどうまとめてくれるかも楽しみだし、その為にはまず僕からもどんどんアイディアを出し、意見を聞いてやっていきたいと思っています。

_MG_0222高橋光臣 
大人の色気と機微の詰まった
スリリングな作品

──共演者の皆さんも豪華なメンバーですね。
加藤 (凰稀)かなめさんとは『1789〜バスティーユの恋人たち』で共演はしているけど、ほぼ絡みがなかったので(笑)。同じ場面に一瞬いたかな? ぐらいで。
──加藤さんのロナンが目覚めてしまったことで、凰稀さんのマリー・アントワネットが逃げていくんですよね。
高橋 それを共演と言っていいのかってほどだね(笑)。でも結構そういうことあるね。
加藤 そうそう(笑)。ただもちろん稽古場でかなめさんの芝居は間近で見ているし、芝居に対する熱は感じているから、今回初めてしっかりと絡むことによって、どこまで深め合えるか、それに、皆でどう話し合って作っていけるのかもすごく楽しみです。
高橋 僕は松田(悟志)さんとは長いお付き合いで信頼感がありますし、カズさんのことはすべて知っている(笑)というと語弊があるけど、本当に何でもぶつけられる相手なので、今回一緒にできることが何よりも嬉しい。
──それほど親しいお二人なので、照れてしまうかも知れませんが、是非お互いの魅力を。
高橋 これは先に言った方がいいな(笑)。芝居もしっかりしてるし、アクションもできるし、知的で色気もあるのに馬鹿ができる男前。そこが男から見ると本当に魅力的です。
加藤 光さん(高橋)はどこを切っても魅力ばかりなんだけど、とにかく大好きなのは、誰に対しても分け隔てがなく優しいところです。更に役者としては、芝居にしてもアクションにしても揺るぎないベースがあるからブレがない。だからどこにでも行けるし、役をどんどん積み上げていく人なので、観ていて勉強になります。
高橋 あぁ、本当に照れる(笑)。自分を役者としてそんな風に見たことがないから。でもそう言ってくれるカズさんと舞台を作れるので、このサスペンスでありつつ大人の男女の機微の詰まった作品の色気をお客様に感じて頂けるように頑張ります。
加藤 僕はこの作品を心待ちにしていただけにプレッシャーもありますが、今の年齢になったからこそできる役だと思っています。台詞量も情報量も多い作品を、如何にお客様に理解して楽しんで頂けるかを考えながら、最後の暗闇の中での戦いに向けて全員で創っていきたいです。これだけスリリングな作品はなかなかないので、是非期待していて下さい!

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 ■プロフィール
加藤
かとうかずき○名古屋市出身。05年『テニスの王子様』で脚光を浴び、06年歌手としてもCDデビュー。大作ミュージカルで次々と大役、主演を務める一方で、16年にはアーティストデビュー。LIVE活動も精力的に行っている。近年の主な舞台作品に『フランケンシュタイン』『レディ・べス』『ハムレット』『マタ・ハリ』『1789〜バスティーユの恋人たち〜』『タイタニック』等があり、12月には自身の作詞をもとにした作品project K『僕らの未来』に出演した。
 
高橋
たかはしみつおみ○大阪府出身。05年に俳優デビューし、テレビドラマ、舞台と幅広い活躍を続けている。主な映像作品に『科捜研の女』『梅ちゃん先生』『実験刑事トトリ』『名もなき毒』『神谷玄次郎捕物控』『下町ロケット』『せいせいするほど愛してる』『西郷どん』、CMでは救心製薬『救心錠剤』のイメージキャラクターを務めている。主な舞台作品に『しゃばけ』『夕─ゆう─』『ヴェローナの二紳士』『真田十勇士』『光より前に─夜明けの走者たち─』など に出演。


〈公演情報〉
暗くなるまで待って画像

『暗くなるまで待って』
作◇フレデリック・ノット 
訳◇平田綾子 
演出◇深作健太
出演◇加藤和樹 凰稀かなめ/高橋光臣 猪塚健太 松田悟志  ほか 
●1/25〜2/3◎東京・サンシャイン劇場 
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東京/サンライズプロモーション東京  0570-00-3337(全日10:00〜18:00)
●2/8〜10◎兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
●/2/16・17◎名古屋・ウインクあいち
●2/23◎福岡・福岡市民会館 大ホール 
〈公演HP〉http://wud2019.com



【構成・文/橘涼香 撮影/山崎伸康】




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シアタークリエへの見事な凱旋で輝くミュージカル『レベッカ』上演中!

「レベッカ」山口&大塚1

2018年に開場10周年を迎えた東京日比谷のシアタークリエで、10周年記念公演ファイナルとなるミュージカル『レベッカ』が上演中だ(2月5日まで)。

ミュージカル『レベッカ』は、20世紀前半から活躍した小説家ダフネ・デュ・モーリアが1938年に発表した長編小説「レベッカ」を、『エリザベート』『モーツァルト!』『マリー・アントワネット』『レディ・ベス』等々の大ヒットミュージカルを生み出したミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイのゴールデンコンビがミュージカル化した作品。サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックによる映画版が殊の外有名だった作品を、全編歌で綴るミュージカルとしてサスペンスフルに、更にロマンの香りも高く創り上げた舞台は2006年のウィーン初演以来、大好評を博した。そんな作品を世界で2番目の上演国として発信したのが、2008年に開場したシアタークリエで、その後、10年間に海外の新作のいち早い上演や、埋もれていた幻の作品に光を当てるなどの様々なチャレンジを続け、演劇界に大きな足跡を残してきたシアタークリエの歩みを象徴する、記念碑的作品が、満を持して10周年記念ファイナル公演として帰ってきた。

「レベッカ」大塚1
大塚千弘

【STORY】
天涯孤独の身の上で、アメリカ人富豪ヴァン・ホッパー夫人(森公美子)の世話係を務める「わたし」(大塚千弘/平野綾/桜井玲香 トリプルキャスト)は、モンテカルロのホテルで、イギリスのコーンウォールに大邸宅と広大な土地“マンダレイ”を所有する上流紳士マキシム(山口祐一郎)に出会う。先妻レベッカの事故死の影を引きずるマキシムは、忘れていた心の安らぎを与えてくれた「わたし」を見初め、「結婚して欲しい」とプロポーズする。身分も階級も異なるマキシムに惹かれる心を押し隠してきた「わたし」も、愛を信じマキシムのプロポーズを受け入れるが、ヴァン・ホッパー夫人はマキシムの先妻レベッカはイギリスでも評判のレディであり、「わたし」にマンダレイの女主人が務まるはずがないと警告する。果たして、ハネムーンも終わりマンダレイに着いた二人を出迎える召使いたちの中には、レベッカに幼少時から仕え、彼女亡き今も家政婦頭として屋敷を取り仕切るダンヴァース夫人(涼風真世/保坂知寿 ダブルキャスト)がいて、レベッカが生きていた時と何ひとつ変わらぬままに屋敷を維持していた。ダンヴァース夫人の威圧的な態度に気圧されながら、マンダレイの管理をするマキシムの友フランク(石川禅)、マキシムの姉ベアトリス(出雲綾)、その夫ジャイルズ(KENTARO)に温かく迎え入れられた「わたし」は懸命にマキシムの良き妻になろうとするが、マキシムに隠れて屋敷に出入りするレベッカの従兄弟ファヴェル(吉野圭吾)、入江のボートハウスで出会ったベン(tekkan)等の言動からも、屋敷の至るところ、更に人々の心の中にもレベッカの存在が色濃く残ることを意識せずにはいられなかった。やがてそんな今はいないはずのレベッカによって、二人の結婚生活にも次第に影がさしていき……。
 
「レベッカ」平野1
平野綾

ゴシック・ロマンとして名高い『レベッカ』は、やはりなんと言っても「サスペンス映画の神様」とも称されたアルフレッド・ヒッチコックの手による映画版が著名で、特にダンヴァース夫人を演じたジュディス・アンダーソンの怪演とも呼びたい強烈な演技が強い印象を残している。ヒロインに固有名詞がなく、観る者が「わたし」を通して物語に入っていく道筋がつけられていることもあって、ヒロインがマンダレイで追い詰められていくサスペンス感が強烈で、端的に言って夜1人で鑑賞するのは恐ろしいと思える世界観が広がっている。
そこからすると、このミュージカル版にはぐっと情緒的で、ロマンティックな色合いが濃い。それには恐怖感以上に、個々の人間心理に深く踏み入ったミヒャエル・クンツェの脚本・作詞と同時に、複雑でありながら耳に残る美しいメロディーを数多く書いたシルヴェスター・リーヴァイの音楽の力が大きく寄与している。冒頭に歌われる「夢に見るマンダレイ」が、特にその効果を発揮していて、レベッカというあまりにも強大な影に「わたし」が愛の力で対峙していく物語の、ロマンの香りを強く際立たせている。作品中最も有名な楽曲と言って間違いないだろう、ダンヴァース夫人のナンバー「レベッカ」が繰り返し歌われることによるサブリミナル効果や、マキシムの懊悩を描く「神よなぜ」「凍り付く微笑み」等のビッグナンバーと、ベアトリスとジャイルズの「親愛なる親戚!」ヴァン・ホッパー夫人の「アメリカン・ウーマン」等、軽やかでリズミカルなナンバーが共存することで、物語の色彩が格段に豊かになった。
このミュージカルならではの醍醐味は、アンサンブルメンバーが歌う数々の楽曲の面白さにもあふれていて、山田和也の演出が出演者1人1人の個性を丁寧にすくい取っているのも目に耳に愉しい。何よりサスペンスフルな物語展開の緊迫感に、シアタークリエの濃密な空間がピッタリで、クリエ発ミュージカルのスタートを切った作品が、栄えある10周年記念の掉尾を飾ったことの意義を改めて知らしめていた。

「レベッカ」桜井2
桜井玲香 

そんな作品を彩る出演者の多くが初演以来の持ち役を深めているのも、やはりこの企画の重みを感じさせるし、新たなメンバーが吹かせる風もまた更なる見どころを生んでいる中で、マキシム・ド・ウィンターを演じる山口祐一郎が、変わらずに作品の芯を担っている安定感には大きなものがある。スラリとした長身と甘いマスクとどこまでも伸びる歌声で、唯一無二というほどミュージカル界にとって貴重な存在だった山口が、経験と年輪を重ね、尚このマキシム役が無理なく演じられるだけでなく、役柄の苦悩や揺れ動く心情をよりリアルに表出する深みを加えた姿は圧巻。今回「わたし」役にトリプルキャストが組まれたことで、それぞれに対する山口のマキシムの表情が異なってくるのも、なんとも魅力的だった。

「レベッカ」山口&大塚2

そのトリプルキャストの「わたし」は、日本版オリジナルキャストの大塚千弘が、帝国劇場再演バージョンから8年の時を経て同じ役柄を演じ、瑞々しさを失わずにより感情の襞を深めているのが頼もしい。観客が彼女の目線で物語を観る「わたし」というヒロインの在り方に、当然でもあるだろうがやはり一日の長があり、緩急の豊かな歌唱力がマキシムやダンヴァース夫人との掛け合いのナンバーに際立った。

「レベッカ」山口&平野1

一方平野綾は「わたし」役そのものこそ初役だが、近年ミュージカル界で次々に大役に挑んできた経験値が生きて力強い。制作発表や囲み取材で見せるむしろおっとりした佇まいが、舞台に立つと燃えるようなパッショネイトに変換する、平野綾という表現者の魅力がそのまま「わたし」にも投影されていて、愛故に強さを兼ね備えていく「わたし」の変化に見応えがあった。

「レベッカ」山口&桜井

この二人に並んで、翻訳ミュージカル初挑戦の桜井玲香が「わたし」を演じるプレッシャーには、果てしもないものがあっただろうと思うが、それだけに役柄に体当たりする桜井の懸命さが、新たな人生に飛び込んだ「わたし」の心許なさと、怯え戸惑いながらも姿なきレベッカとの戦いに挑んでいく様にストレートにつながったのが、予想以上の効果を生んでいる。可憐な容姿も加わり無条件に応援したくなる「わたし」像はこの作品の本質を突いていて、発展途上の歌唱も美しい声質に伸びしろを感じさせた。経験を重ね花開いている同じ「乃木坂46」の生田絵梨花に続く、ミュージカル界での今後の活躍にも期待したい。

「レベッカ」保坂&桜井
 
そしてこの作品全体の色を決めていると言って間違いない存在であるダンヴァース夫人は、再演バージョンに続いての出演となる涼風真世が、亡きレベッカがそのまま憑依したかのような威厳と位取りの高さを示せば、初役の保坂知寿がレベッカへの狂信的な崇拝を緻密に表現して興味深い。片や元宝塚歌劇団のトップスター、片や元劇団四季のヒロイン女優と、日本のミュージカル界にとって欠かせないカンパニーを出自に持つ二人が、やはりそれぞれの生まれ育った場所を想起させる表現で役柄にアプローチしているのが、何よりの興趣を生んでいた。

他に初演からの続投キャストでは、マンダレイの管理を任されているフランクの石川禅が、この年月でより役柄に相応しい味わいを身にまとっているのが大きな効果を生んでいる。近年アクの強い役柄でもヒットが多い人だが、やはり本来の持ち味がひたすらに誠実なフランク役に合っていて、「わたし」を励ます「誠実さと信頼」の持ちナンバーが滋味深く耳に残った。レベッカの従兄弟ファヴェルの吉野圭吾は、逆にアクの強い役柄をどんなに色濃く演じても、徹底的に下品にはならない魅力が活きている。このミュージカル全体の色彩からも、吉野のファヴェルの匙加減は絶妙で、良いアクセントになっていた。非常に難しい役柄であるベンの動物的な判断を純粋に見せるtekkan、マキシムの義兄ジャイルズを軽妙洒脱に演じるKENTAROも味わい深い。

「レベッカ」平野2

また、初役の面々では、ジュリアン大佐の今拓哉が、マキシムへの友情と、冷静な裁判官であろうとする職業倫理の狭間で揺れ動く心情を巧みに表現しているし、マキシムの姉ベアトリスの出雲綾の、宝塚時代から定評ある歌唱力と共に、温かみのある声質そのものがマキシムと「わたし」の絶対的な味方である役柄をよく生かしている。更にヴァン・ホッパー夫人の森公美子が、この女性の世話係はどれほど大変だろうかと、冒頭「わたし」に観客が肩入れするに十分な居丈高さを表わして尚、どこかで憎めないものを残すのが森ならでは。これによってヴァン・ホッパー夫人の警告が、単に「わたし」への嫉妬から出たものではなく、作品にとって重要な一言になることに、説得力を与えていた。

他に前述したように、アンサンブルの面々の働き場も極めて多く、館の召使いたち、イギリスの上流階級の人々、群衆へと早変わりしていく様も鮮やかで、コーラスの魅力も満載。シアタークリエ10周年の掉尾であり、新たな10年への出発でもある作品を輝かせる力になっていた。改めて、折に触れて上演を重ねて欲しい作品だと感じさせたミュージカル『レベッカ』が、日本版誕生の舞台に見事な凱旋を果たしたことを喜びたい。

「レベッカ」桜井全景

〈公演情報〉
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ミュージカル『レベッカ』
脚本/歌詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲◇シルヴェスター・リーヴァイ
原作◇ダフネ・デュ・モーリア
演出◇山田和也
出演◇山口祐一郎、大塚千弘/平野綾/桜井玲香(トリプルキャスト)、石川 禅、吉野圭吾、今拓哉、tekkan、KENTARO、出雲綾、森公美子、涼風真世/保坂知寿ダブルキャストほか
●1/5〜2/5◎日比谷・シアタークリエ
〈料金〉12,500円全席指定・税込
〈問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-77779時半〜17時半
公式ホームページ https://www.tohostage.com/rebecca/




 【取材・文/橘涼香 舞台写真提供/東宝演劇部】




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新トップコンビお披露目で華やぐ宝塚歌劇月組公演ミュージカル『ON THE TOWN』上演中!

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105周年を迎えますます意気上がる宝塚歌劇団が、月組を牽引するトップスター珠城りょうと、新トップ娘役美園さくらをはじめとした選抜メンバーで年始に送る、ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』が東京国際フォーラムホールCで上演中だ(20日まで)。

ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』は、レナード・バーンスタイン作曲、ジェローム・ロビンス振付により1944年に初演された作品。1949年にジーン・ケリー主演による映画化『踊る大紐育』が世界的な大ヒットとなったのをはじめ、2014年のブロードウェイ・リバイバル版上演時にも、トニー賞作品賞を含む4部門でノミネートされるなど、大好評を博した。日本でも同じ2014年大人気アイドルグループV6の20th Century、坂本昌行、長野博、井ノ原快彦の主演で初演され、宝塚OGの真飛聖、樹里咲穂が出演している。
そんな作品が、今回初めて宝塚歌劇団で上演されることとなり、潤色・演出を野口幸作が担当。麻咲梨乃、KAZUMI-BOY、桜木涼介、三井聡、永野亮比己という個性的な振付陣が揃い、往年の名作の宝塚版に挑んでいる。

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【STORY】
1944年ニューヨーク早朝6時。海軍水兵のゲイビー(珠城りょう)は、仲間のチップ(暁千星)、オジー(風間柚乃)と共に、24時間の上陸許可を得て初めての大都会、ニューヨークの波止場に降り立つ。早速チップが父親にもらったというガイドブックを頼りに、街へ繰り出す三人。この24時間で大都会を満喫し、まだ見ぬ恋人にも出会いたい!と心躍らせ地下鉄に乗った刹那、ゲイビーは車内に貼られた「今月のミス・サブウェイ」のポスターに写るアイヴィ・スミス(美園さくら)に一目惚れしてしまう。
「絶対にこの娘を探し出す!」と意気込むゲイビーに、はじめはとても無理だと反対していたチップもオジーも協力することになり、「アイヴィ・スミスはカーネギーホールで歌とバレエを、美術館で絵画を勉強中」というプロフィールを頼りに、三人はタイムズスクエアで午後8時半に再会する約束を交わし、手がかりを求めて街に散っていく。
だが、地下鉄会社の上層部に会ってアイヴィの情報を得ようと考えたチップは、タクシードライバーのヒルディ(白雪さち花)に惚れ込まれ、博物館を訪れたオジーは人類学者のクレア(蓮つかさ)に研究対象の「ピテカントロプス・エレクトス」にそっくり!と興味をそそられ、それぞれあっという間にカップル成立。一方、アイヴィを探して街を歩き続けたゲイビーは、ようやくカーネギーホールに到着。遂にスタジオで歌のレッスンをするアイヴィにめぐり会い、タイムズスクエアでデートの約束を取り付け仲間たちと合流するが、約束の時間になってもアイヴィは現れず……

ミュージカル『ON THE TOWN』は、そもそも三人の水兵が上陸許可を得た24時間の間に恋を見つけるものの、不確かな未来に向かって旅立っていかなければならない、人生の悲哀が根底にある作品だ。そこには彼らが再び船に乗り込み赴く先が戦地であるという現実を覆い隠すように、全体の筋立てをコメディーにして、有り得ない偶然や、馬鹿騒ぎをダイナミックなダンスで綴り、未来に希望を見出す仕掛けが施されている。しかもそこに、これぞアメリカのカラッとした感触があるのが特徴で、徹底的なニューヨーク賛歌、海軍賛歌のエンターテインメントに寄せた映画版ほどではないにしても、船へと戻っていく三人の水兵を見送る三人の女性たちとの別れは、「素敵な思い出が出来た!きっとまたいつか!」という、あくまでも前向きなものだ。三人に代わって新たにまた別の三人の水兵たちがニューヨークに降り立つ、新しい明日がまた始まる!という幕切れも、ペーソス以上にガッツがあるのが、さすがはブロードウェイ・ミュージカルだなと思わせる。
今回の宝塚版の上演でも、その色合いは保たれているばかりでなく、音楽監督・編曲と海軍の帽子をかぶって自ら指揮棒も振る甲斐正人が率いるオーケストラの生演奏の迫力と、アンサンブルの群舞で押してくるパワーが、宝塚の美点をよく現している。潤色・演出の野口幸作の目配りも効いていて、三人が繰り広げる大筋の脇に、三人が気づかないままおかしていくもめ事によって、警官を先頭に彼らを追いかけていく人々が増えていくくだりや、博物館での顛末、ゲイビーを元気づけようと店から店をはしごしていく最中に関わる人々など、どこかではちゃんと1人1人が際立つように、出演者全員を立てている気配りが宝塚ならではだ。

ただ一方で、物語全体が三人の水兵と三人の恋人たちという群像劇で作られている為、月組新トップコンビ珠城りょうと美園さくらのお披露目作品という観点で見ると、やや難しさもあったように思う。特にゲイビーとアイヴィが劇中なかなか巡り合えない設定だけに、他の二組のカップルの関係ばかりがぐいぐいと進展していく1幕の流れには、トップスターを頂点とする宝塚歌劇と作品の成り立ちに開きも感じた。だからと言って版権の関係で場面をカットするという訳にはいかない以上、演出のテンポ感をもう少しあげても良かったかも知れない。
それでもゲイビーが二組と合流する2幕になると全体もグッとしまってくるし、ゲイビーとアイヴィが手を取り合うことが、新トップコンビの出会いと重なるようにも感じられ、作品の終わりがより前向きに見えたのも現代的。ここからはじまる新しい月組にも期待が高まった。

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そんな群像劇でセンターを務める大任を託された珠城りょうの、おおらかで正統派の持ち味が、この旧き良き時代の作品に殊の他よく合っている。『雨に唄えば』でも感じたことだが、この人の芯に落ち着きのある男役像は、こうした古典作品を引き立たせる何よりの力になる。トップスターが幻想シーンとフィナーレナンバーを除いて水兵姿のまま、というだけでも宝塚歌劇としてはかなり特殊ケースだが、ゲイビーが喜びに溢れた姿、運命の恋人に会えない切なさ、恋を失ったと思い込んで落ち込む姿、等々を表情豊かに見せることで、その特殊さを払拭していて頼もしい。それだけに、フィナーレで登場した士官姿は待ってました!というばかりで、実に魅力的だった。

その珠城の相手役として新トップ娘役になった美園さくらは、台詞発声の声質が抜群に美しいだけでなく、今回かなり露出の多い衣装が続く中で、ポージングも常に美しい美点を披露。通常宝塚のオリジナル作品であれば、トップ娘役にはあまり回ってこないだろうシーンもあるアイヴィ役を、独特の個性でクリアしていて、珠城とのコンビで新たな魅力、新たな作品を紡いでいってくれる可能性を感じさせた。大劇場公演のお披露目に『宮本武蔵』が控えている振り幅も、トップ娘役として貴重な経験になるに違いない。

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また、トップスターである珠城に対して舞台上でほぼ同格の役柄を、組の次世代のメンバーが務めていることにも、月組の力強さを感じる。その1人暁千星は、24時間のニューヨーク観光を綿密に計画してガイドブックに首っ引きだったチップが、友情の為説を曲げ、更に思わぬ女性から惚れ込まれ…という予期せぬ出来事の連続の中で逞しくなっていく様を自然体で見せている。チップに夢中になるタクシードライバー・ヒルディを、上級生の白雪さち花がパワフルに演じ、その振り切りぶりで過度なセクシャルムードに倒れないことも良いコントラストになっていて、チップに残る少年性にあざとさがないのも暁の個性故。はじめ押されっぱなしだったチップが、終盤にはきちんとヒルディをかばっている姿にも、チップのドラマが感じられた。

もう1人オジーの風間柚乃は宝塚メモリアルの100期生が、珠城と暁を向こうに回して、なんら不足のない骨太な演技を披露していることに舌を巻く思いがする。珠城りょうというスターがそもそもどっしりとした落ち着きを誇っているのに、更に地に足がついて見える風間の堂々とした舞台ぶりはほとんど驚異的で、それでいながら決して地味に倒れない絶妙な上手さは、末頼もしいを通り越して空恐ろしいほど。そんなオジーの恋人になる人類学者クレアに、本来男役の蓮つかさが扮したが、同じく芝居巧者の蓮が悪びれないあっけらかんさをよく表現していて、このカップルを観ているだけでもなんとも心憎いやりとりが多くあり、抜擢の理由がよくわかる面白さだった。

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そうした女性役の大役が上級生や男役に回っていることもあって、娘役たちに役が少ないのは痛しかゆしではあるが、役柄のダイナミックさや色合いを考えると、今回に於いてはこのキャスティングが妥当だったと思う。中では大きな役柄のアイヴィの声楽教師マダム・ディリーの夏月都のエキセントリックさは相変わらず絶好調だし、ヒルディのルームメイト・ルーシーの叶羽時が、思い切りの良い「可愛くない女性」の造形で役者魂を感じさせれば、晴音アキも豊かな歌唱力とコメディセンスで魅了する。歌唱力と言えば男役陣の一角、輝月ゆうまもクレアの婚約者ピットキンで、壮大だからこそ切なくも可笑しいソロナンバーを聞かせるし、場末のショーのチープ感を巧みに表出する千海華蘭も随所で活躍。警官コンビとして持ち前の品の良さを発揮する紫門ゆりやと、惜しくもこの公演で退団となった輝生かなでのダンス力も輝くだけに、せめてこのクラスにはもう少し大きな役があればとどうしても思うが、その中で、それぞれの持ち場を真摯に務める姿に感動を覚えた。玲実くれあ、春海ゆう、颯希有翔、佳城葵らもポイントポイントで目引くし、若手期待株の天紫珠李、彩音星凪、結愛かれん、礼華はるも「ここにいます!」ときちんとアピールしてくる力を改めて感じた。

ここに現在宝塚バウホールで主演公演『Anna Karenina(アンナ・カレーニナ)』を上演中の美弥るりかを筆頭に、月城かなと、海乃美月などがいることを考えると、月組の層の厚さは大変なもので、この往年の名作ミュージカルを支えた新トップコンビを筆頭とした、月組の地力を改めて感じる公演となっている。

〈公演情報〉
宝塚歌劇宙組公演
ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』
作曲◇レナード・バーンスタイン
脚本・作詞◇ベティ・コムデン
脚本・作詞◇アドルフ・グリーン
原案◇ジェローム・ロビンス
潤色・演出◇野口幸作
出演◇珠城りょう、美園さくら ほか月組
●1/6〜20◎東京国際フォーラムホールC
〈料金〉S席 8,800円 A席 6,000円 B席 3,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100(10時〜18時)
〈公式ホームページ〉http://kageki.hankyu.co.jp/
   

 
【取材・文・撮影/橘涼香】






『暗くなるまで待って』


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新たに広がるミュージカルの可能性!『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』開幕!

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その斬新で革新的な演劇スタイルでブロードウェイを席巻したミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』が、1月5日、東京池袋の東京芸術劇場プレイハウスで開幕した。(27日まで)

ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』は、世界10大小説として名高い傑作トルストイの「戦争と平和」をミュージカル化した作品で、2012年にオフ・ブロードウェイで誕生。2016年にはブロードウェイへ進出し、翌年のトニー賞で最多となる12部門にノミネートされるなど、大きな話題を呼ぶヒット作品となった。劇場全体をロシアのナイトクラブのように見立て、幕もなく客席の中に花道のように伸びるステージを使って、ミュージカルナンバーと生演奏と激しいダンスが全編に渡って繰り広げられるスピーディな展開は、最も革新的なミュージカルとして大絶賛を集めた。

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今回の本邦初演は、貴族の私生児として生まれた出自から人付き合いを好まず、酒と思索にふける日々をおくるピエールに井上芳雄、若く美しく自分の感情に正直に生きる乙女ナターシャに生田絵梨花、そのほかに霧矢大夢、小西遼生、武田真治をはじめとした、ミュージカル界の人気スターが顔を揃え、個性的でアーティスティックな世界観で魅了する気鋭の演出家の小林香が演出を担当。本邦初演に相応しい、より進化した『グレート・コメット』の世界が繰り広げられている。

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【STORY】
19世紀初頭のモスクワ。貴族の私生児として生まれたピエール(井上芳雄)は、莫大な財産を相続したものの、その財産だけが目当てだったエレン(霧矢大夢)との愛のない結婚生活を続ける人生に虚しさを抱えながら、酒と思索に耽る毎日を送っていた。そんなピエールの親友アンドレイ(武田真治)の婚約者である、若く美しく天真爛漫な伯爵令嬢ナターシャ(生田絵梨花)は、戦争に従軍したアンドレイの不在に寂しさを募らせていた。折も折、エレンの兄で絵のように美しいが、享楽的な生活をしているアナトール(小西遼生)と出会ったナターシャは、アナトールからの熱烈な誘惑に抗えず遂には駆落ちを計画する。一方、ピエールは妻エレンの不倫を知り、不倫相手のドロホフ(水田航生)に決闘を申し込みかろうじて勝利するものの、意味の無い命を賭けた闘いに、ますます鬱屈した気持ちを募らせていく。そんな時、ナターシャがアナトールと駆け落ちの約束をしていたことを知ったピエールは義憤にかられ、アナトールを探し出し問い詰めるが……

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タイトルにある「コメット」=彗星は、実際に地球に近づき8ヶ月以上もの間肉眼で見ることができたという「1811年の大彗星」を意味している。ナポレオンが「この彗星は私にとって吉兆である」としてロシア侵攻を決断したことでも知られていて、幾多の戦闘に勝利しモスクワを制圧したフランス軍が、自然の脅威である厳寒の季節との戦いに敗れ、退却に追い込まれたロシア遠征のきっかけとなった大彗星とも言うことができる。そんな歴史的背景を軸に、ロシア貴族の三つの一族の興亡を描いた群像小説である「戦争と平和」の登場人物、つまりはこのミュージカルの登場人物すべての人生を左右した、彗星に導かれた物語が展開されていく。

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何しろ原作が超のつく大河小説で、主要な登場人物の関係性も非常に色濃く絡み合っているので、原作を知っているのに越したことはないが、実際にこの作品で描かれているのは第2巻第5部を中心とした、かなりシンプルにそぎ落とされたストーリーなので、観劇前に公式ホームページに掲載されている人物相関図を見ておくだけで理解しやすくなる。更にそうした各登場人物の関係性が仮にわからなかったとしても、この作品の革新的な面白さ、他に類を見ない劇空間の客席に座りさえすれば、爆発するようなエネルギーを体感し、その興奮のるつぼを楽しむことができる。

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と言うのも、東京芸術劇場プレイハウスに小林香の指揮のもと斬新な劇空間が創り出されているのだ。舞台エリアに設けられた6ブロックの「コメットシート」と呼ばれる、オーケストラピットよりは浅く、舞台上の目線により近いが、基本的には舞台を仰ぎ見る形になる客席。その周りに縦横に張り巡らされた通路と言える部分を含めて、動線が複雑に伸びたステージ。さらに本来の客席通路をも巻き込んで、舞台と客席の境のない劇場全体が作品世界という、既存の劇場でよくこれだけの作り込みができたなという空間で物語は展開されていく。

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登場人物たちは、その360度から見られているに等しいステージで演じ、歌い、時には自ら楽器も演奏し、激しく踊り、客席にも座り話しかける。今人生の空虚を嘆き、今灼熱の恋に身を焼いていた人々が、次の瞬間には駆け回り、踊り騒ぐ様はどこかシュールで、多分にショー的でもあって、だからこそ200年以上も前のロシア貴族の物語が、今目の前で起きていることに感じられる。人はどう生きるべきか?真の幸福とは何か?そんな根源的テーマを、ある意味で猥雑な描写とパワーと、ロックやエレクトリックなクラブミュージック等の現代の音楽に乗せて描くことを思いついた、オリジナルスタッフたちの慧眼に驚くし、それを更に突き詰めて徹底的に飾り込み、日本の観客に提示した小林香以下、日本版スタッフの奮闘にも大きな感動を覚えた。小林の良い意味で毒のある美意識が、この作品の世界観に相応しく人選の妙も感じる。

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そんなカーニバル状態の舞台の中から、主要な役柄をきちんと際立たせた出演者たちがまた素晴らしい。その筆頭の井上芳雄は、長く「ミュージカル界のプリンス」の名を欲しいままにしてきた、爽やかな二枚目像をメガネと猫背の姿勢の中に封印して、難しい役柄に見事に入り込んでいる。実際に、物語の展開の大きな流れを握っているのはナターシャだし、特に1幕は相当な長時間オーケストラピットの中で本に向かい、ペンを取り、ふと見ると楽器を鳴らしているという、作品世界の中にいながら孤独な出演場面が続くが、それでも尚、己の人生の苦悩を吐露するビッグナンバー「塵と灰」ただ1曲で、すべてを浚うのはまさに井上ここにあり!の離れ業。ストレートプレイを含めて、ソリッドな作品への挑戦を常に続けてきた井上の気概と蓄積がなければ、『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』と題されたこの作品の、ピーエルを支えることは難しかっただろう。余人に代えがたい存在であることを難役を務めたことで改めて示した好演に拍手を贈りたい。
 
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一方、ドラマとして作品を捉えた時「主人公」と言って間違いないだろうナターシャを演じた生田絵梨花は、『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット、『レ・ミゼラブル』のコゼット、『モーツァルト!』のコンスタンツェと続いてきたミュージカル界でのキャリアに、ひと際輝く大役を手中に納めている。トップアイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして活躍している彼女の「アイドル」としての記号がもたらす、どこかこの世の者でない感が、混沌としたエネルギーが満ちる舞台の上で、ナターシャの特別な美しさを際立たせる決め手になった上に、感情表現がより豊かになっていて、激動の日々を過ごすヒロインの変転を表出している。歌も確実に進化し、日本のミュージカルブームの一端を支える人材として、ますますその貴重さが高まった。

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ピエールの妻エレンの霧矢大夢は、享楽的で計算高いが社交界の花形でもある女性像を、むしろ颯爽と演じているのが霧矢らしい。ピエールとナターシャを中心として見た時には所謂「悪女」と言うことになるが、その堂々とした立ち居振る舞いに接すると、己の欲望に忠実なだけの魅惑的な女性に見えてくるのが、いっそ清々しい。硬軟取り混ぜた演じぶりにも芝居巧者らしい自在さがあるし、何より元宝塚歌劇団の男役出身者が、女優になった時にほぼ必ずと言っていいほど通る、低音域と高音域の発声の切り換えを完全に克服したのが感じられ、ますますの活躍に期待が膨らんだ。

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その兄でナターシャに恋を仕掛けるアナトールの小西遼生は、光り輝くと言って構わないほどの美貌を、惜しみなく披露して強烈に目を引く。無垢な乙女であるナターシャが、後先も考えずこの男性にのめり込んでいくことに説得力があり、ヒロインを立たせるという意味に於いても重要な役割を十二分に果たした。複雑な心理描写もよく伝わり、霧矢と共に悪の華兄妹として舞台上に放つオーラは絶大。一部音域で難しい部分があるが、ここまで美しい軍服姿で、しかもダークな香りもにじませて舞台に登場してくれれば、すべては許容される想いがした。

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ナターシャの婚約者アンドレイと、アンドレイの父ボルコンスキー老公爵を二役で演じ分けた武田真治は、冒頭軍服姿で登場した刹那、スッキリとした二枚目感を自然に醸し出して強い印象を残すことに成功している。これがあるからカリカチュアされたボルコンスキー老公爵の描写との落差が笑わせるし、出番としてもポイントポイントでかなり飛んでいるアンドレイの存在を作品に通したのは、武田の存在感あってこそ。思えば現在井上が演じている『エリザベート』のトート役歴代キャストの1人でもあり、更にミュージカルの世界にも積極的に出て来て欲しい人材だ。

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また、ナターシャの駆け落ちを阻止する従姉妹ソーニャの松原凜子の高い歌唱力は、作品の華のひとつになったし、ピエールと決闘に及ぶドロホフの水田航生が見違えるほど骨太になり、歌唱の進化も著しく頼もしい。アンドレイの妹マリアのはいだしょうこが、「しょうこおねえさん」で知られる天然キャラを微塵も感じさせない慎み深い女性をしとやかに演じているし、ナターシャの名付け親マーリャD.の原田薫は、この作品の振付も担うダンサーだが、実は非常にパッショネイトな歌い手でもある持ち前の武器を披露。アナトールの御者バラガのメイリー・ムーの独特の個性が、この作品にベストマッチしたし、楽器演奏や開演前からの客席への練り歩きを含めて大活躍のアンサンブルの面々も、まさに八面六臂の活躍で作品を支えていた。井上のピアノとアコーディオン、小西のヴァイオリン、武田のソプラノサックスと役者たちが巧みに楽器を奏でる様にも特別感がある。
 
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総じて、ロシア文学を徹底的なエンターテインメントに仕上げつつ、普遍のテーマをきちんと残した「ミュージカル」の可能性を更に広げる作品で、今ここにしかない劇空間を是非多くの人に体験して欲しい仕上がりとなっている。

【囲み取材】


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初日を前日に控えた1月4日囲み取材が行われ、ピエール役の井上芳雄、ナターシャ役の生田絵梨花、エレン役の霧矢大夢、アナトール役の小西遼生、アンドレイ役の武田真治が公演への抱負を語った。

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武田真治、霧矢大夢、井上芳雄、生田絵梨花、小西遼生 

──日本初演のミュージカルということで、大変貴重な公演となりますが、明日の初日への意気込みをお願いします。
井上 劇場の作りも見たことのないものになっておりますし、日本のお客様に初めて観ていただくのでドキドキはしますけれども、すごく面白く出来上がっていると思うので、早くお見せしたいなという気持ちでもあります。これまでの稽古の道程がすごく幸せなものだったなと思います。
生田 私自身劇場に入った時にこんなにワクワクしたのが初めてで、それぐらい客席と一体型になっていたり、距離感もすごく近いので、お客様が入って作品がどう作り上げられていくのか、ここから更にとても楽しみに思っています。エンターテインメント性もそうなのですが、作品の内容もそれぞれのキャラクターの人間らしさや、生きることについて語っている作品なので、そのメッセージ性もきちんと皆様の心にお届けできたら良いなと思っています。
小西 作品自体日本のお客様があまり観たことがないような斬新な作品になっていますので、舞台というのは非日常に足を運ぶものでもありますから、新年最初に皆様に、初めてご覧になるという舞台を見せられるように頑張りたいと思います。
霧矢 私はブロードウェイで上演された舞台を拝見しているのですが、ブロードウェイでもすごく斬新で大きな感動を覚えたのですが、日本版は日本版としてとても誇らしい仕上がりになっていると思いますので、皆様たくさん劇場に足をお運びいただきたいなと思っております。
武田 この歳になるまで色々やらせていただいてきておりますが、その中で「こんなの初めて!」と思うような舞台のセットだったり内容だったりするんですね。これは本当に楽しんでいただけると思います。明日が楽しみです。

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──今回は筋肉は見せないのですか?
武田 今日は早めに(衣装を)着ました!(笑)まぁ、誰かが言ったらね(笑)。
井上 ないわけがない!(爆笑)
武田 あるんだ!?(笑)
井上 あるかも知れない(笑)。
武田 いや、そこハッキリしとかないとさ(笑)。
井上 僕もちょっと触れ合うシーンとかあるのですが(武田を示して)、この辺りの筋肉凄いですから!テンション上がってきたら出ることもあるかも知れない(笑)。
小西 日替わり!
武田 ちょっと井上さん!座長! 俺の感情で脱ぎ着可能なの!?(笑)
井上 ナターシャをびっくりさせるシーンとかがあるのですが、今は筋肉は出てませんけれども、調子が出て来たら筋肉でびっくりさせるみたいなことも(笑)。
武田 座長!すみません、これに関してはハッキリさせて下さい!ないです!
井上 はい、ないです!(笑)
武田 もうちょっと舞台に絡めて、オブラートにくるんで何か放り込んでいただい方が我々としては(一同笑)。
井上 待ちきれない感じだよね(笑)。

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──舞台と客席が近いということですが、お客様の顔も皆様からよく見えるのですか?
井上 「コメットシート」と言って普通なら舞台上のところに数十席の座席があるんですけれども、これについてはすべての席が最前列みたいな席なので、本当に僕たちも近くて。見られまくるからどうしたら良いのかわからないのですが、本当に出演者の1人というか、共に体験してもらう、作品の中に入り込んでいただけるのですごく楽しいんじゃないかな?と。まぁまだわからないのですが、初日開けていないから。でもすごい作りだと思います。
──井上さんは「メガネ男子」の役ということで。
井上 そうです。「メガネ男子」なのですが、僕すごく冴えない男の人という役で、原作だと太って頭も薄いみたいな描写なのですが、今回はメガネで猫背で冴えないというところで。本当にカッコいいところが出ないように(笑)、一生懸命冴えない男を頑張ろうとやっています。
武田 元々の手足が長いので、ちょっと肉襦袢が入った衣装を着てもファンシーで可愛らしいですよね。
井上 ありがとうございます。でもこれ何にも入っていないです(笑)。
武田 あら、失礼しました!(笑)
井上 姿勢だけでやっているのですが、でも僕はそうやっていますけれど、皆さん見目麗しい登場人物がたくさんいるので、この作品は見た目にも楽しいと思います。

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──その中で冴えない役というのは、役作りも大変だったのでは?
井上 どうしても冴えてしまうところはありますけど(笑)、そこはもうグッと抑えて(笑)。とは言いながらも実はすごくしっくりきますね。普段は冴えないと言いますか、皆普段からそんなに冴えてはいないと思いますが、仕事上では冴えるように頑張っているので、今回は仕事上でも冴えなくて良いという安心感が(笑)。もう冴える部分は小西君に全部任せて。
小西 来ちゃった!(笑)
井上 自分の役を全うしたいと思います(笑)。でもそれぞれがすごく魅力的です。

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──井上さんと生田さんは舞台では初共演だと言うことですが、お互いの印象は?
井上 とても才能豊かな人だなと思っていたのですが、今回の役は直接の絡みは少ないものの、どこかで見守っているというもので、ただただ眩しいです。綺麗なのはもちろんですが、今の生ちゃんの年齢だから出せるナターシャの輝きというのがね。もし何年後かにまたやれば違う輝きが出ると思うのですが、今しかないこの輝きは唯一無二です。僕が失ってしまったものを懐かしく思い出します。
武田 井上さん、まだある、まだある!
井上 まだありますか?(笑)まぁ、それぞれの年齢の輝きはありますけれども、この(生田の)年齢の輝きはまばゆいなとすごく思うくらい美しいです。
生田 芳雄さんは共演させていただく前は「プリンス」ということで緊張していたのですが、稽古場でもご自身のメガネでいらしていて、頭もボサボサで敢えてオフの感じに寄せていらっしゃっていたので、すごく安心感が大きくて。もちろんカンパニー全体のことも常に広い目で見守ってくださっているし、なんでも頼らせてもらえるような空気感なので、芳雄さんを信頼して皆でついていきたいなと思っています。

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──2019年を迎えましたけれども、皆さんの目標をお訊きしたいのですが。武田さんはやはり筋肉に関して。
武田 筋肉に関しての目標!?いやいや若干最近筋肉を取り上げていただくことが多くて、本業を何か見失いつつあるので(爆笑)。
井上 いやいや、俳優さんとしても凄いです!
武田 この作品でしっかりと演劇界に爪痕を残して、もう1度シフトを正しく戻したい(笑)、というのがあるかもしれません。
──年末の「紅白歌合戦」にもご出演されて。
武田 紅白は…あれは目障りでしたよね。
霧矢 そんなことない!
井上 目立ってらっしゃいました!
武田 まだ人とそんなには話していないのですが、多分人には志茂田景樹さんみたいに映ったのではないかと(笑)。シレッと紅組にいる感じとかも。
井上 素敵でしたよね!真治先輩やってくれるなと!
武田 いえ、本当に素敵だったのは生ちゃんですよ!
井上 生ちゃんね!そうですね!
生田 いえいえ!
武田 本当に素敵でした!

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──霧矢さんは、今年芸能生活25周年だそうで。
武田 えっ?そうなの?
霧矢 よく知っていらっしゃいますね!はい、そうです。
武田 そういうところから自分にも話していただければ(笑)、おめでとうございます!
全員 おめでとうございます!
霧矢 今年はその25周年ということと、この作品を含めて上半期は悪女続きで。私はわりと良い人の役が多かったので、今年は悪女で行くぞ!と思っております。
生田 すごーい!
──今回の役も悪女ということで。
霧矢 そうです。井上さん演じるピエールの妻の役で、愛がなくお金目当てで結婚した酷い悪妻の役でございます。でも悪い役というのは演じるのもすごく楽しいので、新年早々満喫したいと思います。
生田 私の目標はこのナターシャも、歌声もそうですし、感情的にもすごく幅の広い役柄なので、今年はこういう一面もあったんだ!とか、こういうイメージもあったんだ!と思っていただけるように、色々な活動ができたらなと思います。
──年末にも「レコード大賞」から「紅白」とご活躍でしたが。
生田 結構その場を共にするのが最後という(「乃木坂46」の)メンバーが多くなってきていて。すごく寂しい想いもあるのですが、その分新しい子たちもどんどん入ってくるので、私達先輩の方としては幅を広げたり、その子たちを見守ったり手助けしたり、という役割もできるように頑張りたいです。
小西 立派ですね! 
井上 もう先輩なんだね。
生田 そうですね、グループでは。

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小西 僕も先輩方に負けずに頑張ろうと思います。今回井上さんは冴えない男なので、冴えている井上さんファンをかっさらおうかな?と思います。
武田 すごい具体的な目標を!
井上 言ったな!(笑)
小西 (笑)1年はじまったばかりですけれども、1年が終わる頃には皆さんに負けないように頑張っていけていたらなと思っております。
井上 本当に今年もひとつひとつの舞台に一生懸命立たせていただくしかないんですけれども、ミュージカルが注目していただけるようになって、追い風というか、ここ2、3年ミュージカル映画がヒットしたりして、皆さんに観ていただけるようになって。すごく良い風が吹いていると思うので、そこに乗りつつ、日本の文化として更にミュージカルが定着するような1年になったらいいなと。「2.5次元」に負けないように、と言いますかもちろん共存して頑張りたいと思います。

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〈公演情報〉
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ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』
音楽・詞・脚本・オーケストレーション◇デイブ・マロイ
訳詞・演出◇小林香
原作◇レフ・トルストイ(「戦争と平和」より)
出演◇井上芳雄、生田絵梨花、霧矢大夢、小西遼生、松原凜子、水田航生、はいだしょうこ、メイリー・ムー、原田薫、武田真治 ほか
●1/5〜27◎東京芸術劇場プレイハウス
〈料金〉コメットシートS(ドリンク券付)16,000円、コメットシートA(ドリンク券付)14,000円、S席13,000円、A席8,000円 (全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半〜17時半)

【取材・文・撮影/橘涼香】








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